第31話 いざ公国首都『ガンクァ』!露店巡りと運命の歯車

 片道6時間の距離を一日掛けて移動する。

 途中、強そうな魔物は刈り取っていく。


「普通にドラゴンがいたんだけど?」

『縄張りから動かないタイプだったみたいだね。いなくなってるのに気づいたらきっと大騒ぎだろうなぁ・・・』

「刈り取る前に言って欲しかった」


 途中、空間魔法のレベルも上がった様だ。


「結構、時間かかったね」

『いや、レベルは上がる毎に上がりにくくなるから。正直言って異常な速度のレベルアップだよ?余程のことがない限りアオナはもう怪我する事もないと思う』


ーーーーーー

【アオナ】のステータス

魔物服従テイムLV2:魔物に従者の意識をインストールする能力【元の魔物の意識は消滅する】』

空間収納インベントリ:個人領域を空間化し物を収納できる能力』

自動保存オートセーブ:肉体破損時、空間収納内で復元される能力【軽度の損傷は即時その場で復元】*常時発動』

捜索サーチ:魔物、人の位置が分かる』

地図マップ:周囲の地形が分かる。目印を付けることも出来る』

隠蔽インビジブルLV2:姿を見えにくくしたり、情報を隠す事が出来る』

干渉遮断プリズンLV4:対象範囲内のエネルギー干渉を下げる』

多重展開マルチLV2:魔法を複数同時展開する』

『空間魔法LV5:LVレベルが上がる毎に空間魔法の効果が倍になる』

『素質残量4:魔法取得及び魔法レベル上昇により消費される。最大値100固定』

ーーーーーー


魔物服従テイムのレベル、上げなくて本当に良かったの?』

「うん。二人がいれば十分だし、それにやっぱり使役拘束するような相手が増えすぎるのは、ちょっとね・・・二人には感謝してるけど」

『そっか。素質残量も少なくなって来たし、良い判断かもね♪』

多重展開マルチのおかげでレベルアップが早くなったんだよね?」

『捜索と地図とプリズンを常時発動してたから。普通ならLV5とか一生かかっても無理』


 寝てる時も使ってた。魔法レベルが上がると消費マナは減る。賢者ラッド様はそこも加味していた様だ。


「同じ魔法も多重展開出来るんだっけ?」

『消費マナが爆上がりするけどプリズンの多重展開はヒスイの全力すら無力化するから、

理論上無敵だね』

「凄さがイマイチわからないなぁ・・・」

『首都が吹き飛ぶ攻撃を受けても無傷って言ったら分かる?』

「うわぁ・・・というかヒスイの本気って首都吹き飛ばせるんだ・・・」

『ヒスイの出現は本気で人類滅亡の危機だったんだよ』

『どやぁワン♪』

「たぶん褒めてないよ?」


 万全の状態での公爵との対話のためだった。

 対話の準備で首都が吹き飛ぶ攻撃に耐えれる様にするのはどうかと思うが・・・。


 オッサから公爵の情報は仕入れていた。

 公爵の名前はバレイ・ショークイン。

 拭いきれないジャガイモ感。それは男爵なのでは?と心の中で思うアオナ。

 ちなみに領主は男爵。ルイスの父、レイスは男爵である。


 公国首都は『ガンクァ』という名で呼ばれている。


 バレイは、戦の中でその地位を勝ち取って来た豪傑である。

 一騎当千の働きを評価されて引退後、公国を任された。引退こそしたものの未だに、その実力は国の頂点。誰もバレイ公爵に一騎打ちで勝てる者はいないと言われている。

 そんな英傑と無断侵入して語り合おうと言うのだ。万全の対策も必要というものだろう。


 途中、魔物を刈り取っていた事もあり丸一日、移動に費やした。

 公国首都に着いたのは、もう日も落ちる時間だった。


「疲れたね。ヒスイは大丈夫?移動、ありがとね」

『余裕だワン♪』


 虚勢ではなく本気で余裕そうだった。

 

 公国首都は街の何倍も大きな都市。一万人近い人が生活していた。

 一億の人が住む島国にいたアオナにとってはそれほどかもしれないが、それでも公国の街を一通り巡った彼女はこの都市がこの世界の重要拠点の一つである事を理解した。


 暮らしぶりは、意外にもツサーツァの村と変わらない感じだった。

 裕福な暮らしをしているのは、ごく一部の成功者のみ。

 表のメインストリートは露店が並び賑わっている。夕食は屋台で済ませる事にした。


 雑多なモノを販売している露店もある。旅商人が各地で集めた品々を見て回るのはアオナにとって楽しみの一つだった。街でもそれを楽しんでいた。

 中には掘り出し物があったりする。


 魔道具は一般普及している。そもそも魔道具とは人が魔法を使うプロセスを魔石を使い再現する事にある。例えば、熱上昇ヒートの魔法は唱えると世界のシステムが作動して決まった物理法則の挙動を起こす。それを魔石によって引き起こす。


 今の文明で作られる魔道具は、単体の非常に簡易なモノだけだ。

 過去文明は魔道具によって滅びた。その為、その技術は封印されて失われた。

 そんな中で、物として残されたロストテクノロジー。旧文明の魔道具はアーティファクトとしていくつも残されていた。それは野菜の皮を剥くくだらないモノから、人類を脅かし世界のバランスを崩す程の力を持ったモノまで存在する。


 黒竜の血の杖や、煌めきのクリスタルオーブもその一つだ。

 アーティファクトは使用者を選ぶモノも多い。現行魔道具は誰でも使える汎用品。

 特に強力な魔道具は、時空魔法属性に依存するモノが多かった。

 今のこの世界では非常に珍しい時空魔法属性。しかも複雑な使用方法があるモノも多く、

つまり使い方の分からない使えないゴミ扱いされているアーティファクトが多くあるのだ。


 そんなアーティファクトが露店で見つかる事がある。それをアオナは回収していた。


『あ、またアーティファクトだ。あれはヤバいね、空間に干渉するやつだ。正しく使うと対象を完全封印出来る。アオナは自力で脱出できるけどね』


 賢者ラッド様はほぼ全ての魔道具を看破する。マジ賢者!


「おじさん、これなに?」


 アオナは先ほどのアーティファクトを販売している商人に声をかける。


「あぁ、それは旅先で見つけた宝石箱だね。綺麗だろ?」

『どうやらアーティファクトだと気づいていないっぽいね』

「そうね。いくら?」

「そうだな。可愛いお嬢ちゃんに免じて、一万マナでどうだい?」

『ドラゴンも封印できる伝説級の魔道具がただのアクセサリー価格か・・・製作者が知ったら泣くだろうね。絶対生きていないだろうけど』


「ん〜、買っちゃうとお小遣いがなくなっちゃいそう」

『うわ・・・また値切ろうとしてるし・・・』

「しかたない。今だけ九千マナに値引きしてあげよう!」

「八千マナなら今すぐ買う」

「・・・八千五百マナ!これ以上は無理だ」

「うん。それで貰うね」


 支払いを済ませて露店を去る。


『お金に余裕もあるのに絶対に値切るよね・・・』

「どうせ仕入れ値は、あの半額以下よ。ゴミが高く売れたと今頃、喜んでるんじゃない?」

『物の価値って曖昧だね』

「うん。必要とする人に適正な価格で平等に正しく行き渡れば良いんだけどね・・・」


 この世界では、重税を課せられた村では明日の食事の為に命をかける。

 その側で、お腹いっぱいだからと貴族が豪華な食事を捨てる。

 いや、どの世界でもそうなのだろう。当たり前なのだ・・・。


・・・


 露店巡りを終えてギルドに宿の手配に行こうとしたその時、暗い路地で少年がガラクタを並べていた。アオナはそれが妙に気になった。


『露店の出店許可を取れないから衛兵に気付かれない様にコッソリと見よう見まねでやってるみたいだね』

「これはどこで仕入れたの?」


 アオナは少年に声をかける。


「父さんの形見、父さんが遺跡から手に入れた。商人にはゴミだと言われたらしいけど父さんはこれはアーティファクトだと言っていた」


 旧文明の遺物、遺跡。それはこの世界に無数に存在する。そこは魔物の巣窟となっている事も多い。形見・・・つまり少年の父親は・・・。


「安くても良いから買って欲しい。明日のパンを買いたいんだ・・・」

「・・・商人が絶対に言っちゃいけないセリフだね。君、母親は?」


 このままだと彼は、いいカモにされるだろう。


「仕事。今も必死で働いてくれている。少しでも助けになりたいんだ・・・」

『なっ!?何コレ・・・ヤバイ品物ばかりだよ!?特にアレがヤバい・・・』


 それは【アーミラリ天球儀】だった。

 暦の計算にも用いられた天球儀。星たちの動きを見ることで今生きている世界線とは別のパラレル世界を調べられる魔法具。


『相場だといくらくらい?』

『値段なんてつけられないよ・・・。あれは・・・予知能力とほぼ同義だから』

『マジ!?・・・買おう』


「少年、それらはゴミだ。でも私は三万マナで買ってあげるよ」

『え、可哀想な少年を騙してそんな二束三文で・・・!?それは流石に酷すぎるよ!?』

「ぜひ買ってくれ!!」


 少年はモノの価値など分からない。簡単に騙される。


「・・・。形見なんじゃないの?」


 アオナは少年に問う。


「思い出は僕が生きていないと成り立たない・・・と僕は思う。父さんへの想いは大切にしたい。でも僕や母さんが死んだら父さんはきっともっと悲しむ」


・・・


「その通りだろうね」


「買ってくれるのか?」


 少し考えた後、アオナは再び少年に話しかける。


「それはアーティファクト【アーミラリ天球儀】よ。他のも優れた旧時代の魔道具ばかり。

あなたは騙されたの、わかる?」

「なっ!?え・・・でも、じゃぁ、なんで・・・?」


 少年は騙された事に驚き、そしてそれを教えてくれた女性の意図が汲み取れなかった。


「四千万マナで買うわ。それにはその価値がある」


 人はマナをほぼ無限に蓄積出来る。ただ魔法として使用するには魔力に変換する必要がある。変換は多い人で一日一万程度。亜人は高い変換速度をもつ。

 黒竜の血の杖はそれを毎日十万、空気中から魔力に変換する。

 蓄積したマナは紙幣の様にこの世界ではやり取りされる。

 アオナは刈り取った竜や強い魔物から得たマナで一億を超えるマナを保有していた。


 少年は大金を得た。


「いつか、真実を知りたくなったらツサーツァの村へ母親と一緒においで。まずはそのお金でしっかりと生きて知恵と力を蓄えなさい」


 そう言い残してアオナは支払いを済ませて少年と別れた。


 この少年の名前はノイス。後に彼はオットの護衛として雇われる。

 この時、少年は運命の歯車に組み込まれたのかもしれない・・・。


・・・


『てっきり、また拐っちゃうのかと思った』

「母親もいて、価値のあるモノも持っていたのだから正当な取引で彼は生きていける」

『それこそ騙して、いつもみたいに破格で買い取るのかと思ったけどなんでしなかったの?同情?』

「違うよ。彼にはきっとその価値があると思った。だから支払っただけ」

『まぁ、あのアーティファクトは四千万でも格安だけどね♪』

「そっか。ちょっと悪い事したかな?」

『今の人類に、アオナ以外にはあの価値は分からないだろうから適正価格かも?』

「モノの価値って本当に、難しいね」


・・・


 アオナは時間魔法LV1を覚えた。

 それは【アーミラリ天球儀】を使用するのに必要だった。

 コレによってアオナは魔法の素質残量を使い果たした。

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