第30話 猶予の六日間

 受付嬢はこのギルドの現場管理者だった。名前はタマモ。

 末端はギルドの真実を知らない。

 タマモはどうやらギルド中でもとても重要なポストにいる様だ。

 

「オクサの就職先はホワイトみたいね」

「ツサーツァ村の新人さんですね。治癒師は非常に有り難く、とても勤勉な姿勢は高く評価されてますよ♪」

『え・・・情報が早すぎるし正確すぎ!?』

「もしかして・・・ギルドって通信手段が・・・」

「はい♪ありますよ。通信の魔道具」


 ギルドは親機であるアーティファクトを保有しており各ギルドは子機を所持している。子機の数は増産可能。これによって全ギルドはこの世界ではあり得ない程の情報を収集出来ている様だ。


「うわぁ・・・。えっと領主の指名手配ってどうなってます?」

「本日、領主様より持ち込まれた案件ですね。獣人の4名様とルイス様には莫大な懸賞金がかけられていて捕縛には大金が払われる内容となっています」

「取り消しは出来ませんか・・・?」

「容疑内容は窃盗と誘拐ですが彼女達は行ったんです?」

「してないですね」

『したのは両方ともアオナだね♪』

「であれば最寄りのギルドに出頭して頂ければ指名手配は解かれると思いますよ」


 まるで警察の様だ、と言うかギルドが警察も兼ねている。

 やはりギルドこそがこの世界の基盤となっているのかもしれない。


「え、どうやってそれを証明するんです?」

「事実確認の魔道具があります。これもトップシークレットですが。容疑が晴れた場合は依頼者にその旨をお伝えして、不服があれば依頼者本人で証拠を探して頂くなりになります」


 言うなれば嘘発見器。本人の過去の記憶を本人が無意識に照合して、問われている事が真実かどうかを知る魔道具。問いに対しての真偽しか分からないがとても貴重だ。


「言っちゃってよかったんです?」

「超特例ですね♪」

「なぜですか?」

「獣人を救い出してくれたお礼ですね。中立の立場から干渉が出来ず胸を痛めていました」


 親戚と言う訳ではないが同じ獣人としてなんとかしたいと思っていた様だ。


「あとお詫びです♪」

「え?なんの?」

「新種の竜種の発現は緊急の最上位案件です。各ギルドにすぐに伝達されました」

『ヒスイの事だね』

「それが突如消えてしまい、ある噂が出始めました。白いローブを着たエルフの女性」

『誰だろうね、その怪しい人物』


 アオナがついた大嘘である。


「そして、もう一人怪しい人物が浮上しました。竜が発現した同日に最寄りの村に突如現れた戸籍登録もしていない、ギルド証も持たない魔法使い。しかもその魔法使いは本来、二日以上かかる距離をまるでワープするかの様に次の日にはフウェンの街に現れ、さらに次の日には高難度クエストをいくつか消化。ついでに納品する魔物はどれも無傷」


・・・


『誰だろうね、その超絶怪しい人物♪』


「私ですねぇ・・・」


 アオナが思っている以上に、この世界のギルドは優秀だったようだ。

 登録しているのだから当然、彼女だとバレている。アオナは観念したようだ。


「この件に関しましては公爵様にお伝えしない訳にはいきませんので後日、通達する予定となっております」

「後日?」

「新種の竜の案件とは違い緊急ではないとこちらで判断させて頂きましたので通常伝達となります。馬車での片道時間を加味した六日後の伝達を予定させて頂きました♪」


 これは・・・アオナにとってどう考えても都合の良い事だった。


「お詫びどころか、感謝しないといけないですね」


 本来なら竜種の絡む緊急案件として向こうに先手をうたれる可能性が高かった。

 むしろそうなるはずだった。そうならなかったのは・・・


「原初の人々が纏っていた神のデフォルト。その服は我々の間では伝承そのものなのです。それだけでも貴方に肩入れする理由には十分なのですよ」


 彼女を取り巻く環境にギルドが加わる。ギルドは彼女を受け入れた。

 そして、彼女はまた一歩進む。ポチタマとの思い出はこの胸の中にある。

 あの子達は、精一杯に生きてその証を残し、それは今も続いている。

 それがただ、嬉しかった。


「せっかく頂いた猶予ですので、六日後に公爵の所へお邪魔する様にします」

「今後ともギルドを宜しくお願い致します♪」

「ところで、タマモさんってギルドの重役ですよね?なんでこんな所にいるんです?」

「ここは現人類の末端であり最後尾さいこうびです。徹頭徹尾、何事も最初と最後が大事なのです」


 どうやらギルドにとってここは重要な場所と判断されている様だ。


・・・


 こうしてアオナ達はギルドを後にした。

 そして、メイド二人と門番だった二人、合わせて四人を連れてツサーツァの村へ。

 そして獣人と一緒にギルドに出頭。無事、無罪放免。そして報奨金まで貰ってしまった。

 マッチポンプもはなはだしい。


 メイドと門番は村に住人登録をして、ついでにギルド証も発行して貰った。

 これでメイドと門番は自由に活動出来る。メイドは率先して獣人達の代わりに買い物などをしてくれる事に。家は手狭になったのでもう一軒購入。大忙しである。


 これらを全てその日に済ませて夕食に。

 なぜか定番となりつつあるオッサがそこに参加する。


「おい。また増えてるんだが?拐っちゃうオバケは節操がないのか?」

「わざとじゃない。強いて言うなら世界が悪い」

「何を言っているんだ・・・?」

「ところで未だにこの村の村長に会えてないんだよね。沢山、人を連れて来ちゃってるし挨拶くらいした方がいいかな?」

「ん?何を言っているんだ?」

「いや、だから村長に挨拶を・・・」



「村長は俺だぞ?」


・・・


「「「ええええぇぇ!?」」」

『えええぇ〜!!?』


 オクサも獣人も全員が驚いていたので、アオナが悪い訳ではなさそうだ。


「こんな人相の悪い村長がいる訳ないでしょ!」

「人相は関係ないだろ!柄じゃないのは分かっているから普段は冒険者をしている。

 やる事なんて対してないんだよ。事務が得意な奴もいるから任せている」

「そんなんでいいんだ・・・」


 実際問題、税金の徴収はギルドが十分に担っている。

 問題は随時対処しながらシステムは更新されている。それに適した文官もいて、皆が各々の役割を果たしている。ならば統治者とはなんなのか?

 上役、今回で言うならば公爵との顔訳、それ以外にはなかった。

 だからオッサはそれのみに従事し、それこそアルバイトの様な給与のみでその役割を果たした。


「昔は冒険者として活躍していてな、公爵にも貸しがある。その流れでこの村を任された。

 やるからには村人には幸せになって欲しいが俺に出来ることなんて知れている」


 彼は彼なりに出来る事をやっている。そして過剰に利を得ようとはしなかった。

 それはもしかしたら、理想の統治者の有り様の一つなのかもしれなかった。


・・・


「明日はどこで人を拐ってくるつもりだ?」

「人聞きが悪すぎない?別に人を拐いに行く訳じゃない。でも残りの村の様子を見てくる」


 次の日、

 ルイスの領地となる予定の残り二つの村へ向かう。村は重税で苦しんでいた。

 これはこれから解消される。しかし、村はひっ迫していた。

 アオナは問題になっている特定危険魔物を根こそぎ刈り取る。そしてギルドで売る。

 ついでに手当たり次第、見かけた魔物も刈り取りそれはギルドを通して村の資材として流通する。大量に供給された素材は安く卸されたがアオナは気にしなかった。

 魔物により制限されていた活動範囲も解消された。


 更に各村で五人ずつやっぱり拐って来た。

 両親を亡くした子供。村長に虐げられた少女。村長は脅迫し今後、真っ当な運用を約束させる。奴隷として連れてこられていた獣人も三人増えた。後は村長に反旗をあげた勇敢な男。ヒスイに乗って往復。この間の日数、僅か三日・・・。


 この時既に、赤いローブの魔法使い。赤いローブの女神の噂が広まり始めていた。


・・・


「疲れた・・・」

『そりゃ、あれだけ派手にやればそうなるよね』


 ラッドは呆れていた。


「私は悪くない。フラグがそこら中に生えてる・・・」

『誰も回収しないのを根こそぎ拾ってるんだから、そりゃそうなるよ』


 家は三軒、人は十七人になっていた。

 アオナ、オクサ、獣人四人+三人。元門番二人、メイド二人、少女一人、両親を亡くした男の子一人、その妹一人。勇敢な男一人。計十七人。


『このペースでいけば一月で村、一年で街が出来るね』


 デイリーで五人。一月で百五十人、年間で千六百五十人。

 これは・・・あながち冗談ではなかった・・・。


・・・


 その後、残り三日で公国の三つある街のもう一つへも訪れた。

 領主は堅実で公国に真面目に従事する男だった。牧歌的な暮らし。

 とても平和だった。


「こんな街もあるんだね」


 のどかな風景。アオナは小高い丘の上に座りそれを眺めていた。

 風が気持ちいい。


 強力な魔物が何匹かいて、討伐できるものがおらず困っていた様でアオナ解決した。

 街の人々に心から感謝された。


 広い畑。広大な草原。遠くにうっすらと見える山脈。小川、森、そして・・・マッチョ。

 ん?マッチョ?

 

「ナニアレ・・・?」

『オークのユニーク個体かなぁ・・・?』


 オーク、豚と人の中間の様な見た目の魔物。低い知能を持ち狡猾に人を騙す。

 それは稀に人の様に個性を示す。恐らくそれである謎のマッチョ魔物。

 そして、それと対峙している冒険者五人組。


「くっ!オーク一体だと舐めていたが・・・こいつ、強い!!」


 マッチョオークはポージングを決めながらも冒険者達の攻撃を筋肉で弾き返し、反撃を行う。魔法も効きがイマイチだ。分厚い筋肉に阻まれる。


「ぶひひひぃ♪」


 ニタニタとした貼り付けた様な気持ち悪い笑顔。その視線は冒険者の中の女性二人に注がれる。魔物は人を襲う。それはある種の本能の様だった。そして、魔物と人との交配種。竜種と人の子は竜人と呼ばれ、妖精と人の子がエルフ。獣人は原初の獣人の血統に、世代を重ねる中で魔物の血が若干混じっている言われている。

 妖精族は厳密に言うとカテゴリーは魔物だけど、少し特殊。彼女達はアイを真似た存在。

 彼ら交配種は総称して亜人と呼ばれている。

 弱い魔物では人との交配はできない。当然、オーク程度では無理だ。

 帝国は、亜人の国だ。人口は王国より圧倒的に少ないが個人の力は王国を圧倒する。

 

 未だ、王国と帝国の戦争の根は深い・・・。


 話を戻して、マッチョオーク。アオナが刈り取った。


「あのままでは全滅だった・・・ありがとう!!」


 五人組冒険者。牧歌的な街で育ちながらもその保守的な生活を飛び出したがっていた。

 どうやら、この街では彼らは収まりきらない様だ。

 そして、その中の女性の一人、レイラは・・・エルフだった。

 しかも、リーダーのガインは竜人。街のはみ出し者パーティ。鼻つまみ者にされながらも街の為に冒険者をやっていた。


 アオナは、彼らも保護した。


 あともう一つの街でも五人、成人を拐って来て。計二十七人に・・・。

 家もまた増やした。

 

「おい・・・どこまで増やす気だ?いや、村はいま拡張中だしお前らは働き者だから大歓迎だし助かってるんだが・・・。移民も増えていて人口も増えているしな・・・」


 オッサは今、大忙しだ。

 ギルドに作って貰った猶予の六日を使ってアオナは公国の全容を把握した。


 いよいよ明日は・・・公爵の元へ向かう。


 アポイントも何もとってないけどね。

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