第29話 ギルドの真実

『公爵に会いに行くの?』


 ラッドはアオナに問いかける。


「うん。もう後手に回って後悔はしたくないからね」

『あれはアオナのせいじゃないけどね。まぁ、いいや。でもメイド二人を村に連れて行くんだよね?』

「うん。今日は村に戻って明日、公国の首都に向かう」


 公国は村や街からかなり距離がある。フウェンの街やツサーツァの村はまさに辺境だ。

 だからこそ戦争の影響が少なく徴兵もあまりない。

 更に、公国と王国の間には大きな山脈がある。この為、公国はある種の独立した格好を取れている。支配領域は広げたい、が連携の取りにくい土地。そこで独立した公国を公爵に持たせた。そこで数世代に渡って人々が増えて街が増えて村が増えた。


 その増えて広がっていった末端がツサーツァだ。


「公国の首都まではヒスイでも片道6時間、馬車だと4日はかかる距離かぁ」

『ここからでも4時間、馬車で二日以上かかるね』

「明日は一気に公国の首都を目指すよ」

『焦りすぎてない?冷静にね』

「大丈夫。私はいたって冷静」

『ん〜・・・。大丈夫そうだね♪でも無理しないでね』


 ラッドはアオナの顔を覗き込み、少し考えた後、そう結論付けた。

 彼のその判断は・・・間違ってはいなかった。


「ルイスはこのまま、使用人との連携と引き継ぎ。恐らく、領主と共謀して悪さしてた奴もいるから気をつけてね。一応、通信手段として魔道具の腕輪を渡して置くから何かあったら連絡して』


 ラッド先生がサクッと腕輪を作った。指輪だと男性に渡すのは躊躇われた様だ。

 そして、アオナの予想は当たっていた。領主と共に悪事を働いていた執事がいた。

 他にも数人の共謀者。一時的に領主邸の全ての人は拘束した為、大きな問題はなく解決した。そして、信用できそう人で再編成を行い治政を正していく。

 フウェンの街は・・・ここから生まれ変わる。


「さて、私達はギルドへ向かいましょうか」

『あ、そっか。領主の奴、指名手配を出してるんだっけ?ノコノコ出てって大丈夫?』

「私は直接は顔を見られてないから、ルイスと獣人の子が対象じゃないかな?それも含めて確認しておきたいからギルドへ行こう」


 街のギルドにつくと以前、きた時と同じ受付が迎えてくれた。


「先日は特定危険魔物討伐をありがとうございました。本日はどういったご用件でしょうか?」

「覚えてくれていてどうも。今日は別件でいくつか質問したくて」


 どうも只者ではない雰囲気の受付嬢。ん〜・・・あれ?なんだか見覚えがある気がする。

 誰だっけ?こんな辺境に要監視対象の人物なんて・・・。


「よければ奥でお話を聞きましょうか?他に聞かれてはまずいお話もありそうですし」

「助かります」


 奥の応接室の様な場所へと案内された。受付は別の人に代わって貰った様だ。

 椅子に座ると、先ほどの受付嬢がお茶を入れてくれた。

 そして椅子に座って向かい合う。


「ではご用件をお聞きしましょうか」

「まずは、ここの領主が横領をしていた件について。ギルドはどう関与してる?」

『どストレートに聞いちゃうの!?』


 アオナには何か考えがある様だ。


「当方ギルドでは、領主が決めた税率を適応したまでです。その土地での税率は統治者が決めた内容に従う決まりとなっております。領主様は税率を上げる際にギルドに多額の寄付を下さいましたがあくまで寄付ですし、そんなものを貰わなくても提示した税率に従います。ギルドはあくまで中立です」


 確かに、ギルドは各地にあり独自のネットワークを持っている。その規模、発言力はある意味国以上になる。公国にも王国にも、そして帝国にもギルドはあるのだ。

 戦時中の両国に共通して根を張る組織。普通に考えても異常ある。


「領主をとっ捕まえて牢屋にぶち込んで、息子のルイスを今後の領主にしようと思ってるんだけど」

『全部、言っちゃうんだ!?』

「領主の世代交代は公爵様への宣言によって通達されて初めて更新となりますので現時点ではルイス様の発言では対応しかねますね」

「驚いた。本当に中立なのね。全部、教えてくれるなんて」

「そうですね。こちらにはなんの落ち度も悪意もありません。あくまでシステムで動いています」

「敵対せずに済んでよかった。正直、国よりも敵に回したくない」


 物流の中心はギルドだ。ギルドを通さない商人もいるが、どれもギルドを超えるものではない。圧倒的に公平で公正なシステム遵守の組織。絶対的な信頼により全国民から支持されている。公正なシステムであるギルドとの敵対は、すなわち自身を悪とする行為だ。


「近日中に領主はルイスに変わる予定だからその時は宜しく」

「事前にご通達頂けて助かります♪」


 懸念していたギルドが悪意を持っている可能性は消えた。

 しかし、ここで少し疑問が湧いた。


「ギルドにはトップ、経営を行う役職とかはないの?」


「ギルドのトップはシステムです。営利目的の組織ではありません。人件費を含む必要経費を税金とは別に全ての利用者から利用頻度に合わせて過不足なく回収するシステムを組んでいます。雇用と業務範囲の判断の為に現場責任者は各ギルドに配置されています。なおギルド職員の給与、報酬は働きと貢献度によりシステムによって自動采配されます。またその報酬はその土地での平均的生活水準を参考に判断されます」


 何この圧倒的情報量・・・。受付嬢、メカなの?


「システムに反した行いはシステムによって暴かれますのでヒューマンエラーによる不誠実な行いはまずあり得ません。ミスはミスとして別の形で補填されて利用者に還元されて長期計画の中で精算されます」


「・・・ギルドは誰が創ったの?」


「これは伝承のお話になってしまい事実関係を確認しようのない内容になってしまいますが宜しいでしょうか?」


「はい。問題ありません」


「あなたならお話しても良いと判断しました。黒髪、ブラウンの瞳。突如現れた『黒竜の血の杖』を持つ女性。そして伝承にあるその服、神のデフォルト。あなたは神に縁のある存在であると私は判断します」


 そこまで話すと、彼女は帽子をぬいだ。そこにはまるで猫の様な耳があった。


 彼女は・・・獣人だった。


「ギルドの起源は、原初の神が作り出した最初の人類とされています。神が創りし人々が生活する上で創り出しその歩みと共に蓄積し続けたシステム」


 あ・・・そういう事か・・・。


「一説によると、その神の創り出した最初の人類はこう呼ばれています。

『ポチタマ』と・・・」


 道理で見覚えがあると思った。

 彼女は、ギルドの中枢は・・・『ポチタマ達の末裔』だ。


***神界***


「ギルドって・・・そうだったんだ・・・」

「私達も世界の細かい所までは監視出来ていませんからねぇ」

「私は知ってましたよ?」

「言ってよ!!?そっか、あの子達の意志は受け継がれていたんだね」

「元々は我々がポチタマ達の生活を見守るにあたって色々とアドバイスした結果ですし」

「マナによる貨幣の仕組みを物々交換以外の手段として教えたのが発端ですね」

「それとポチタマをリーダーにして公平なジャッジをする仕組みも残ってるかも?」

「国はその文明が築く仕組みだけど、ギルドはもっと根源的な所で継承されていた」

「そう言えば、そもそもいつも国が出来る前からギルドはあったね・・・」

「基盤なき一足飛びの人類ですから、オーバーテクノロジーなギルドシステムのおかげで国は成り立っている、という事なのかもですねぇ〜」

「さて、アオナはギルドとどう付き合っていくのかしら♪」

「敵対はなさそうでよかったです」

「まだ、わからないわよ?」

「不穏な事言わないで欲しいですぅ〜・・・」


 継承される想い。

 それは終わりがあるから尊い。

 終わりがなければ、それは継承ではなく伝達になる。

 継承と伝達。

 進化。変異。トライアンドエラーのエラー。

 そこにはオリジナルの喪失を尊びながらも、だからこそ真剣に生命と向き合う姿がある。

 彼女はこの世界の生命に終わりを創った。


 きっと彼女が選んだ、受け入れた『死』のシステムは・・・正しい。

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