第28話 アオナの誤算

 オッサも交えて、新居で夕食を食べながら作戦会議。

 食事は少し豪華にした。


『アオナ、料理出来るんだね』

「必要性があれば嫌でも身につくよ。美味しい方がお得だし」


 たくましい。料理はオクサと獣人達も手伝った。

 食べながらのつもりだったけど、幽閉されていた者達は食べるのに夢中だった。

 そりゃそうか。仕方なく食べ終えてから仕切り直した。


「獣人に偏見はないのですか?」


 獣人達は困惑していた。


「私にはケモ可愛い人にしかみえないよ」


 本心の様だった。


・・・


 男の名前はルイスといった。

 領主の息子であり父の行いに反抗し地下に幽閉されていた。

 世間的には病弱で病に伏していると言われている。大嘘である。


「この世界にも病気ってあるんだね」

『主に魔物による毒が原因だね。あとは先天的なマナ循環の不良』

「なんでそんなのがあるんだろう」

『魔物は進化の中で毒を獲得した。マナ循環の不良は制御出来れば魔法の天才になる』

「制御できるの?」

『今の人類にはまず無理、だから病だね。でもこれも人の進化の一端なのかも』

「多様な進化で生まれる可能性と弊害・・・かな」


 ルイスは病ではなかった。そして、好感の持てる誠実な青年であった。

 領民にも慕われ、陰では早く彼が領主についてくれれば・・・と言う声も。

 だからこその幽閉だろう。

 

「ルイス、領主になる気はある?」

「父がこのまま治政を行うくらいなら・・・ただ父も黙って椅子は引き渡さないだろう」


 領主は貴族であり世襲制らしい。つまり父親が亡くなれば・・・。


「生前に引き継ぐ方法ってあるの?」

「多くは本人の意志で公爵様の前で宣言する。基本的には認められる」

「悪事を暴いても、爵位を剥奪されてまた変なのが来ても困るよね」


 ルイスがやる方が良い気がする。


「しかし、あれだけの横領。なんで誰も指摘しなかったの?」

「公国の首都への街道整備費として税金を上乗せしていた」

「公共事業の予算を横領とか最低だね」

「祖父の代からの積立も切り崩していた。罪は重い・・・公爵に伝われば一族纏めて死罪だろうな」

「ルイスは暫くしんどい思いをして負債を背負う事になるけどいいの?」

「責任を取りたい」


 とても誠実な人の様だ。


「明日もう一度、領主邸に忍び込んで領主の捕獲だね」

『結局、荒事になったね』

「ルイスがいなければ公爵にバラすだけだったし」

『そうだね』

「ところでそのエルダーラットは大丈夫なのか?魔物を飼うなんて聞いた事がないんだが」


 オッサはラッドを見つめる。この際だから隠蔽を解いてみせた様だ。


「彼は私の従者。私の従僕だから大丈夫」

『もう少し言い方はないの?まぁ、いいけど。宜しくね♪』

「お・・・おぅ。宜しくな」


 困惑しつつも受け入れるオッサの順応性は異常。


「オクサは明日は仕事?」

「そうですね。日中はギルドで働いていますから」

「獣人の四人が村を歩き回る訳にはいかないね」

「そうだな。この村は比較的、偏見は少ないがそれでも問題が起こる可能性は否めない」


 ツサーツァの村は王国から最も離れている。

 位置関係としては、帝国、王国、公国、フウェンの街、ツサーツァの村だ。

 公国周辺には三つの領主が統括する街がある。そして各街には更に三つの村が付随する。

 だからまだ人族以外への偏見は少ない。戦争に関わる人々はそれこそ・・・。

 

「もうアオナが国を作った方が早いんじゃない?」


 ラッドは軽く言う。


「出来ればそんな面倒な事はしたくないかな・・・」

「とりあえず、暫くは獣人四人は家で待機で買い物はオクサにお願いする感じだね」

「そして明日はルイスも一緒に領主邸に侵入という事で決まりね」

「なぁ、領主のいる街は馬車でも一日かかるんだが、なんで普通に日帰りなんだ・・・?」

「僕のおかげだワン♪」


 ヒスイの姿を見てオッサは泡を吹いていた・・・。


・・・


 翌朝、ルイスを乗せて街へ。朝は少し早めに朝食をすませて出発した。


「門番の人が変わってるね」

『昨日に責任取らされたのかも・・・』


 昨日と同様にダイナミックお邪魔します。

 中に入ると昨日より明らかに使用人が少ない。


「領主はいるのかな?」


 どうやら領主は街ギルドへ出向いている様だった。


「嫌な予感がする・・・」


 アオナ達は地下へ向かう。

 そこには・・・あの時にいた使用人が地下には押し込められていた。

 そして・・・あの時に見かけたメイド服の二人。彼女達は傷だらけで鎖に繋がれて裸で・・・。暗い目で涙も枯れた目をしていた。彼女達はおそらく昨晩・・・。


「っ!!?」

『どうやら、昨日の責任を使用人達に押し付けて無茶苦茶したみたいだね・・・』

「メッセージはちゃんと伝わらなかったみたいね・・・私のせいだ・・・」

『アオナのせいじゃないよ。領主の奴のせいだ!責任を感じる必要はないよ?』

「昨日、あの時点で拘束するべきだった・・・私のミスだ・・・」


 アオナは顔面蒼白だった。それ程に地下の様子は酷いものだった。

 メッセージを無視し使用人に八つ当たりを・・・。

 その行いは許されるものではなかった。


「とりあえず、この人達の治癒をお願い」


 すぐにラッドが体の傷を治していく。

 しかし・・・心の傷は治癒魔法では癒えない・・・。無表情で焦点の合わない虚を見るメイド服の女性の表情が、アオナの心に焼き付いた。


「責任は・・・とるよ。領主は・・・許さない!」

『さっきも言ったけど悪いのは領主だよ?忘れないでね」


 地下に押し込められた使用人十数人程に事情を説明をする。

 これから領主を無力化する事、そして・・・場合によっては・・・。


・・・


「帰ってくるまでに他の使用人を掌握しよう」


 全員捕獲して無力化した。アオナのプリズンからのラッドのパラライズが無敵すぎる。

 そして、マップによる索敵で残さず捕獲。領主の帰りを待つ。

 その間、ルイスは使用人達と話し合い。

 傷ついたメイド二人と門番二人、計四人は村に連れて行く事に。

 完全に拐っちゃうオバケである。


 そして、ついに領主が帰ってきた。


「クソっ!あのギルド職員め!適当にあしらいよって。まぁ、いい。指名手配は済んだ。

 見つけたらただじゃおかんぞ!おい、メイド!風呂の用意をしろ!!」


干渉遮断プリズン

麻痺パラライズ


 無力化された。ちなみに護衛に高レベルの冒険者を二人連れていたが・・・


「な、なんだ?足元が・・・」


 すっ転ぶ高レベル冒険者。床の摩擦係数がゼロになっているので立っていられない。

 ちなみ音も遮断するから声も聞こえないので、あくまで予測である。


「くっ!私が魔法で・・・あれ?魔法がでない!?」


 魔法発動の初動であるマナすら発生しない。つまり・・・何も出来ない。

 アオナは空間魔法レベル4、干渉遮断はレベル3になっていた。

 常に地図、捜索、干渉遮断を使い続けていた賜物である。

 しかし・・・干渉遮断は無敵だなぁ・・・。アオナは常に自分の周囲にそれを展開している。足元だけ対象外にする事で歩いている。足への攻撃は致命傷にはならない。

 ラッドが即時回復する事だろう。まぁ、死んでも生き返るんだけどね・・・。


 もう戦闘が戦闘として成り立たない。しかもヒスイがいる。

 そもそも、ヒスイが本気で暴れれば人類が滅亡する。勝負になっていないのだ。


・・・


 領主は地下の牢獄に閉じ込めた。


「復讐、する?」


 アオナはメイド達に問う。

 おそらくそれに意味はない。それをしても傷は癒えない。それでも・・・


「よし!まずは殴ろう♪」


 アオナは鎖に繋がれた領主の頬を右ストレートで打ち抜いた。


『えぇ・・・?それは如何なものだろう・・・』

「さぁ、二人もレッツトライ♪」


 アオナはメイド二人を促す。

 そして、二人は思いっきり・・・その拳を領主に打ちつけた。


「どう?少しは気分は晴れた?」

「・・・少し。でもほんの少し・・・。あと手が痛い・・・」

「だよね。私も少し痛いや。ラッド、全員の拳を治してくれる?」

『何がしたいの?まぁ治すけど・・・』

「殴っても解決しないけど、とりあえず殴りたかったからよしとしましょう」

『暴力反対!』

「これから、領主には暫くここでルイスと同じ扱いを受けて貰う。あと領主に暴力を受けた人には暴力を振るって貰おう。殺された人は・・・償い様がないね」

『それ意味あるの?』

「さぁ?でもした事をされたら、少しは気づくんじゃない?自分がしてた事が」


 領主は殴られて気絶していた。


「いい右ストレートだったよ。貴方達は暫くツサーツァの村で療養して貰ってやりたい事が出来たら相談してね」


 メイド二人の目には少し生気が戻っていた。

 そして話は今後の話に移る。


「ルイス、領主は病に伏せた事にするとして引き継ぐには何が必要?」

「公爵様に認めて頂く必要はあるな・・・逆にそれさえ出来れば・・・」

「公爵ってどんな人?」

「何度か会った事があるが良い言い方をすると厳格」

「悪い言い方をすると?」


「・・・堅物かたぶつ


 一筋縄では行かなさそうだ。

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