第27話 怪盗、白ローブを着たエルフ+拐っちゃうオバケ

 またフウェンの街近くに戻ってきたアオナ。

 ついでに受けていた依頼をこなす。

 湖に住み着いた巨大なワニの魔物。

 森に集落を作ったゴブリン。

 魔物服従テイムで今日も意識を刈り取る。

 それを手土産に街に戻りギルドで換金。

 そこで、オクサの父親と偶然出会った。


「っ!?腕の件、本当に感謝している・・・それで・・・」

「オクサならツサーツァの村で新しい人生を歩み始めたよ」

「え?いや、昨日の今日で二日はかかるあの村には行けな・・・そういうことか。そうだな、俺には会う資格はないな・・・」


 多分、そういうつもりではない気がするけど・・・。


「会いたいの?」

「・・・」

「まぁ、いいわ。オクサはツサーツァにいる、でもまだ会うべきじゃない。

仕事頑張ってね」

「あぁ・・・。魔法は使えるが腕は鈍っている。でも必ず働いて金は払う」

「お代は全部オクサ宛でギルドに預けて。でも貴方が生きる事が前提ね。期限はないし」

「わかった。ありがとう」


 微妙な空気が流れる中、伝えるべき事は伝えた。そんな感じだった。


・・・


 換金した魔物はかなりの額になった。

「暫く遊んで暮らせそうね」

『そもそも杖があるから稼がなくても暮らせるけどね。何か買いたいものでもあるの?』

「ん〜。ないけど・・・」


 杖に溜まったマナは、色々買い物をした分を差し引いてもプラスになる程に稼いでいた。


「冒険者ってエルダーラットくらいは楽に倒せるのかなぁ?」

『余程の腕がないと無理だと思うよ。どうしたの?突然』

「あれって強いんでしょ?あんなのが出るなら危ないんじゃないかと思って」

『あれはかなりイレギュラーみたいだよ。ギルドで討伐依頼出てたはずだし・・・あ、討伐したの報告してないね・・・』

「やっぱり。また行くの面倒だね・・・」

『オクサに伝えて貰う?指輪を通してメッセージ送れるよ』

「え、あれってそんな便利機能があったの!?」

『あった方がいいでしょ?』


 ラッド先生まじパないです。すぐに連絡して通達して貰った。報酬についてはラットはラッドになっているので証明出来ないから居なくなった可能性がある、という程度の報告になった。多少は混乱を防げるだろう。


「この街・・・ちょっと変だよね?」

『え?どういうこと?』


 フウェンの街は領主が住み統括している。税金はギルドが家賃に上乗せして徴収する。

 宿代にも税金がのる。後は物流の中で税が課せられる。ギルド報酬にも税金が乗る。

 人口と物流がそのまま税収に繋がり国民の負担は一律。とても良心的だ。

 

「街の外に住んでたら消費税以外はないんだね。でも外にホームレスはいなかったけど」

『魔物に襲われるからね』

「街の中には魔物は入れないの?」

『入れるけど発生はしない。人がある程度、集まると魔物が発生しないエリアが生まれる」

「近くに村を作ったら税金払わないでいいのでは?」

『勝手に作ったら領主が激怒するだろうけどね♪土地は国のモノで領主はこの一体の管理を任されてる訳だから。で、何が変なの?』

「村より生活水準が低い」

『・・・確かに変だね』


 村は領主に税金を納めている。それは街と同様に村長が村民から徴収している訳だけど、普通に考えたらそこに村の運営費が乗る。末端ほど税率が上がり生活が苦しくなる。村は街からの恩恵を特別強く受けている感じはしなかった。むしろ自立していた。領主は当然、街をよくしようとする。でも、この街は・・・村以下だ。税金はどこにいっているのだ?

 公国からの徴税が多いのか?だとすれば増税するのが普通だ。横領が疑われる・・・。


「怪しいのはギルドか、領主かな」

『両方じゃない?どっちかだと上にバレるだろうし。公爵もグルの可能性もあるけど』

「そうなると逆に村が豊かだったのが不思議だね」

『確かに。となると公爵は関係ないと思った方が自然かな。村は公爵にゆかりがあるのかも。だから手が出せない・・・とか?』


 大正解♪領主が諸悪で街のギルドがグルだ。


「気に入らないね。でも証拠を掴むのは難しそう」

『本気出せば拘束して脅迫するのは簡単だけどね♪』


 ラッド先生、過激ですね・・・。


「穏便には行きたいけど。出来れば目立たず私がやったとバレない方法がいいかな」

『別にそんな世直しみたいな事、やるつもりはないんでしょ?』

隠蔽インビジブルってバレる可能性ってどのくらいあるかな?」

『時空魔法持ちは、まずいないだろうから領主邸が対策しているとは思えないね』

「ちょっと覗いてみようか。助けるとかじゃなくって、なんかこう・・・気になった」

『はいはい。そういう事にしておくよ♪』


 そんな軽いノリの物見遊山で領主邸へ向かった。

 鉄柵で囲われた豪邸、門番もいる。怪しいにも程がある。


「どうやって入ろっか?」

『ヒスイも隠蔽かけて飛んで入るとか?』

『アオナ軽いから今のサイズでも抱えて飛べるワン♪』


 なんというダイナミックお邪魔します・・・。ヒスイがアオナのリュックを掴んで持ち上げて飛ぶ。そしてそのまま豪華な庭に。

 さらに使用人の為の裏口から家の中に入る。


『ためらいなく普通に入るんだね・・・』


 家の中を見回すと豪華な調度品で溢れていた。使用人の数も多い。明らかに良い暮らしをしている。


『どこを調べよう?』

『さすがにドアを開けたら隠蔽インビジブルを使っててもバレるよ?』

『ん〜仕方ないから廊下をウロウロしようか』

『ウロウロって・・・あ、使用人が喋ってるよ』


 メイド服を着た女性が二人で立ち話をしていた。


「今日、わたし地下への給仕係なのよ・・・気が滅入るわ」

「あれは堪えるわよね。さすがに酷すぎる」

「ちょ、領主様に聞こえたら大変よ!」

「いや・・・あなた声が大きすぎよ」

「領主様は今、ギルドマスターとの商談に出てるから平気よ」

「あれは酷いわよね・・・この間、一人亡くなったみたいよ」

「えぇ・・・いくら獣人だからって・・・ねぇ」


 アウトー!!そう、この領主。クズである。

 さて、アオナはどうするだろうか?


『酷い奴みたいね』

『救いようがなさそうだね・・・』

『地下ってどこだろう?』

『あ、さっき地下の給仕係になったって言ってた人が向かうみたいだよ?』

『ついていこっか』


 バレない様にコッソリとメイドの後ろをついていく。

 地下は暗く・・・腐臭が漂っていた。

 そこには・・・世にもおぞましい光景が広がっていた。尋問跡、拷問跡。

 何人の人がここで殺されたのだろうか・・・。

 そして鎖に繋がれた獣人と思われる女性が数人。

 その者達の目は暗く濁り生気がなかった。


 その一番奥に若い男がいた。


『この領主、始末した方が世界の為なんじゃない?』

『僕もそう思うけど・・・』


 給仕係が配膳した食事は酷いものだった。人の扱いではなかった。


『放ってはおけないわね。このままだと死んでしまうし、見てしまったから』

『バレずに連れ去るのは無理じゃないかなぁ』

隠蔽インビジブルじゃだめ?』

『ん〜見つからないかもだけど。連れ去った後、どうするの?』

『領主は多分、探して捕まえようとするよね』

『すぐに指名手配だね』

『この世界って電話みたいなものや、高速で移動する手段ってあるの?』

『魔法であるにはあるけど普及してないよ。指輪の通信も実はチート』

『じゃぁ、村に連れて行けば時間稼ぎ出来るよね?馬車で往復でも二日は大丈夫かな』

『また、あの村にトンボ帰りかぁ・・・』

『獣人女性四人と謎の男一人と私・・・六人は乗せて飛べないだろうし・・・』

『籠みたいなのがあれば運ぶのは余裕、背中には二人がスペース的に限界だけどワン』

『人が四人はいれる籠かぁ。あるかな?』

『庭にあった馬車を使えば?』

『ラッド天才!ついでに無駄に豪華な装飾品、片っ端から貰っていこう』

『使用人達が責任取らされたりしないかなぁ?』

『メッセージを残そう』


ーーーーーー

 お前の悪事、全て知っているぞ。

 私はいつでもお前を殺せる。次に悪事を働いた時が、貴様の命日だ。

 by正義の白ローブを着たエルフ

ーーーーーー


『酷い文章だね・・・』

『できれば信憑性を持たせる何かも残したいな』

『手紙を読んだタイミングで空に向けて高出力のエネルギー魔法が発動する様にしよう』

『ラッドさすがね。それなら良い脅しになりそう』


 困惑する獣人と謎の男を連れて装飾品を根こそぎ奪いながら侵入経路を戻る。

 途中、使用人数人と遭遇したけどラッドが麻痺パラライズで数時間動けなくした。

 そして庭にあった馬車に乗り込みヒスイが持ち上げてフライハーイ♪

 そのまま村まで直行。門番の守衛さんに挨拶。隠蔽はかけたままスルーする。


「もう、この村の家でも買おうかな?」

『ギルドで買えるよ』


 買った。


 賃貸の戸建だけど。掘り出し物の物件だった。

 オクサに家の管理をお願いしておいた。あと拐ってきた獣人四人もここで生活する事に。

 獣人は差別を受けている。と言うか・・・帝国は獣人と亜人、魔人の国だ。

 王国は人族の国。そして王国と帝国は戦争をしている。

 暫くは引きこもりになって貰うしかなさそうだ。そこでオクサにお願いする事に。


「さっそく頼る事になっちゃったね」

「こんな素敵な家に住ませて貰えるんだから役得ですよ♪」


 物件探しはオッサも手伝ってくれた。


「長居はしないんじゃなかったのか?」

「しないよ?でも家はあった方が便利そうだし、獣人は宿暮らしも出来ない」

「なんで昨日の今日で五人も増えてるんだ?しかも四人は獣人だし」

「拐ってきた」

「お前は人を拐う妖怪のたぐいか?まぁ、訳ありでその嬢ちゃん達の為なんだろ?」

「うん。察しが良くて助かるよ」


 こうしてとりあえず、落ち着いたアオナ達は自宅にて作戦会議を始める。

 領主をこのままにするつもりはない様だ。領主もこのまま黙ってはいないだろう。

 最低でも二日は時間の猶予がある。

 そして、拐ってきた謎の男の正体によって話はより具体性を増した。



 その正体は・・・領主の息子だった。

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