第25話 番外編『アオナの過去のかけら』四月一日の真実

 たった一つの嘘で全てが反転する。

 それは一つの『真実』を炙り出す。

 それは『正解』だった。


***


「あなたは本当に自分が好きね♪」

 ある女性は笑いながら言った。

「そんな事はないよ。俺は君を愛している!」

 彼女の旦那である男は誇らしげに言う。


「この子の事を・・・ちゃんと愛してあげてね♪」


 お腹をさすりながら優しく微笑み女性が告げる。

 彼女はお腹に子供を宿していたのだ。

 その言葉で彼はそれを知り、涙を流しながら喜び言った。


「もちろんだ!!」


・・・


 それから半年後、彼女は元気な女の子を産んだ。


 その命と引き換えに・・・。


 男は彼女との約束を守り、男手一つで娘を必死で育てた。


 愛する妻との子を大切にと・・・


・・・


 男は嘘偽りなく娘を愛した。


「パパは青菜アオナのことすき?」


 可愛い笑顔の娘である青菜アオナの言葉に男は一切の躊躇ためらいいもなく答えた。


「もちろんだよ」


 娘は小学生になろうとしていた。


「そう言えば血液型の検査がまだだったな」


 医者から抗原が安定する五歳以降にする事を勧められていた。

 血液型の検査結果は・・・


『B型だった』


 彼女はA型で・・・彼はO型だった。



『彼は・・・娘を育てられなくなった。』



 男は思い返す。


「彼女は生前、一度もお腹の子を・・・俺の子だとは言っていない・・・」


 慎重だった彼女は安定期に入るまで、妊娠の事を黙っていた。

 妊娠を告げられたその日、幸せいっぱいで二人は病院へ行き母子手帳を発行して貰った。

 

 男は母子手帳を眺める。発行日には四月一日と書かれていた。


「なんの冗談だよ・・・」


 ページをめくると、そこには『B型』という判が押されていた。

 

 彼女は嘘は言ってなかった。


『あなたは本当に自分が好きね♪』


 むしろ真実を言っていた。


「嘘つきは・・・俺だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る