第24話 フウェンの街と少女オクサ

 白いローブを着たエルフの噂は瞬く間に広がった。

「そいつが倒したんじゃないのか?」

「そいつこそがドラゴンだったんじゃないか?」

「そいつが見せた幻影だったのでは?」

 様々な憶測が飛び交ったが真実が見つかるはずがなかった。


 その原因であり解決した張本人はのどかに横で朝食を食べているのだから・・・。

 ギルドの一階は食堂と受付を兼ねている。小さな村ではギルドが全てを担う。


「あ!私のハムとったでしょ。とるならトマトもとりなさい」

『トマト嫌いなんだね・・・』

『ハムがいい♪』

「どっちが喋ってるかわからないからヒスイ、語尾をワンにして」

『暴君!?』


 当然、アオナも疑われない訳はなかったのだけど・・・

 オッサに声を掛けられた。


「森で何してたんだ?」

「ウサギと狼を狩ってた」

「ギルドに卸した魔物、傷が一切なかったらしいな」

「私は魔法使いだからね」


 仰々しい杖は目立つ様だ。

 何かあった時にすぐ対応できる様に杖は肌身離さず持っている。


「・・・せめて魔法使いらしい格好をしろ。あと誰か知らんが村を救ってくれた奴に会う事があったら伝えてくれ。ありがとうと」


 彼は察している様に見えた。本来なら英雄扱いされてもおかしくない。

 それを何も言わないアオナ。深くは追求しないのが彼女の為だと理解しているのだろう。


・・・


「服、変えた方がいいかな?」

『その服、自動修復機能があるし下手な防具より強いよ?上からローブでも羽織ったら?』


 賢者ラッド様の的確なアドバイス。

 アオナ達はギルドを出て雑貨屋でそれっぽいローブを探しに。

「白以外で」

『エルフじゃないけどね♪』


 赤いローブを購入し、そしてそのまま・・・村を後にした。


『目的地は決まってるの?』

「ここから近いここより大きな街ってどこ?」

『領主の住むフウェンの街かなぁ、でも徒歩だとこのペースじゃ丸二日はかかるよ?』

「ヒスイ、私を乗せて飛べる?」

『余裕ですワン♪』


 律儀に語尾を守っている・・・。


「空気抵抗はプリズンで防げるけど・・・絶対に落とさないでね」

『フラグ?』

「洒落にならないでしょ・・・落下死とか絶対に嫌!」

『プリズンがあるから多分ゆっくり降りれるよ?』

「便利だね。でも嫌!」

『落とさないよ?ワン』


 純白の体毛に覆われた翡翠の瞳の竜に跨り空を駆ける、杖を持った魔法使い。

 まるでお伽話とぎばなしだ。丸二日かかる距離をたったの2時間程で移動した。


「新幹線より速かった・・・」

『早くついてよかったね♪』


 街の近くの草原に降り立った。今度はギルド証があるからスムーズに入れた。

 村よりも少し栄えた雰囲気。人口は千人ほどだろうか。


『ここで何をするの?』

「お金を稼ぐには、どうするのが速い?」

『危険視されてる魔物を狩るのが一番かな。手当たり次第だと供給過多で買い叩かれる』

「ギルドで余ってる魔物も売りたいな」

『悪目立ちするかもね』

「長居はしないからいいんじゃない?」

『ギルド同士は情報共有してるからすぐに広まっちゃいそうだけど・・・』


 ギルドに到着するとすぐ様、受付に行き買取をお願いした。

「どれくらい買い取って貰える?」

「え?登録したての冒険者ですよね?いくらでも買いますよ♪」


 甘く見た様だ。見る見るうちに受付カウンターに魔物が詰まれる。


「え?えぇ〜!!?ちょっと裏の解体場所でお願いしてもいいですか?汗」


 解体場を魔物でいっぱいにした。


「空間収納は空間魔法レベル3になって十メートル四方くらいになってるんだっけ?」

『そうだね。でもまだ魔物を溜めてたらすぐいっぱいになるよ』

「売れてよかったね」


 結構な額が貯まった。


「よぉ〜羽振りがいいみたいだなぁ!」


 人相の悪いハゲが絡んだけど即返り討ち。ギルドでは誰かが絡まないといけないルールでもあるのだろうか・・・?


・・・


 そして、討伐依頼が出ている魔物の位置を把握。ギルドを出てすぐに狩りに向かおうとした。すると一人の少女が目に留まった。ボロボロの服。十歳くらいだろうか?酷く痩せている。少女はアオナに恐る恐る声をかける。

 

「あの・・・これを、買ってくれませんか?」


 それは・・・ゴミだった。


「それ、ゴミだよね?」

「・・・」


 少女は何も答えられなかった。


「両親は?」


 アオナは少女に優しく問いかけた。少女の名は『オクサ』。

 少女の母親は、オクサを産む時に亡くなったそうだ。父は冒険者だった。

 妻を失い、男は少しずつ変わっていく。最初は娘をそれなりに可愛がっていた。

 そこそこ腕の立つ冒険者だった様だ。家政婦を雇い娘の世話をさせていた。

 しかし、娘が八歳になる頃・・・彼はヘマをした。魔物との戦いで利き腕を失ったのだ。

 腕を再生する程の魔法は上位の神官くらいしか無理だ。それには莫大なお金が必要だった。彼は・・・人生を諦めた。酒を飲み・・・貯蓄を使い果たし・・・。その間、娘は必死で生きた。それは・・・言葉では語れない二年間だった・・・。


「っ!!」


 見る見るうちにアオナの表情は怒りに染まる。それは抑え切れないほどに、抑えていても爆発しそうな程に・・・。彼女には何か特別な思うところがあった様だ。


「買うわ。お代は・・・あなたに生き方を教える事、でどう?」

「え?」

「あなたは一人で生きるの。父親は何もしてくれないんでしょ?ゴミは普通は売れない。あなたはこのままだと死ぬ。死にたい?」


・・・


 一瞬の沈黙が流れる。少女は死にたくなるほどに辛い思いをしていた。

 それでも・・・売れるはずのないゴミを売っていたのはなぜだ?

 他に出来る事がなかった。極小の可能性でも必死で・・・出来る事をしたのはなぜだ?


「死にたく・・・ないです」


 少女は大粒の涙を流す。それは声にならない叫びだった。


「私が生き方を教えてあげる。一緒に来なさい」


 アオナは手を差し伸べる。少女は確かに、その手をしっかりと・・・自らの意志で掴んだ。少女は生きる為に・・・一歩踏み出した。


・・・


『あんな事いって大丈夫だったの?』

「放って置けなかった。責任はとるよ。でも、手伝って」

『仕方ないね。僕はアオナの従者だから♪』

「ありがとう・・・」


 ずっと険しい顔をしていたアオナの表情が、少し緩んだ。


「さっき受けた依頼。今日じゃなくてもいいよね?」

『子供のお使いじゃないんだから一日でどうこうなる様なものはないよ』

「じゃぁ、予定変更で」

『どこにいくの?』

「オクサの父親を殴りに」


『ええええぇぇぇっ!?』

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