第23話 フェンリルドラゴン

 一夜明けての朝。


「おはよう」

『おはよ〜♪』


 慣れない環境でも爆睡出来る彼女は結構たくましい。

 

「寝てる間、何もなかった?」

『うん。ギルドの方は大騒ぎしてたみたいだけどね』


 どうやらラッドが見張りとして護衛していた様だ。

 マップは寝てる間も開きっぱなし。お金マナにゆとりがないと出来ない方法だなぁ。

 消費自体は大した量じゃないけど。


「何かあったの?」

『近くの森でドラゴンが発現したらしいよ』

「よくある事なの?」

『よくあったら今頃、人類は滅亡してるんじゃないかな?』


 わりと絶望的な状況らしい。


「なにか原因があったりするの?」

『魔物は人と世界のバランスを取る為に存在するらしいから・・・主にマナの調整で・・・』


 少し言い淀むラッド。


「ん〜・・・ん?あ、私かぁ」

『そうだね。多分アオナが発現した反動だと思う』

「そっか。じゃぁ・・・なんとかしないとだね」

『律儀だね。放って置いても誰も分からないし責めないよ?』

「ドラゴンってテイム出来る?」

『あれが効かない魔物はいないね。まじでチートだよ?』

「じゃぁ、ラッドをドラゴンにしてあげる♪」

『嬉しい様な・・・嬉しくない様な・・・。まぁ、いっか』


 そんな会話をしながら朝食を済ませた。

 呑気に散歩する様に村を歩いて入り口を通る。

 すると、守衛さんから呼び止められた。


「おい!いま近くの森でドラゴンが発見されたから外には出ない方がいいぞ!!」


 守衛さん、その人はその事実をよく知ってますよ?むしろ原因ですし・・・。

 そして虫取り感覚でドラゴン捕まえに行こうとしてます。


「ん〜大丈夫。そっちには行かないから」

「気をつけて行けよ」


 大嘘である、結局そのまま素通りした。


「守衛さんいい人だね」

『そうだね』


 草原を森に向けて抜けていく。途中、兎と数回遭遇したけどテイムで意識を刈り取った。


『テイム使う度に意識が飛ばされて酔いそう・・・オロロロロ』


 ラッドをラットに戻して進む。意識を刈り取った体は空間収納に入れている様だ。

 マナは抜き取っているけど、兎だとマナの消費はマイナスだ。一匹2千くらいのマナは兎でも持っている。肉は食用になるのでギルドで買い取って貰うつもりの様だ。


 森に入ると狼の群れに襲われた。


『前方五匹。後方に一匹控えてるね』

「前の五匹は丁寧に纏まってくれてるからプリズンで拘束するよ。後ろのは宜しくね」


 サクッと全部、意識を刈り取った。


「さっきの狼、強そうだったけどあれよりラットの方が強いの?」

『六匹の群れくらいなら軽く返り討ちにするだろうね』

「転移直後にラットに襲われるのは私以外なら絶望的なのでは?」

『絶望的だね・・・』

「チュートリアルが仕事してないね。神様に文句を言いたい・・・」


 すいません・・・。


・・・


 森をズンズンと進む。途中、馬や羊や狼に遭遇するけどサクッと刈り取っていく。

 強すぎる・・・。空間魔法のレベルは3に上がっていた。


「マップやサーチのレベルは上がらないんだね」

『上がらない様にしてる』

「なんで?」

『素質残量が減っちゃうから。空間魔法レベルを上げた方が全部の効果が上がってお得』

「そんな事出来るんだね」

『裏技だけどね。仕様という名のバグとも言う』


 色々と皮肉がこもっている気がする。


「色々と考えてくれてありがとう」

『どういたしまして♪』


 ラッドが優秀すぎる・・・。


・・・


 暫く森を進むと立ち止まった。


「地図に人の反応がある」

『多分、ドラゴンの監視をしてる人じゃないかな?』

「邪魔だね。見られたくないし」

『どうする?』

「適当な嘘を言って村に戻って貰おう」


 そう言うと人のいる場所へと歩いていった。


「もしも〜し。お疲れ様です」


 日本語だから意味は伝わってないけど声は届いた様だ。


「こんな所に一人で何をしている!?ここは危険だ。すぐに村に戻りなさい!!」


 女性が一人で魔物溢れるドラゴンの住む森へ軽装でトコトコ現れたのだ。

 そりゃ、監視の人も焦るだろう。


「え?村ではドラゴンはいなくなったって言ってましたよ?」

「はぁ!?そんな訳ないだろ!!あれが村を襲ったら間違いなく壊滅だ・・・」

「急いで戻って、間違いだって伝えた方がよいのでは?」


『よく息をする様にそんな嘘がつけるね』


 ラッドはあまりに自然に発せられる嘘に少しひいていた。


「そ・・・そうだな。君も一緒に戻ろう。とても戦えるとは思えない格好だし」

「いえ、私はここまで一人で来れるくらい強いです」

「そうは見えないんだが・・・?」

「私が戻って伝えても信じて貰えないと思うので急いで戻ってあげて下さい。私はむしろ一人じゃないと周りを巻き込むので魔法が使えないのです」


 微妙に嘘は言っていない所が、嘘を言い慣れていて怖いな・・・。


「・・・。そ、そうか、わかった。絶対に無理はせず無事に帰るんだぞ!!」


 監視の人はそう言い残すと村へ向かって去っていった。


「監視の人、いい人だったね」

『そんないい人を騙して心は痛まないの?』

「彼の為に嘘をついたのよ?私はきっともっといい人」

『なんだかなぁ・・・』


・・・


 森の真ん中に少し開けたスペース。そこに一匹の竜が寝ていた。

 それはドラゴンというよりは獣の様だった。体躯は三メートル程とドラゴンとしては小柄。

 透明な膜の様な羽が背中から生えている。それは今までの魔物にはない特徴をいくつも備えていた。想定外の変異種。これだから、自立進化は面白い・・・。

 アレは恐らく・・・今までのどの魔物よりも・・・強い。

 白い体毛に覆われたその姿は美しくすらあった。


「あれがドラゴン?爬虫類には見えないけど」

『ん〜・・・あれ、なんだろ?見た事もないね。でも多分かなり強い。フェンリルとドラゴンの特性をいいとこ取りで併せ持ったみたいな・・・ヤバいよ?』

「テイム効くかなぁ?」

『魔物だから多分大丈夫だと思うけど・・・。空間魔法レベルが上がってるから射程が二〇メートルになってるしここからでも届くよ』


 え・・・?


魔物服従テイム


 有無を言わさず唱えよった・・・。


『お?あれ??』


 ラッドはラットのままで首を傾げていた。


「あれ?失敗した!?」


・・・


『いや・・・。おめでとう♪今のでテイムのレベルが上がったみたいだよ』

「つまりどういう事?」

『彼は新しい従者ってことだよ♪』


 魔物服従テイムがレベル2になった事で従者が二人に増えたのだ。

 フェンリルドラゴンはヌッと起き上がりその場に座り込んで周りを見回している。


「近づいても大丈夫そう?」

『そうだね。僕らを探しているみたいだし声を掛けてあげないと♪』


 アオナ達はフェンリルドラゴンに真っ直ぐと近づいていった。


「|[$^}<〆<$€’{〆^,€}‘]“<<€$>$《初めましてご主人様》!」


 竜はアオナに向けて挨拶をした。


「え・・・。こっちの言葉なの?」

『あぁ〜・・・さすがに知識のインストールは普通のこっちの人のレベルに調整された見たいだね。子供と同じくらいだと思った方がいいかも』

「そっか。日本語を話せたのはラッドが特殊だったんだね。まぁ、いっか。どうせこっちの言葉は覚えないとと思ってたし。暫くは通訳を宜しくね」

『忙しくなりそうだなぁ・・・』


 調整はアイが昨晩、必死で頑張っていた。

 メイの知識インストールは思っていた以上にヤバかったみたい。

 ラッドが有能すぎるし・・・。


「おっきいね・・・連れて歩けなくない?」

『体は小型犬位までは小さく出来ると思うよ。強い大型種は大抵、その手の魔法を使えないと不便だから』

「へぇ。ラッドも実は使ってたり?」

『いや・・・これは元々このサイズだよ』

「ドラゴンにしてあげるって言ったのにごめんね。あっちの方がいい?交換する?」

『この身体もけっこう気に入ってるからこのままがいいかな♪戦闘はあの子に任せてもいいかもだけど』


「名前欲しいです♪」


 小型犬サイズになった竜が言った。何アレかわいい♪


「か・・・かわいい・・・。名前かぁ。どうしよう?」

『長い付き合いになるだろうし真剣に決めてあげなよ?』

「ラッドも別の名前考えようか?」

『いや、僕は案外この名前と身体が気に入ってるよ♪』

「そう・・・、よかった」


 アオナはいつもの無表情と少し違って優しく微笑んでいた。


 なんだかそれに・・・すごく安心した。彼女にはどこか陰がある。

 それがラッドとの間では・・・少し特別な何かの変化をもたらしている様に思えた。


「エメラルドグリーンの瞳と角が綺麗だから翡翠からとって『ヒスイ』でどうかな?」

「ありがとう。嬉しい!」


 その後、ラッド先生の指導でヒスイはオーブを使い更に魔改造をされていた。

 ただでさえ最強種なのに・・・。

 あれ、もう誰も勝てないんじゃないかな?


 隠蔽魔法を掛けて見えなくしたヒスイはふわふわと浮かびながら自由に飛び回っていた。


『飛べるの便利そうだなぁ』


 ラッドは少し羨ましそうにそれを見ていた。


・・・


 村に戻ると監視の人が必死で守衛さんに説明をしていた。


「ドラゴンがいなくなったなんて誰が言ったんだ!?今もドラゴンは森の中で寝ている!アレは見た事もない新種だった・・・あれは今までのドラゴンと比べられない程、強力な魔物だぞ!!」


 守衛さんに詰め寄る監視の人。


「・・・なんの話だ?いなくなったなんて誰も言ってないぞ?」

「え・・・?だって女性がさっき俺の所に来て・・・」


・・・


 なんかごめんね。とでも言いたげな顔でアオナが後ろからその様子を見ていた。


『心が傷まないかい?』

「いま、ちょっと痛んでるよ・・・」


 しかも、それは今やあながち嘘とも言えなかった。魔物だったドラゴンは消えてアオナの従者となっている。


「いなくなったって言ったら信じて貰えるかな?」

『実際にいないし、信じては貰えるだろうけど理由がないと解決とは言えないかなぁ」


 結局、見にいったらいなかったと伝えた。


「じゃぁ、俺が見たのはなんだったんだ!?」となり

「知らない」と答え

「なんでいなくなったんだ?」となった後、

「知らない」と答えて

「なんで知っていたんだ?」となった訳だが・・・


「白いローブを着たエルフの女性が草原で教えてくれた」


 息をする様に嘘をついていた。何この子怖い・・・。


***神界***


「テイム、強すぎでしょ・・・」

「無双だね〜。新種の最強種が秒殺♪もうあの子が神でいいんじゃない?笑」

「あのフェンリルドラゴンは放って置いたら人類滅亡の可能性までありましたよ?」

「ヤバッ!?アオナさんマジ勇者!」

「さっそく世界、救っちゃってるね〜♪」

「従者の調整、徹夜で完成させて置いて正解でした・・・レベルアップも早過ぎですぅ」

「アイ、でかしたわ!あんなの二人もいたらそのうちここに侵入してきちゃうかもだし」

「遠回しに私をディスってませんか?」

「メイはそれくらい優秀ってことよ♪」

「次はアオナ、どうするのか楽しみね。王国の腐敗まで関わっていってくれると面白いんだけど」

「さすがにそれは・・・期待するのも申し訳ないですぅ」

「私のせいにされても困るんだけど、でも生み出した私の責任は消えないね・・・」


 罪悪感は存在する。もし本当に神様がいたとしたなら、罪悪感を持ち合わせているのだろうか?

 少なくともこの世界の神様と言われる『この人』には存在している様だ。


 私はそれを好ましくも・・・痛ましくおもう。


 せめて、私達が支えよう。


 『この人』は、どこまでも・・・人間らしい。

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