第8話 私は神様になんて、ならない!!
私はある程度、言語を習得した段階で両親に私が転移者である事、そしてタイムリープが出来る事を伝えました。魔道具や
あの事実は、全ての根幹を揺るがしてしまいます。私以外が知ってはいけない内容だと思いました。
神様から受けた制約。
『前世の知識を家族以外に話すと、チート能力の一部を失う。』
あれ?チート能力、ありましたっけ?タイムリープはある種のチート能力ですけど魔道具のおかげな気が・・・。
私は小さな村の難民を養子に迎えたと言う事でお父さんがパパッと手続きをすましてくれました。手続きが済んでないと家族と認定されなかったら大変なので、まだ話していませんでしたが正解でした。この世界では戸籍は神によって管理されていたのです。
やり方は簡単。本人と両親、各々の名前を血で紙に書き、それを本人が持ち、
登録情報は魔道具の端末で閲覧可能らしいのですが製法は秘匿されていて各国のお偉いさんが管理しているらしいです。そうする事で家族として認められてシステムの家族に関わる部分を適応できる様になるとか。
戸籍登録がされていない人は、バレたら捕まります。デメリットなし、メリットありの登録ですし皆さん漏れなくされている様です。上書きは同様の手段で可能。結婚は
一応、役所でも管理はしているのでお父さんが行った手続きはそっちですね。
私達はこの時、システム上の親子となった。
『システム上の・・・』
そして真実を告げました。
私の真実を告げた時、父と母が言った事。
私は一生、この時の話を忘れない。忘れたくないと思いました。
『私は誓いを立てました。』
この時、私達は本当の意味で家族になったのだと感じました。
血の繋がりではない・・・親と言う存在を教えて貰った気がしたのです。
彼らは・・・私の『両親』です。
***
一通り、私の事情を説明すると二人は少し険しい顔をしていました。
私はその表情の真意を読めませんでした。
「ユーナは、神様になりたいのかい?」
父がゆっくりと真剣に、私に向かって告げました。
私はまだその本当の意味を分かっていませんでした。
私は神様になりたいのだろうか?神様って自己申告するものでしたっけ?
「なんでも好きに出来る事は・・・不幸な事ではないだろうか?」
嫌な事がいっぱいあった。どうしようもない事が沢山あった。消したい過去がある。
辛い事、痛い事、悔しい事、情けない事、取り返しがつかない事・・・。
私は今、それを回避出来る。やり直せる。取り返せる・・・。
私はそれを喜び、自然と受け入れたのだと思います。
「価値とは、手に入らない可能性から生まれるのではないだろうか?」
しかしそれは、幸せな事だったのだろうか?全て上手くいく事、それが当たり前になる。
私は、それに満足し続けられるのだろうか・・・?
過去のやり直しによって私は幸せを手に入れ・・・『満足した。』
それでも私は生きている。やり残した事は・・・ある。
それは辛うじて、神様というどうにもならない存在やシステムによって支えられていたのかもしれません。私は、不自由を求めている?
しかし、失う事を恐れないで私は人の体を保てるだろうか?
それは・・・私が命の重さについて、思った事の一端だったのかもしれません。
私は・・・それを・・・失いたくない!
私は心を持っていたい。私は・・・人でありたい。
「今一度問おう。ユーナ、君は・・・神様になりたいかい?」
私は気付けば泣いていた。なぜだか分からない。
でも、私は・・・独りだった。
そうだったのだと、気付いてしまったのだ。
独りは・・・寂しい。そんな当たり前の感情が麻痺していた。
世界があったから。私は独りではなかった。でも独りだった。
何かがバッサリと、私と他人の繋がりを隔てていた。
あ、そうか。
私は世界の主体となったのだ。
それを確信してしまったら、
それを自由に出来てしまったら、
受け入れてしまったのなら、
『私が神様だ。』
神様は・・・独りだ。
それは、嫌だ。
それは・・・寂しい。
「私は・・・神様には、なりたくないです・・・」
私は大粒の涙を流していた。私はずっと気付いていたのだ。いや、受け入れられずにいた。やり直し、自分の好きな未来を選ぶ事は一人で遊ぶ様なものだったのかもしれない。
私は
のめり込み夢中になって目を輝かせながら一人、ゲームの世界に没頭する子供。
ある時、子供はふと我に返る。現実世界に引き戻される。
静まり返った部屋。夕日がベランダから差し込み赤く染まる薄暗い部屋。
どこからか聞こえるカラスの声。遠くで聞こえるサイレンの音。
迫り来る焦燥感。
実体を掴めず、それが余計に恐怖を誘う。何かは分からないけど、コレはダメなのだと心の中で警鐘がなる。シルエットだけがハッキリして詳細が塗りつぶされる世界。
焦燥感・・・恐怖・・・不安・・・『寂しい』。
私の違和感は誰にも気付かれず、片隅でひっそりと涙を流して泣いていた。
・・・
「そうか、辛かったんだな」
父は優しく微笑みかけてくれていた。
「もしユーナが危険に晒されたなら、その力を存分に発揮しなさい」
私が消えれば、この世界が消える。私は続きを見る為にこの世界を維持している。
私は迷わずやり直すだろう。そこに迷いはない。
「でも、もし私が命を落としても・・・その力は使わないと約束して欲しい」
え・・・?私はこの人を死なせたくないと思った。もし、そんな事が起こったら私はきっと・・・タイムリープを使うだろう・・・。
「生きている事が当たり前な状態は、正常ではないだろう?私はそれを望まない」
そうか・・・。父は私と同じ様に、私と同じである事を望まないのですね。
「そうする事で、ユーナにも自由に出来ない事が生まれる。そうだろう?」
あ・・・。私がもし今、父に誓い、その後、万が一でも自分の選択で父を死なせたら・・・父はもう戻らない・・・。私は・・・恐怖を覚えた。
父は生きたいと願わないのだろうか・・・?そんな訳はない。
それなら・・・
「なぜ・・・そこまでしてくれるのですか?」
この私の問いに対して、父は少しムッとした顔をした。そして、
「君は私の娘だ。君が望まない相手なら神であろうと連れて行かれる事を望む訳がないだろう?父親とはそう言うものだ」
父は、冗談っぽく笑いながら言った。
「あら、母親もそうよ?」
黙って頷いていた母が、割り込む様に微笑みながら言う。
私は思わず涙を流したまま笑顔になる。
寂しさに包まれた夕焼けの部屋のドアがガチャリと開く音がした。
「私は、二人の為にタイムリープを使いません!」
私は誓う。孤独の部屋のドアを開けた向こうには・・・
「それ以外の時でも、私は極力タイムリープを使わないようにしようと思います」
今の私が立っていた。
「もし悩んだら、いくらでも相談しなさい。それが親というものだ」
孤独は消えない。でも、今の私が寂しさを消し去る。
今の私の背中を押してくれた両親。私は彼らに救われた。
彼らは親の責務を果たしてくれた。
だから、私は子供の責務を果たそうと思った。
迷ったら・・・相談しよう。
人であろう。
この人達の子供であろう。
私は二人に誓う。
『私は神様になんて、ならない!!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます