第3話 まだ死ねません。

 私は幸福な世界を何十年も生きた。

 そして、その世界で寿命を迎えた。

 コンティニューは無限です。様々なパターンも楽しみました。

 私はとても満足していたのです。


 しかし、まだやり残した事がありました。

 まだ死ねません。

 そもそも死ねません♪


 私は一つの可能性に気付いていた。


『【アーミラリ天球儀】は未来すらも見せるのではないだろうか?』


 この世界に来て見上げた夜空。

 【クロノグラス】で見たその夜空から天球儀で新しい並行世界を見る。

 見続ける。それは・・・あり得る未来へと繋がっていく。

 現実ではない、しかし限りなく現実に近い、私が改変した未来を見る事が出来る。

 その二つの違いとして考えられるのは・・・神の干渉。

 私の見る未来には神も干渉出来ない。いわば私が神である。


 思うに、この天球儀は世界を複製する魔道具。通常は多くの魔力を消費する為、それ程長い時間を見せる事は出来ないのでしょうが、今の私は使いたい放題です。


 現実への干渉範囲は私の脳のみ。どうやら仮想の世界を創り出す事自体は世界からすればお茶の子サイサイの様ですね。私は天球儀の見せる世界の中で、定期的に夜空を見上げます。それがセーブデータになるのです。クロノグラスでその過去に戻り、そこから再スタート出来ます。最初は望んだ過去を呼び出すのには苦労しましたが、何十年も使い続けていれば最適化もされるというものです。継続は力ですね♪


『四畳半の世界。私という存在だけで世界は無限に拡がっていく。』


***


 私はクロノグラスを使いクィールの世界に降り立ってすぐに見上げた夜空を天球儀にかざします。


『あの悪夢を超えるのです!!』


 遠くで馬車を止めて野営をしている灯りが見えました。

 あの時と同じですね。

 ズリ落ちたズボンとパンツを履き直します。

 ダボダボのズボンを足に括り付けて靴代わりにします。

 神様、靴くらい用意してくれてもよかったんですよ?


 私は灯りを目指して歩き出します。

 森を抜けた所で護衛の冒険者に発見されます。


「¥@43¥@?『,£,>,]}$<$“『$!?」


 はい。なにを言っているか分かりません♪

 翻訳機能くらいつけてくれてもよかったんですよ?

 冒険者の声を聞き、馬車から二人の少し装飾のある服装をした男女が現れました。

 私の両親になる予定だったご夫婦です。懐かしいですね。

 これを懐かしいと言っていいのかはわかりませんが・・・。


「(@)8:3:@#853、2@5@#85@〜(8;9:7#7:369」


 とても笑顔で迎えて下さいました。なにを言っているのかは分かりませんが、確かに歓迎してくれているのだと感じたのです。

 しかし、このままでは数時間後・・・彼らは盗賊に殺されます。


 しかし、言語の壁が・・・厚い!


 私は必死で身振り手振りで危険を知らせようとします。


 伝わりません♪


 せめて紙とペンがあれば・・・。

 私はとりあえず地面に絵を描きます。センスが皆無です。出来上がった絵はゆるキャラを5倍ゆるくして濃縮還元をカオスで行ったくらい意味不明でした。紙とペンがあっても無理だったかもしれません・・・。


「<$<“『,※〆?」


 このワードがキーワードでした。


 この言葉、端的に言うと『ナニコレ?』です。


 私はこのワードを連呼して、様々な名称を知ります。

 文法は奇跡的に日本語と酷似していました。もしかすると何か繋がりがあるのかも知れません。もちろん、そんなに簡単にはいってませんよ?だってここまで至ったのは、


『38回目ですから。』


***


「『,『‘\$<<?+},?]}黒板。チョーク


 私のこの言葉を聞いて、夫婦は黒板とチョークを持ってきてくれます。

 ここに至るまでにも12回を要しました。でも、なんとかなるものですね。


『諦めないって大事!』


 盗賊は灯りを消した後、体感30分程で襲ってきます。

 襲撃の方向は分かっています。人数は恐らく十人。こちらは冒険者四人と夫婦。

 冒険者は男性二人女性二人。夫婦は戦闘要員ではありませんし戦力外でした。


 何としても冒険者四人に頑張って貰って盗賊十人を撃退する必要があります。

 

 オールラウンダーの剣士、ノイス。

 大盾使いの重騎士、ダイン。

 アーチャーのリノン。

 薬剤師のレイン。


 魔法使いは?貴族が独占していて、普通の冒険者には稀らしいです。

 基本は物理のファンタジー世界なのです・・・。


 初回、惨敗でした。


 四人で十人を相手するのは無謀でした。その後も先制を取って、ある程度は盗賊の行動を予見しても、最終的には物量で押し切られました。


 その間、ちょいちょい大怪我をしたわけですが、土中で霧散する苦しみに比べたら楽勝プーです。ザックリと刺されたりもしましたが、かすり傷です。感覚が麻痺してますねぇ。

 積極的に盗賊に突撃しては相手の様子を伺いました。


『盗賊・・・練度高すぎない?』


 かなり統率が取れています。厄介すぎです。準備万端で狙い撃ちをしてきているのです。偶然の襲撃?なにやら怪しい空気でござんす・・・。


 それでも、これを切り抜けなければ先が見えません。この世界を知るためにも、そして私のやり残した事の為にも、何としてもここを突破しなければならんのです!


 私は何度もやり直します。


 そして・・・ついに逆転の一手を思いつきました。

 それは幸運な偶然にも恵まれました。


 キーアイテムは・・・【煌めきのクリスタルオーブ】。


 これで勝つる!!

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