第2話 私の名前はユーナ。

 私の名前はユーナ。

 日本から異世界転移を果たしました。

 しかし、今・・・ピンチです!


 というか絶望的です。


 転移先でお世話になる予定だったご夫婦なのですが・・・


『亡くなりました。』


 転移して数時間して私は早速、死ぬ事となるのです。

 ピンチもへったくれもありませんね・・・。

 まぁ、私はすぐに生き返ったんですけどね。何があったかと言いますと・・・


 はい、盗賊に襲われましたよ。


 神様、チュートリアルはないのですか?

 人生ハードモードどころかルナティックモードです。


***


 私は森で野営中の商家の元に転移しました。

 見上げた夜空には見たこともない程の星々が輝き、赤黄緑の月が並んでいた。

 神託を受けていた夫婦はすぐに私がソレだと気付き笑顔で迎え入れてくれました。

 しかし、その後すぐに盗賊団に襲われたのです。

 護衛の冒険者も必死で抵抗してくれましたが、盗賊に敗北しました。

 そして、私の両親になる予定だったご夫婦も盗賊に・・・。

 命が軽い世界。平均寿命六十歳。これは長命種であるエルフや竜族、ドワーフなども含めた寿命の平均だった様です。私は人族です。


 絶望的な状況で五歳児の私は馬車で震えていた訳ですが・・・エスケープしました。

 四畳半の模倣神域レプリカ・サークルです。

 こうして私は避難したわけですが・・・無事じゃありませんでした。


 なぜか?当初の予定のご夫婦は亡くなりました。

 これからどうしよう・・・とかいう以前の問題だったりします。


 結論、ここから出れません♪


 半径1km以内へのランダム転移。これが・・・大問題でした。


『さて問題です!土の中に転移したらどうなりますか?』


 答え。死にます。死にました。身体中の細胞が霧散する感覚に襲われました。全身を駆け巡る痛みとも言えない痛みを受けて、私は再び模倣神域へ戻ってきたのです。

 もう2度とあんな痛い思いをするのはごめんです。


『さて問題です!半径1km圏内で生存可能なスペースってどれくらい?』


 まず半分はNGです。地中です。即死です。


『次に五歳の普通の子供。高さ何メートルから落ちても生きていられますか?』


 十メートルを越えたらまず無理です。数メートルでも無事でいられる保証はありません。

 この世界には魔物がウジャウジャいます。魔物が沢山いる森を中心としたランダム転移。

 木と少しでも重なってもアウトです。葉っぱ一枚体内に入っても死に直結します。


 お分かり頂けたでしょうか?控えめに言って絶望です。


 スペ○ンカーもビックリな即死ステージです。もう絶対に死ぬのは嫌です。

 しかし、このままではジリ貧です。

 実は、ここまでの情報に至るまでにも結構な時間を要しました。

 そうしてわかった事。


 絶望その①

 この模倣神域・・・神も干渉出来ません。

 神様のせいな気もするので助けを求めたかったのですが、ここはなんと神も干渉出来ない神域だったのです。これでは神様の手助けも期待できません。


 絶望その②

 この神域では飢え死にはなさそうです。希望なのでは?いいえ、違います。この神域。時間が経過しないのです。飢えません。劣化がありません。消耗もありません。理が狂っています。独立した亜空間なのです。きっと神様も想定外の事だと思われます。


 絶望その③

 時間が経過しない、という事は外の世界は止まっています。神様ですら停止しているのです。死ねないし。しかも六十歳まで生きる訳ですが、ここでは年をとりません。


 結論。永遠の無限監獄が始まりました。


 パーフェクト絶望なのでは・・・?


***


 時間だけは無限にある私。当然、今あるこの魔道具を使いこなす事を目標にしました。

 死にたくないでござる。ランダム転移ギャンブルは一時封印です。あの死の痛みは、もう耐えられないのです。


 この模倣神域。真っ白です。端っこに魔道具が5個置いてありました。床に直置きです。

 他は何もありません。この身一つでございます。シンプルな服は着ています。服はダボダボのシャツ。ズボンは復活した瞬間にズリ落ちます。パンツもズリ落ちます。

 でも紐で調整出来る簡素な物でシャツも大人用の半袖ですが絞れば五歳の私でも長袖の様に着れます。成長しても着れるようになっているんですね。こっちの世界の基本装備かな?ズボンは今はなくても良いかも。シャツがワンピースになります。


 この世界の知識が皆無です。何も分かりません。


 魔道具の説明は、神様がしてたっぽいのですが・・・半分くらい忘れちゃいました。

 スプーンと杖に至っては、説明は詳細も使い方も不明だった気がします。

 あと心配なのは、この魔道具って消耗品なのだろうか・・・?

 この空間では消耗しないと予測しております。しかし、私は普通に考えて動いています。

 つまり私の脳と状態は変化しているのです。服も脱げるし・・・。


 そうなると時間の概念はあると思って良いでしょう。

 ただ外の世界とは隔絶されていて劣化しない環境、と仮定しました。

 

 この空間こそがチートの極みな気がしてきますねぇ。


 この事から魔道具は消耗しないと推測したのですが、

怖いので一番不要そうなモノから試していく事にしました。


 悩んだ私は、まず【煌めきのクリスタルオーブ】を使う事にしました。

 初めて魔法を授かるときに使用すると言ってた気がします。使い切りで問題ないと判断しました。両手で触れると魔法を使えるようになるんでしたっけ?


 私は早速、オーブに両手で触れてみます。


『既に魔法を授かっています。』


 ぎいやぁあああ。シャベッタアアアア!無音の聖域に声が聞こえました。

 正しくは頭に直接、ってやつですかね♪正直ちょっと寂しかったので嬉しかったです。

 無機質な、自動音声の様な声。システムですかね?でもこれは僥倖かも!

 ここにも一応、システムの干渉はある様です。

 普通に日本語だったのが気になります。

 そういえば、言語・・・分からなかったんですよねぇ。

 交わした言葉は少しでしたけど、喜んで下さっている事だけは表情で分かりました。

 笑顔は万国共通ですね。本当によいご夫婦だったのでしょう。

 私のせいで亡くなったのではないと思いたいですねぇ。


 しかし、この道具は意味がなさそうです・・・。


 よく考えたらこの空間こそが魔法な気がします。なので私は既に魔法を使っている、という事なのでしょう。


 次に私はスプーンを手にします。

 【魔法のスプーン】森の魔法使いが錬成したスプーンらしいです。

 シチューを食べるのには使えないそうです。「幸せ」をすくい取るそうです。


 ・・・ナニソレ?


 使い方がわかりません。魔道具をスプーンの上に乗せてみます。


・・・


 何も起こりませんね。

 

 次は杖ですか。【黒竜の血の杖】

 いにしえの魔道保管庫から発見された杖。で媒体が竜の血だとか。


 ん〜・・・ノーヒントです。とりあえず、とてもカッコいいです。厨二病が疼きます。

 武器ですかねぇ。私はとりあえずブンブンと振り回します。

 五歳児には重過ぎますね。


 残り二つですかぁ・・・。せめて鑑定スキルとかあれば良かったんですけどね。

【クロノグラス 】

 所持者の記憶を遡りその者に関わる過去を見ることができる魔法具。

 ろくな過去がありません。でも暇つぶしにはなるかも?

【アーミラリ天球儀】

 星の動きを見ることで今生きている世界線とは別のパラレル世界を調べられる魔法具。

 星・・・ここでは見えませんねぇ・・・。


 はい!詰みました♪


***


 それから私は、自分の過去を眺める日々でした。

 

 そんなある日、私は気づいてしまいました。

 私は元世界で星を見上げる機会などほとんどありませんでした。

 だから、なかなか気付けなかったのです。


『【クロノグラス】で過去に見上げた夜空を見て【アーミラリ天球儀】を使う。』


 本来は消耗品の魔道具。しかし、ここでは無限に使える。

 パラレル世界。それは並行世界。知るはずのない分岐した世界。


『それは・・・あり得た可能性。』


 私は【クロノグラス】と【アーミラリ天球儀】を常時発動させてあり得た、あり得ない世界を体験する。無数に存在する分岐。それを私の意志で選択して続きを覗いていく。

 何度も星を見上げて、新しい可能性へと意識を進めていく。


『それは・・・人生と同義だった。』


 世界とは、なんなのだろうか?

 私が見た世界は私だけが知っている世界。でも、その世界にも他人は存在した。

 その世界は確かにあったのだろうか?私が選んだから生まれた世界。

 私主体の世界。それでも何もかも上手く行く訳ではなかった。

 失敗も繰り返しながらも精一杯、考えて選択肢を選んで行ったのだ。


 様々な分岐点での可能性の世界を見た。それは、何十年分にも渡る『時間』だった。


 私は真理を見た。現実とは一体何なのだろうか? 

 私の見た可能性と現実との違いは・・・?


 私は、きっと夢を見ている。


 私はふと【魔法のスプーン】を手に取る。


 あり得た、あり得ない幸福。


 それは過去の可能性の中にあった。


 私は過去の可能性の中で、私が愛されていた事を知った。

 天涯孤独の身だと思っていた。

 可能性の世界の中では、私は最愛の人を手に入れ幸福の中にいた。

 夫がいた。子供がいた。親友がいた。家族がいた。

 現実ではない夢の中。それでも確かにそれはあった。

 私は愛されて、生まれてきた。


『私は望んで生まれてきた。』

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