魔法のお守り【世界を創る物語】

フィガレット

第一章 ユーナ『魔法のお守り』

第1話 どうも、神です。

 どうも、神です。


 とある世界を創って見守っている存在で御座います。

 創った以上は責任をもってちゃんと見守らないといけません。


 創ったのは私な訳で、それなりに愛着もあります。

 でも、正直言ってちゃんと管理なんて・・・


『無理です!』


 だって、人はもう数十万人にまで増えてますし、

そもそも人は別の世界のをベースに複製して独自進化を見守っているだけですし、

神って名乗ってますけど、私は正直言ってただの人より少し処理能力が高い程度ですし。


 人の進化が早すぎて、もう正直しんどいです。

 そのうち追い越されちゃうんじゃないでしょうか?

 元々は微生物から始まったらしいですけど、複製した時点で言語を操ってましたし、今や元世界では精密機械を作り出して仮想空間に世界の模造品まで作り始めていました。


「この世界はまだまだ複製元世界で言うところの中世程度の文明レベルですけどね♪」


 このくらいが丁度、見ていて面白いんですよねぇ。

 核爆弾とか、政治的なやり取りとか、資本主義とか社会主義とか、もうしんどいです。でも、そのうちこの世界もあんな感じになるんだろうなぁ・・・。


 ちょいちょい破壊してやろうかしら?


 基本的になにもしないですし、見てるだけなんですよねぇ。

 介入したら責任が発生しますし。

 元の世界と同じじゃつまらないし、同じだと同じ様にカオスになっちゃうので、色々と世界の方をいじりました。化学反応とかはありません。

 核戦争とか、火薬兵器で大・虐・殺♪とかもう見たくないです。

 その代わりに魔法を少し導入しました。バランス調整には苦労しました。

 

「一応、上手くはいっているみたいですけど」


 そんな私の世界に一人、元世界の人間が迷い込みました。

 正直言って、超迷惑です。でも魂は大事にしないといけませんし、丁重に世界に馴染んで頂ける様にバックアップする必要があるのです。


 めんどくさいなぁ・・・。


***


「ここはどこですか?」


 迷い込んで来たのは、元世界の三十ニ歳女性。独身。

 両親は既に他界。しがらみが少なく苦痛の多い人生のせいで世界との結合が緩んでいた様です。そこに、奇跡的にこの世界へのバイパスが繋がってしまった。


「ここは、貴方にとって異世界にあたる『クィール』への入り口です」


 元世界は上位世界にあたります。上から下へは可能性がありますが、逆は不可能です。彼女は元の世界には・・・戻れません。


「い・・・」


 い?


「異世界転生キターーーーー!!」


 大声でガッツポーズをしたあと、天を仰いで神に祈りを捧げていました。

 その神は目の前のいる私なんですけどね・・・。


「元の世界には、もう戻れません」


 残念ながら、事実なので早めに告げておきましょう。


「あ、戻らないでいいです」


 あっさりしてるぅ〜・・・。どうやら未練はない様です。しかし、彼女が思っている様な『夢と希望でいっぱいの新しい人生』とはいかないのですよぉ・・・?


「記憶は残しますか?」


 消させて欲しいです。でも希望を聞かないといけないんですよねぇ。勝手に記憶を消すと私に責任が及びます。神と言っても色々と面倒な制約があるのです。正直いって神なんて名乗りたくないのですが・・・。一応、この世界の人からすれば神ですし。


「残してください!」


 ですよねぇ〜・・・。どうしよう?元世界の知識を持ち込まれると文明が進んでしまいます。好き放題されると嫌だなぁ。私の存在も認識しちゃってますし、イレギュラーが増えちゃう・・・。


「貴方の思う様なチート持ちで好き放題できる転生ではありませんよ?というか転生ではなく世界を渡るだけですので転移ですし・・・」


 彼女には酷ですが、真実を告げる必要があります。


「それは・・・すぐに死んじゃうのでは・・・?」


 どうやら勘の鋭い人の様です。そうなんですよねぇ・・・。こっちに来ちゃったのは、こちらのせいではないんですけど・・・もうこっちの管轄になってしまっています。ぞんざいに扱えば、元世界の神に怒られてしまいます。多分ですけど。


 普通の幸せを提供する必要がありますよねぇ・・・。


「何か希望はありますか?」


 ある程度は叶えてあげつつも世界への干渉を減らしたいですねぇ。


「年齢・・・若くしたいです。あ、でも赤ちゃんからはちょっと辛いです」


 成人した大人が再度、赤ちゃんを経験するのは無理です。自我が崩壊する可能性があります。しかし戸籍がないんですよねぇ。既存の魂を弾き出す訳にもいきません。大人からスタートさせると詰みそうですし、子供からスタートすれば色々と周りに教えてもらえるから私が干渉する必要性が減りそう。子供まで年齢を下げて送り出したいです。


 少しでも楽をしたい。


 孤児院かなぁ・・・。それか子供が欲しいのに授かれなかった夫婦に拾わせるのもアリですね。どうしようかなぁ・・・。貴族の家だと色々と相続とか爵位とかで問題が起きますし。でも、元の世界の・・・しかも日本出身の彼女。平民で耐えられるかなぁ・・・。

 現代知識でチートとかされても困ります。いや、別にいっか。


 もう、いいや。選ばせよう。


 こうして私はある程度の世界の事情を話して自分で選ばせる事にしました。

 無理そうなら断ればいいし。彼女は暫く考え込みます。そして答えを出しました。


「わりとゆとりのある商人の家に拾われて、出来れば大切に育てられたいです。年齢は五歳くらいで」


 どうやら賢い人の様です。五歳ならある程度は自由が効きます。裕福な商家で子供が出来ない事情がある家、賢い彼女なら家を継ぐ事も出来る可能性が十分あります。現代知識も活かせる事でしょう。ある程度、条件・・・というよりは制限を加えても良さそうですね。


「いいでしょう。しかし、前世の知識持ちである事は家族以外には内緒にして下さい。バレた場合・・・」


 どうしよう?あまり好き放題されない為にも制約は設けたいけど、あまりキツイのは可哀想です。バレて困るのは、本人も一緒なんですよねぇ。担ぎ上げられるか、はたまた危険視されるか・・・。ん〜・・・

 

「チート能力を一部、失います」


 これでいいや。特権をなくすなら無闇にバラさないでしょうし、バレた時点で一般人になるのだから周囲も隠していた事を納得するでしょう、たぶん。上もこれなら怒らないはず!


「チート能力を貰えるんですか!?」


 あ・・・。日本の知識持ち五歳児の商人が世界のバランスを崩さない程度に普通に幸せに生きる為の能力。難しいなぁ・・・でも、早く死んじゃうときっと怒られそう。何歳ぐらいまで生きれば許されるかなぁ・・・この世界の平均寿命は六十歳くらい。それくらいまでは生きて貰わないと怒られちゃうかなぁ。あ、そうだ!


「六十歳までは死なないチートとかどうです?」


 因果は歪められないけど、肉体をオートセーブにして精神を別領域に保管すればいけるかな。極力は介入したくないし。


「凄い!チートじゃないですか♪」

「でも極力死なないでね。痛いものは痛いし、精神が傷付いたら大変」

「心配して下さってありがとうございます!」


 あ、いい子。これで自重して生きてくれれば安心かなぁ。他に予想される、頑張っても私のせいで不幸になる事ってなんだろう?転移先は、丁度いい子供のいない素敵な商家が公国にいるからそこに神託を与えて育ててもらおう。後は、死なないせいで拘束とか洗脳とかされると厄介だなぁ。


「四畳半程の空間領域『模倣神域レプリカ・サークル』を自由に使える様にしておくから危険になったらその空間にエスケープする様にしてね。空間収納インベントリは時空魔法として存在するけど本人が入れるのは特別仕様だからバレない様にしてね」


 これで拘束されても逃れるしオッケーでしょう。ちなみに出る時は半径1km以内にランダムで出現する様にした。死んじゃったら模倣神域で復活する様にしよう。


「ついでに、転移するのに使う魔道具をお守りに上げるから好きに使っていいよ。この世界に既にある物だけどアーティファクトと言われるレアな物だから扱いは気をつけてね」


 魔法のお守りは5つ。


【クロノグラス 】

魔法の砂時計が閉じ込められたガラス瓶。所持者の記憶を遡りその者に関わる過去を見ることができる魔法具。

【アーミラリ天球儀】

暦の計算にも用いられた天球儀。星たちの動きを見ることで今生きている世界線とは別のパラレル世界を調べられる魔法具。

【煌めきのクリスタルオーブ】

初めて魔法を授かるときに使用するマジックアイテム。魔力が覚醒していない者のみに反応するようになっており、両手で触れるとオーブの中の魔石たちがほのかに煌めき、その中の一つだけが触れた者と共鳴する。共鳴した魔石を手にすることで魔法を使えるようになる。

【魔法のスプーン】

森の魔法使いが錬成した不思議なデザインのスプーン。シチューを食べるのには使えませんが、たくさんの「幸せ」をすくい取るといわれています。

【黒竜の血の杖】

いにしえの魔道保管庫から発見された杖。媒体は竜の血だと伝えられている。


 世界を渡る上で、記憶を残すためにクロノグラスは使用した。天球儀も魂の転移調整の為に必要だった。クリスタルオーブは魔法習得のために、余った分はおまけですね。スプーンは・・・本当にただの御守りになるかも。杖は・・・ちょっとおまけをし過ぎたかもしれない・・・。


 後は商家に神託を降して、いい感じに彼らの所へ彼女を、五歳の体で送り届けるだけですね♪


「それでは、これより貴方を下界に降ろします。新しい人生に幸多からん事を♪」


「はい!ありがとうございます♪」


 こうして彼女は異世界『クィール』に転移したのだった。

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