2024/04/05 話の長い女にイライラする話

学学校のお昼休みの時間。

高校の屋上で、伊織とるいが昼食を食べていた。

「先輩、聞いてよ~。カバンにシュークリームいれてたんだけどー」

「あー、はいはい。もうオチ分かったからいい」

るいは伊織の言葉をさえぎった。

「むっ! なんか、ヤなカンジ!」

伊織は不服そうにむくれる。

「どうせ、『シュークリームが爆発してカバンの中がベチャベチャになっちゃったー』だろ?」

伊織の声真似に、ぶりっこを加えた調子でるいは言う。

「う、ううっ……間違ってないケド!」

伊織はやり場のない気持ちを抑えきれないといった様子で腕を振り回す。

「お前のやらかすことなんて大体想像がつくんだよ」

勝ち誇った目で伊織を見下す。

伊織はせいいっぱいの抵抗の視線で見つめ返す。

「そんなんじゃモテないよ?」

「モテてんだろ」

るいは伊織の言葉をばっさりと切り捨てる。

「セフレはいっぱいいるし、おまえだってアタシのことすげー好きじゃん。そうだろ? うん?」

「そ、そうだケド~……!」

るいは伊織を言い負かすことに満足し、ニヤニヤしている。

「もういいもん! 放課後にスズちゃんと話すから」

伊織はぷんぷんと怒ったフリをする。

「はいはい、わかった。さっさと話せよ」

「昨日の朝コンビニでね、陸くんが寝坊してお弁当がなかったから、お昼ごはんのパンを買おうと思って、新商品のシュークリームが売ってるのを見つけたの」

「はいはい。それで?」

「生クリームとカスタードクリームとあんこが入ってるすごくおいしそうだな~って思って、買わずにパンを買ったんだけど」

「買わなかったのかよ! じゃあまだシュークリーム持ってすらないじゃん」

「それでね、お昼ご飯前の時間が体育だったんだけど、その日はバレーで……」

「おい、シュークリーム!」

るいが口を挟む。

「シュークリームの話はどうなったんだよ」

「この先でてくるから待っててよ」

「あのさあ、もうちょい、はしょれよ」

「授業の後半の試合で、アタックで2点とって試合に勝ったんだけど、足をひねっちゃって、ちょっと痛かったの」

「運動神経はいいんだよな、おまえ」

「足のほうを心配してほしいんだけどなー?」

「どうせなんともないだろ。それで? 帰りにシュークリームを買ってカバンに入れたら爆発しました、終わり」

「ぜんぜんちがーう!」

「はあ。……で?」

「それでお昼ご飯の時間になったんだけど、物理の問題あてられてるのにまだやってないことを思いだして……」

「はよシュークリームの話しろよ! 物理の授業とかどうでもいいわ」

「ええ~! もお、ここからがいいところなのに。先輩ってせっかちだよね~。モテないよ?」

「モテてるし。シュークリーム買うとこまで飛ばせ。とばさんかったら聞かん」

「仕方ないなあ……。学校の帰りにコンビニに行ったの。朝みたシュークリームが気になっちゃって。最近体重すこし気になってたしお金も節約しようと思ってたからまだ買うか決めてなかったんだけど、今日は体育もあったしお昼ご飯足りなくてお腹が減ってたから、買っちゃおうかなって決めて……。でも、朝なかった新商品のエクレアが置いてあって、そっちもおいしそうだなって思って迷っちゃって。とりあえず袋の裏をみてカロリーを比べたら……」

「迷った話いらんわ! 買ったのはシュークリームだろ?」

「いちいち文句言わないでよ。それで結局、低糖質のチョコシュークリームにしてー……」

「ここまできて、別のシュークリーム買ってんの!?」

「それで帰ってから食べようと思ってカバンに入れておいたんだけど。バレーでひねった足が痛くて、かばって歩いてたら転んじゃったの!」

伊織はリアクションを期待して、るいの目を見つめる。

「……。大丈夫だったか?」

すごくイヤそうにるいが尋ねる。

「うん、平気。あのね! カバンを体の下敷きにしたから、すりむいたりとかはなかったんだよ。でも、家に帰ってカバンをあけたら、シュークリームがつぶれて袋がやぶれてて教科書とノートがクリームだらけに!」

「それは……大変だったな」

「うん、シュークリーム楽しみだったのにすごいショックで……」

「教科書とかよりそっちなんだ」

「教科書とノートもショックだよ~。って、いうことが話したかったの。ちょっと省略したちゃったケド。つまらなかった?」

「……」

るいは返答せず、少し考える。

「……ムカつくが意外と面白かったかもしれん」

「ほんとー!? よかった」

「60点」

「ひと言余計だよ~」

伊織はぷんぷんと怒ってみせる。

「それでその新商品のシュークリーム、今日は買って来たんだ♪ 半分こしよ」

「おまっ、シュークリーム半分こてバカか? おい垂れるって!」

伊織がシュークリームを半分に割ろうとして、制服にクリームをこぼしてしまう。

呆れながらるいが拭いてやる。

2人で食べたシュークリームはおいしかった(伊織談)。

おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る