2023/12/20 スズに噛まれたい

 冬のとある日。

 朝倉家の台所で2人で並んで料理をつくっている、るいと礼子。

 伊織とスズに包丁を持たせたくないと思ったるいたちは、2人をリビングに遠ざけて、2人で鍋の準備をしているのだった。

 伊織の弟の陸は友人宅に泊り、父親は出張中、ということで朝倉家には伊織1人。

 るい、スズ、礼子の3人がお泊りすることになったのだった。


 るいがえのきの石突の部分を包丁で落としているのを、礼子は見ていた。

 礼子の視線に気づくるい。


るい「なに?」

礼子「あの……手、どうかしたのかなって思って」

るい「ああ、これ?」

 るいはひとさし指に絆創膏をまいていた。


るい「野良猫に噛まれたんだよ。さわりにいったら」

礼子「そうだったんですね…」


 それでいったん会話は終わり、鍋の具材を用意する2人。

 そのうち思いだしたようにるいが話だした。


るい「スズってさぁ、小さい頃はバイオレンスだったんだよ」

礼子「今でもそうだと思いますけど……」


るい「性格的なやつじゃなくて、もっと物理的なやつ。今はつねってくるくらいじゃん。もっと暴力的だったの」

礼子「暴力は、しませんね」

るい「だろー?」

礼子(人をつねってるのも見たことないけど、るいさんはつねられてるんだ……)


るい「幼稚園の頃はケンカで人と殴り合いになってたんだよ」

礼子「えっ、本当ですか? 今ではちょっと考えられませんね……」

るい「マジマジ。ビンタじゃなくてグーでいってた。負けてたけど」

礼子「負けてたんですね……」

るい「いじめられて泣いてる子がいたら、見境なくいじめっこに向かっていってたんだよな。相手が男でも」

礼子「無謀すぎますね……」


るい「でさ、勝てないとなったら、手に噛みついて攻撃してたんだよ」

礼子「ええー……!?」

るい「相手が謝るまで噛みついて放さないから、ワニって呼ばれててさ……」


礼子「……さすがに冗談ですよね?」

るい「いや、大マジ」


るい「私も昔、スズと喧嘩したとき噛まれたなあって、思って……」

 ネコにかまれた指を見ながら、遠い目をするるい。


るい「もう、噛んでくれないんだよね……噛んでって頼んでも」

礼子「……」

(やっぱり、るいさんはMだと思います……)と礼子は心の中で確信を深めるのだった。

おしまい


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