第45話 「モブ鮫」と「ミサイル鮟鱇」

土星第六衛星 タイタンの地底

ポッポコプリン一世の治世下


 「グエーーーン」


 物凄い轟音と飛沫、悲鳴のような鳴き声と共に、3メートルくらいある身長のサメが一頭、地底へと落ちて来た。周囲にいたタイタン人は避難していたようだったが、頭上から落下してくる危険なメタン液体の飛沫があちこちに付着している。


 地底は摂氏10度くらいなので、落ちて来たメタンはすぐに気化する。それを吸い取るための蛇腹になったチューブが何本も蛇のように畝ってメタンを吸引していく。


 暫くして警報が解除されると、真っ白い家のようなカプセルからタイタン人が何人も恐る恐る出て来た。


 「ポピポピポピイイ」


 「安全だよ」


というタイタン語だ。


「ったく、どうなってんだよ。気候変動と生物培養器を管理する役所が機能してないだろ」


「これでモブ鮫の落下は3日続きだもんな」

「この周辺だけでなく、オッパイデカ地方じゃあモブ鮫の死骸が腐食して住民に感染症が広がっているというではないか」


「それもこれも小芋狂いの新国王が栽培施設の建設に多額の投資をして、頭上のメタン海に発生する異常を放置してるからだ!」


「おっと、ダメだ。言語警察の奴らが来やがった。ここから先はテレパシーで行くよ。送受信は暗号化して、しかも直ぐに消去できるピップク、を使えよ」


「OK、任しとけ」


 住民たちはまた居住窟であるカプセルに入って行く。タイタンの地底深くは地球とほぼ同じ程度の酸素と二酸化炭素、窒素で構成された大気で覆われている。それは元々頭上のメタンやエタンの海からDNAが発生し、生物が育って来たことに由来する。


 メタンの海は地球の深海より遥かに水圧が高く、まるで固体のように凝結していて普通は落下して来ない。微生物のみが温暖な地下に落下して来てそれが進化し、養分摂取のため葉や花がやたら大きい奇妙な植物群へと進化した。


 それら植物は酸素を作り、そしてやがて地下には動物が現れ、タイタン人に進化して行った。


 タイタン人はこの過酷な環境の中で生存するため科学技術を高度に進化させた。前述のモブ鮫やそれを天敵とみなすミサイル鮟鱇は自然界の生殖によって増殖するのではない。


 ある時点から魚類や動物、タイタン人でさえ生成AIの管理による培養機器によって増殖されるようになった。


 モブ鮫については表面が鋼鉄に覆われ、内蔵は有機化合物と金属の融合した複雑な組成になっている。名前のように50頭くらいが群れて動き回り、鋼鉄の牙であらゆるものを破壊し、天敵であるミサイル鮟鱇を集団で襲う。


 ミサイル鮟鱇は通常単独行動で、頭の前に3本長く伸びた照明器具つきのレーダー探知機をつけ、モブ鮫の集団を見ると口の中から小型ミサイルを発射して、彼らを殲滅する。


 生態系が安定していた時はお互いの攻撃には抑制があり、増殖が一定に保たれていたのだが、制御コンピュータが異常をきたしている現在では機能不全に陥り、頭上の海ではお互いを殺し合う地獄絵が繰り広げられている。


 特に頭上の海が荒れているのがポッポコプリン一世治世下のポンコン王国であり、多くの科学者が国王の施策に改善を要求してきた。


 特に彼らが警鐘を鳴らした対象は、国王の即位式典にスペシャルゲストとして招かれた痩せた地球人だった。


 「トドマツ・ボン、あの男のいうことを聞いてはなりません」


 側近の摂政、プッチンプリン・ポコピーナ公爵は国王に警告を発したが、国王の返答は


「プッチンプリン、却下」


という異例のものだったのである。


つづく










 











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