第44話 小芋依存症、ポッピコピー

I WANT YOU!

I LOVE YOU!

I NEED YOU!

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 土星の周回軌道を回る衛星タイタンは1655年、オランダの天文学者ホイヘンスによって発見された。土星の衛星中6番目と言われる。

 

 地球を周回する月半径の約1.5倍あるとされるこの衛星は太陽系では地球の他、唯一の窒素を含む濃厚な大気に覆われており、海や河川まである。


 しかし、太陽からあまりに離れているために、地表の温度は約マイナス180度であり、海や河川は水ではなく、メタンやエタンという物質が液体になったもので出来ている。


 そのため地表や海中には特殊で危険な生物しか存在しない。そして岩石でできた海底の下には、水やアンモニアが沸騰したマグマ層が存在している。


 そして海底下の岩石とマグマの間に出来た空隙に、高度な知能を持つ生物と文明が栄えることになった。


 海底に出来た穴が広がると、濃密で高圧のメタン層から液体が落下せず、光が差し込む。そしてマグマの上にある薄い岩石層は熱を持ち、摂氏5度から10°という地球から考えるとかなり寒冷な気候だが、その岩石層の上にタイタン人の居住地ができた。


 彼らはその厳しい気候条件に適応するための技術を高度に発展させた。日光を浴びることの少ないタイタン人の皮膚は色素が沈着せず真っ白だ。しかも限られた栄養素摂取のため、成人して平均でも約70cmくらいの身長しかない。


 真っ黒な瞳をして、唇はほぼなく口は真綿の裂け目のように内側に向かって貫入している。この不思議極まりない衛星の地底に約100年前、火星から使者が遣わされて交易が始まった。


 彼らから比べると非常に温暖な火星で採れる野菜や根菜類にタイタン人は熱狂した。中でも豊富なビタミンとデンプンを含んだ小芋はタイタン人を虜にした。そして丁度地球人がタバコや酒に依存するように「小芋さん依存症」が社会問題化したのである。


 中でも地球の京都というところで命名されて火星でそれを再現した「小芋の炊いたん」は、この星のポンコン王国、ポッポコプリン一世の大好物となった。


 折しも地球の京都を秘密裡に訪れた国王はかの地で採れる小芋に魅了され、それを火星に持ち込み栽培しようと試みた。しかし栽培地として選んだ火星のタルシス高地には先祖伝来の聖地を保護するポンポコ御前に率いられた狸族たぬぞくが住まい、逮捕されてしまったのである。


 一度は小芋を諦めた当時皇子だった国王は即位後、再び小芋の魅力に囚われ、3食小芋が供せられない日はないというくらいの頻度で食べるようになった。


 そして明らかな小芋依存症となり、更なる小芋を求めて地球のある人物とコンタクトし始めたのである。


 それは今や火星のヘラス盆地で流刑から解放され、火星東ベン陸軍の強硬派に担がれたかつての東ベン宰相、李安徳を通しての交渉だった。そしてその小芋の発注先こそ、謎に満ちた京都のフィクサー、


百々末凡とどまつぼん


だったのである。


「ポッピクリクリ、ポポピクリクリ、クリクリ、ク○トリス」

ー「小芋、小芋、小芋さんが食べたい、ああ、食べたいよう」


今日も国王は玉座で煩悶していた。


つづく











 











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