第40話 第二咸臨丸、火星へ
「これは大したもんぜよ」
派手なプリントTシャツにジーンズを身に着け、スニーカー姿で長髪を揺らしながら、船上でビジネスベンチャーの坂本金太郎は叫んだ。左に控えていたポニーテールの仲岡新之助も何度も頷いている。
中規模のビル1フロア分ほどもある広さの円盤「火星3号」には40名の地球人代表が乗り込み、そして火星のサニーとバニー夫婦が案内役を務めている。
「これは全部自動運転ですか?」
仲岡が尋ねると、サニーが間髪を入れずに答えた。
「そのとおりです。火星で開発した全太陽系GPSで、太陽系内なら何処へでも設定すれば連れて行ってくれます」
「仲岡君、この際、火星側の政府実力者や企業家と知り合いになって地球のワシらに投資してもらうがじゃ。ワシは英語と日本語両方で事業計画を書いてきたのじゃから。
アメリカや中国、ロシアが名乗りを上げるスキを与えず、日本で宇宙ビジネスを仕切るのじゃ。これこそ停滞の日本経済を起死回生させる千載一遇の商機ぜよ」
「そうですね、腕が鳴ります」
「そのために日火修好通商条約では通商窓口を限定させていただいたので」
後ろからバニーも二人にエールを送る。
「既にクラファンで資金を募ったところ、数億円集まっていますからね。銀行も我々の本気度を注視していますよ」
仲岡は夢を見るように上を向き、目を閉じた。そこへ後ろから長身で痩せたダークビジネススーツ姿の見知らぬ男が近づいて来た。
「ワテも是非お仲間に入れてくれはりまへんか?あ、申し遅れました。私は京都から参りました、起業家の百々末というもんです。名刺、待っておくれやす」
百々末凡は革製の小型名刺入れから二枚を取り出して、坂本と仲岡に瞬速で渡す。
「ほう、都のお人か、これはこれは、で、どんな起業をお考えなのですか」
仲岡が答える。
「実は・・・」
百々末は二人を近くに寄せ、声を顰めて言った。
「火星の巨大クレーター、ヘラス盆地には鉱物成分溢れる間欠泉が出るのですよ。何でもそれは日本の有名温泉地と同じような薬効があるとか。ワテはそれを掘って、温泉リゾート地を火星につくり、こういう円盤で観光客を誘致したいと思とりますのや。
おふたりにもワテの協力者になってもらおと思てな。悪いようにはしまへんで。ワテはヘラス盆地に知り合いがおます。その方はそこで不遇の日々を送っておいでやす。
実はその方、火星の東ベンという地域の陸軍さんにぎょーさん知り合いがありますねん。ワテと組んでその方を不遇から救出し、陸軍さんと組んで熊鹿の利権をもろたら大きなビジネスが展開できると思とりますのや」
「それは面白そうなご提案ぜよ。その方のお名前はなんと言われるのか」
「ウフフ、ちょっと差し障りもあるよってまだお名前は明らかにはできまへんが、あんさんらに損はさせるようなお方やないので、またよおおに、お考えくださいませんか。ほな、これまでということで、今のはくれぐれもご内密に」
百々末は二人の肩を軽く叩くと、別の代表に名刺を持って行った。
「うーーん、臭うぜよ。仲岡君」
坂本は顔を顰めて仲岡を見た。
「あのオトコ、どこか信用できん。これはワシのカンじゃ。一度色々探りを入れてあの男の正体を炙り出す必要があるがぜよ」
次の日は、火星西ベン地域の先端医療センターを全員で見学した。例のタヌキ五兄弟が前立腺回復手術を受けたところだ。地球で行われている鏡視下手術では、内視鏡カメラとアームを患部に挿入し、術者が3Dモニターを見ながら遠隔操作で装置を動かす。
その手の動きがコンピュータを通してロボットに忠実に伝わり、手術器具が連動して手術が完了するのだが、火星ではアームを持った極小ロボットがAIを持ち、遠隔で医者とコミュニケーションしながら患部に入って行って手術を行う。
シミュレーション動画を会議室で見た坂本は思わず叫んだ。
「この技術ぜよ、これを地球に持ち帰り、習得して国産の医療用AIロボットを製作して世界をリードするんじゃ」
「この他にも大脳に量子マイクロチップを埋め込んで、端末を操作しながら眼前に様々な情報が見られる医療機器もございます」
医師は得意げに使節団に話す。
「まずは人の健康を預かる方面の医療から行こうかのう、温泉もええけどなあ」
坂本は百々末に聞かせるように大声で言った。
つづく
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さて。次回でMARS CURRY FIRST SEASON 最終回です。最終回では、火星カレーの新社長、博士屋功夫と火星特使、リンジー・ミルフォードによる火星での結婚式で締めくくります。
新婚初夜の「アツいシーン」で第一部を閉じますのでお楽しみに。
これがまた意外な展開に・・・。超ハッピーエンドなんですけどね。
第二部は副題「百々末凡の陰謀」。あの失脚した筈の東ベンの李安徳と、リンジーとの戦いで切断した2本の指に尖った凶器をはめて隠し持つ、元皇帝正室娘が悪事を企みます。
お楽しみにいいいいいいいい。
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