第37話 処女寺本尊様、復活

ポンポコ御前の庵

その夜


「正直に話してくれて何よりでした、殿下」


囲炉裏の前でコンポコ御前はタイタンの皇子、ポッポコプリン殿下と対面しながら茶を勧めている。


「さあ、こんなものでもよければお飲みなさい、後であったかい小芋汁をご馳走しよう、大好物じゃろう。あ、それを脱がずとも飲めるのかな?」


 御前が殿下の宇宙服ヘルメットを指さすと、横に座っていたサンデル博士が説明する。


 「御前、これは特殊ポリマーで出来ているようです。不思議だが、この中へ液体が入って行けるのですよ」


 殿下が着衣のまま茶碗を口に運ぶとまるで一瞬引き込むかのように顔面の透明カバーが中へ動き、茶が殿下の口に注がれていく。


 「やはりタイタンは火星より遥かに文明が進歩しているようです。それで、殿下はどのような方法でこの火星に来たのですか?円盤も見当たらないし」


 「量子転移装置で来ました。量子では我が体も粒子であると同時に波動、それを利用して一度体の組成を分解し、波動を起こして目的地を指定し、辿り着くのです。そしてこの器具は私が到着するとバリアを張り、再び元の姿に全てが結合する」


 「太陽風など強力な電磁波は妨害しないのですか」

 「このマシン自体が強力な電磁場を形成して保護してくれるのですよ」


 殿下は腰に付けられた小さなペンのようなキットを博士に手渡す。


 「ほほう、素晴らしい技術ですね、また時間のある時に詳しく説明してください」


 博士が装置を殿下に返すと、奥の間から一斎ポンノ介が小芋汁の鍋を持ってやってくる。


 「さあさ、熱いですからお気をつけて」


 杓子、椀、箸を並べると囲炉裏に掛けて椀に掬い始める。


親切を施されて、殿下は頭を下げた。


「すみません、私が何もかも間違っておりました。小芋さんが食べたいというばかりに、地球の百々末とどまつさんと、そしてここ火星の李安徳さんとで共謀し、愚かな企みを抱いてしまいました。


 銀河系にある特殊物質ダークマターを東ベンの軍事会社に売り、その利益で地球の百々末さんから小芋さんを購入し、タイタンの仮想通貨ピッピで支払いをすることになってました。


 百々末さんはピッピを地球人に売り、それを元手に日本円で火星の先進医療薬品を買う仕組みを作り、それをピッピで日本人に支払わさせて、利益をタイタンの国立銀行に貯蓄する。


 地球からの商品もピッピで購入して売る。東ベンの飛行円盤が利用できるようになると見ていたのです。


 日本人は全て非課税で取引ができ、貯蓄が膨大になったとき、仮想国家を作ることができるという仕組みでした。しかし一番の問題は恐ろしいダークマター兵器が開発されることです。もうこの取引は私の決意でやめましょう」


「よくぞ仰った」


 サンデル博士は殿下の肩を叩いた。


 「私の情報では、李安徳と彼の娘で太宗火星帝の正室、斉麗妃ジリフェイは失脚したようです。その時の出来事です。


 このふたりを許すまじと皇帝は死罪を申し渡したというのです。

 皇帝はふたりを内廷の前に並べ、衛士にライトセイバーで斬首させようとした。ふたりは泣き叫んで助命を懇願したと言います。

 

 ところがそこにいたリンジー・ミルフォードさんは二人の助命を願い出たと言うのですよ。自分を捕えようとしたふたりをですよ。

 

 なんでも死罪にすると反省の余地がない。権力を振り回した李安徳一族は、庶民の苦しみを味わうべきだ、こう言って、彼らをあの開拓地、ヘラス盆地での開拓団として流罪に処したということです。


 あそこは火星の巨大クレーターで、一旦入れば周囲を囲む山脈壁から逃れられない流刑地です。しかも冬は零下二十度にもなるという極寒の地、


 耕作しながら反省の日々を送って貰おうというわけです。


 「流石ご本尊様、なんと尊い」


皇帝も玉蘭妃ユランフェイも手を合わせたと言います」


「流石リンジーじゃ、ワシが見込んだだけのことはある」


ポンポコ御前も手を合わせた。


「今、皇帝の命令下、仮設で処女寺の再建が始まったようです」


それから1ヶ月後

火星 タルシス高地 仮設処女寺

本堂


「さあ、アタシが再び本尊で戻って来たよ」


 リンジーはいつものタンクトップと赤のミニで颯爽とタヌキたちの前へ出て来た。


「地球のサニーから信楽経由で、もう一度ポンポコ御前の等身大像がこうやって設置できて嬉しいです。あと、ご本尊像も3Dプリンターを使って、合成樹脂とシリコンでそっくりに作ったよ。


 アタシ、都のホテルでお風呂に入ってプリンタ作動させたから、ヤバいとこもアタシそっくりになってるんで一応ビキニ着せてます。


 さあ、お披露目よ。ポコ太郎、ポコ次郎、御前様の隣に設置しな」


「へーい」


 ふたりの狸兄弟は大きなプラスチックケースを立てて、中からリンジー様のありがたい像を出してきた。それは小さな貝殻ビキニを着て、脇あげポーズを取っていた。


「お前ら、貝殻外そうとしたら電流流れる仕組みにしといたからな、ウフフ」


 リンジーが見回すと、オスタヌキ全員の下半身が直立していた。


( 著者爆笑 )


つづく
















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