第36話 殿下の危機ー御前の慈悲。
火星ータルシス高地、オリンポス山の麓。
「貴様、ここが
宇宙人の右手には先が尖ったプラスチック製のような透明のシリンダーと小さなスコップが握られている。シリンダー一杯に土が詰められている。
「これは一体何の企みじゃ」
そのふたつを奪い取ると、側に転げていた小芋と開いた小袋も取り上げた。
「キンキノピー、キロキロピー」
小さな宇宙人は高音で何かを訴えている。
「取り敢えず、申し開きは牢屋で聞こう」
そういうと腰に付けていたロープを外しながら後ろ手に宇宙人を縛る。土で汚れた宇宙服を着たまま、タイタン星のポッポコプリン殿下は粗末なナマコ板とトタン屋根でつくられた薄暗い牢屋に連行され、鉄格子付き土間の牢部屋に押し込められた。
「ピュルカピリュカ、ピッコロピッコロ、ピー」
「何を言うているのかわからん、とにかく不審ゆえ、御前様をお呼びするのでそこでじっとしておくのじゃ」
殿下はガックリと項垂れて、牢屋の中で寒そうに自分の体を抱えて座っている。
10分程して、先ほどの狸大将とポンポコ御前が並んで牢屋に入って来た。
カンヌキを開けて牢部屋に入り、殿下に対面する。
「こいつの言うことがさっぱり分からないんでさあ」
ポンノ介は御前の方を向く。
「その方、名を名乗れ、何の目的で何処から参ったのじゃ」
「キンキノピー、キンキノパッコロ」
そう高音で訴えながら、殿下は背中についている洗濯機タイマーのような器具を指差す。
「これを回せってか」
大将がぐるりと回すと翻訳が出て来た。
“My name is Prince Poppocopudding. I’m from Tytan, the sixth satellite of the planet Saturn .”
「西ベンの言葉じゃな、ワシは共通ベンしかわからん。おまえもじゃろう。こんな時にリンジーがおってくれたらのう。あいつは今、東の都におるのじゃ」御前は大将に言う。
「ああ、仕方がないですねえ」大将はもう一度回す。
「我叫泡泡哭普丁,从泰坦,土星的第六卫星。我是泰坦王国的皇子」
「今度は東ベンじゃ。困ったのう」
再度今度は御前が回すとようやく共通ベンが出て来た。
「私の名前はポッポコプリン殿下,土星の第六衛星タイタンから来ました」
「して、如何なる訳でこの御禁制の土地を調べておったのじゃ」
大将が尋ねる。
「それは・・・・言えないです」
殿下は頭を下げ、首をふる。
「おのれ、宇宙人の分際でポンポコ御前のご領地に無断で入り、訳を言えぬとは不届千万。まずは姿形も分からぬその甲冑、脱がしてくれようぞ」
大将はそう言うと首から上の装着具を引っ張って脱がそうとする。
「ピーノピーノ、ピッピキピッピキ、ピッピキピーノピーノ」
翻訳の言葉にならない叫びが牢獄にこだまする。
「やめよ」
ポンポコ御前がポンノ介の腕を取る。
「見よ、震えて泣いておるではないか。お前ら東ベンの奴らに寺を焼かれて、強いものが弱い輩を虐めることがどれだけ罪深いか、とくと分かったでのはないか。
こやつを見よ。小さく白く、弱そうな面構え、弱さを隠し補うため、このような物々しき甲冑を着ておるのよ。
ワシが話す、腕を解いてやれ」
御前がそう諭すとポンノ介は頷いて殿下を解き放った。
「おお、涙を浮かべておる。故郷に帰りたかろう。
ここは我々タヌキ先祖伝来の御用地じゃ。そこへ入って来たは訳もあろう、お話しなさい。
後で我が庵へ来て、汁物や茶で体を温め、暖かい寝床で寝てゆくが良い。あ、そうじゃ、サンデル博士に会わせればそなたと話が通じるかもしれぬ。ぜひ我が家へ来られたし、よいな」
ポッポコプリン殿下は俯いて頷いた。顔面につけられた透明プラスチックのカバーは涙で霞んでいた。
つづく
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