第35話 リンジーの死闘
「お前が命じただと」
皇帝は憤りの余り叫んでいた。
「そうです、何の悪いことがありましょうや?熊鹿を乱獲し寺に冷凍保存するなど、仏を冒涜したる所業。寺を焼いたとて、仕方なきこと。
仏教を共有するあの野蛮なる地球でも聞いたことがない。そ奴らの命を救っただけでも十分かと」
李安徳は皮肉そうな笑顔を浮かべながら反論する。
「お上、それは違います。熊鹿の乱獲はこの者が命じたこと。 このことについてはお上にも非がございます。西ベンの大統領府が勅許を得なかったと言って、元々タヌキに熊鹿乱獲の権限を与え、官位までも与えたのはお上ではありませんか?
ここまで李安徳をのさばらせたことがこんな結末になったのですよ」
側室の玉蘭妃も駆けつけてきた。
「貴方は側室に過ぎない身で畏れ多くも陛下を侮辱する気か。罰を与えるから将軍の元へ帰れ、
「それは違うな」
後ろから低い声がして、宮殿の戸が両側に引き開けられた。
「貴女は、ご本尊、ご本尊ではないか」
皇帝は青い
「そなた、いつ、ここへ来られた」
「ついさっきだよ。オリンポス山からシェアライドの円盤をチャーターして、都の城門に降り、ここまではこいつらに輿に載せてもらった」
リンジーは後ろの戸をも開け放つと、そこには貴人が乗る輿と、それを担ぐタヌキ七兄弟が両側に跪いて控えている。
「ポンタ、そこの李安徳と合意したこと言ってやんな。テメエとアタシも同罪だよな。熊鹿の売上で贅沢したもんな、ポンタは売り上げをピンハネしてそこの李安徳に賄賂してたんだからさ」
「それは
「ああ、ホントだよ。だからさ、皆んな罪深いってことさ。この際、懺悔してポンポコ御前に皆んな頭下げて謝るんだよ。
弱い生き物だって皆んな皆んなこの星で空気吸って生きてんだ。
アタシは父親の遺骨と形見を探してあの寺に住んでたんだけどさ、見つからなくってさ、戦争のお陰でこんな惨めになっちまった。
皆んなでタヌキ達や客で来たキツネに謝ってやるのが人間ってもんだろ」
皇帝は黙って俯いた。玉蘭がリンジーに何かを言おうとした時、李安徳が懐から小さなタブレットを出すと衛士を呼んだ。
「内廷に乱入者あり、確保せよ」
四方から黒装束の衛士がライトセイバーを翳して囲む。
「ポンタ!剣を」
そう命じられてポンタはの輿中からライトセイバーを放り投げる。リンジーがそれを抜き払うと刃が音を立てて光を放つ。
「アタシには、遠いところで契った好きなオトコがいるんだ、こんなとこで死んでたまるか。こんなカッコじゃ戦えねえから失礼するよ」
そういうと漢服を引きちぎるように脱いで革製の赤いビキニアーマーになった。
「かかってきやがれ」
衛士10人はリンジーの勢いに押されて引き下がる。ひとりが飛びかかるとリンジーはそのまま男のライトセイバーを跳ね上げ、首元に刃の先を突きつけて「動くな」と警告した。
その時、奥の戸を開けて、
「この不届きものが不吉な
「この破廉恥者の偽本尊、お前が動くとこいつを全部切ってやるわ」
「きゅうううう」
不吉な音と共に真紅の涙を流して目の実が床に落ち、こちらを悲しそうに見つめる。
「やめよ、おのれ、気が狂うたか」
皇帝が正室に覆い被さろうとする。
もう一本の枝に短刀が入ろうか、という時だった。リンジーはすかさず宮殿にとびあがると、ライトセイバーを振り回し、斉麗妃の二本の指を宙に飛ばした。
「ギャアアアア」
鮮血が一面に降り注ぎ、正室は床にのたうち回る。
鮮血に塗れたリンジーが鬼神のような顔で衛士に向かうと彼らは畏れをなして退く。
「李安徳と正室、斉麗妃を捕らえよ。処女寺への空爆、本尊に対する不敬と、不正な収賄による蓄財、そして国家の至宝、メノキに対する暴虐許すまじ」
ふたりは縄を打たれ、連れ去られて行く。
「可哀想に」
リンジーは俯いて切られたメノキの瞳を閉じてやる。側に落ちていた漢服で血の涙を拭いて胸に抱えてやると玉蘭妃もやって来て、ふたりはメノキの枝を抱え持って泣いた。玉蘭妃は何かを訴えるように皇帝を見上げる。
「私が、私が間違っておった。ポンポコ御前を都に呼び、詫びをする。
この通りじゃ」
皇帝は頭を下げていた。
つづく
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