第28話 「処女寺の合意」2ー楊将軍の快挙

東ベンジャミン共和国 首都 太安

太和殿


  東ベンジャミンの都、太和殿。皇帝が儀式を行うこの宮殿において、金コーティングされた龍を背もたれの両側にあしらった玉座には、太宗火星帝が鎮座している。冕冠べんかんを被り、黄袍こうほうを身につけ威儀を正して座り、その前左右両辺に昇殿を許された文官が皮弁冠ひべんかんを被り、赤の朝服に身を包み、居並んでいる。


 文官たちの後ろに同じく朝服に身を正して立膝をし、皇帝に報告するのは、辺境を制圧する正ニ品 征夷大将軍、楊秀和ヤンシュウハである。


 地球の日本に古代から近世まで存在した権威ある武門の称号を皇帝から与えられ、辺境の守りについていることと、娘の玉蘭が皇帝の寵愛を受けていることがこの勇者の誇りである。


「都の北西、東安机場トンアンジチャンに停泊させた飛行船に熊鹿肉を全て冷凍にして積載しております」 


「机場」とは、東ベンそして地球の中国語で空港を意味する。


楊将軍は頭を上げる。


「して、我が派遣した使節に熊鹿肉を譲渡せず、将軍自らが運んで来られたは何故じゃ?」


宰相、李安徳リアンダがその吊り上がった細い目を意地悪く将軍に向ける。


「はい、そのことで皇帝陛下にはお願いの儀がございます」

「お願いの儀とは、なんのことじゃ。突然の発議であれば、参内される前に書状で願い出られるのが慣例というもの。畏くも九重の内に在らせられる皇帝陛下に対し奉り、御心を乱す無礼というものであろう、将軍、慎まれよ」


「構わぬ、申せ」


皇帝は宰相を遮って一際声高く宣わった。


「陛下、こ、これは如何なる仕儀で」


李の声が上擦る。


「楊秀和はこの件に関し、寺に巣食う幾多の野獣どもと命懸けの交渉を経て熊鹿肉を手に入れられたのじゃ。正ニ品、征夷大将軍の官位に相応しき務めよ、天晴れである。褒美を何なりと申せ」


「ははあ」


将軍は両手を地面につき、感激の意を示した。


「畏れながら申し上げます。褒美はそのお言葉だけで十分でございます。もし私の願いをお聞き頂けるとするならば、手に入れたる熊肉肉を全て皇帝陛下を通じて、日火修好通商条約に基づき、日本の東京にある博士屋太郎の店に譲渡して頂きたく存じます。


 この譲渡は、西ベンジャミン共和国との友好関係に寄与し、ひいては皇帝陛下のご威光が東西遍く照らすことになるのは必定」


正にその時、宰相李安徳は思わず立ち上がり、長い扇子を将軍に向けて振り回しながら恫喝した。


「ええい、武官のそなたが国家の大事を陛下に建議し、陛下の御意志に改変を迫るとは不届千万、叛逆罪で謹慎なされよ」


「待ちなさい」


後ろから曲裾きょくきょを身につけ、玉冠を被った白髪の女性がゆっくりと歩いて出て来た。


「こ、これは東太后トンタイホウ様」

李安徳は慌てて座り直し、控える。


太后とは皇帝の母であり、父亡き後、宮廷において時に皇帝以上の権限を持つ。


「陛下、よく申されました。国家安寧こそ貴方の求めるべき道じゃ。楊将軍の提案を受け入れなさい」


「ははあっ」


「これにて一件落ちゃああく」


李安徳と対立する右僕射うぼくや、張建徳がこれ見よがしに声高らかにいう。 


後ろで控えた李安徳は膝を振るわせ、衣を握り拳で掴むと歯軋りをしている。




地球 東京都

都立x高校 3年B組教室内

某月某日 2限目 宇宙史


「はい、というわけで今の再現ドラマとこの教材の内容、入試に出るからね、全て理解したかなあ。処女寺の合意、内容いいですか? 


こんな宇宙史なんて突然出て来て君たちも大変だけどさあ、火星はこの国と友好関係にあるからねえ、国立大学共通テストにはかならず出るよお」


「ゆうこ先生、タヌキ、めっちゃカワイイんだけど」

「楊将軍ってイケメンそう。性格も、バッチリイケメンね」


「オレはやっぱ、リンジー・ミルフォードかなあ。だってさ、めっちゃカワイイし、あのミニスカ、もうたまんね〜」

「やっぱ風呂覗きたくなるわ、そりゃ。タヌキかわいそー。」


クラスの熱気は尽きない。


つづく




















 

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