第26話 「第6師団処女寺接収作戦」

火星 タルシス高地 

東ベン陸軍第6師団 野営地


「楊将軍、いかがしましょう」


 しかめ面をした楊将軍に、趙斉天チャオジティエン大尉は恐る恐る尋ねた。これが難しい局面だということを知っての上である。


 「ここで処女寺の熊鹿肉を接収し、それを東ベンからの使節に引き渡すことは容易い。しかしそれでは憎き政敵、李安徳リアンダの思うツボだ。李はそれを自分が調達した飛行船に乗せて地球で売り捌き、暴利を得ようとしているのだろう。それが日火修好通商条約に違反する行為だとしても、地球なんか火星の兵器で威嚇すれば容易いものだと思っているに違いない。


 そのことは引いては皇帝と朝廷の権威にキズをつけ、西側の不信を買ってしまい、内乱に逆戻りしてしまうことになってもだ。


  この上は、まずあの寺を今占拠しているポンポコ御前とその一党と交渉し、我々自らが飛行船で皇帝に届けると言うんだ。なあに、タヌキ軍団が一時帰国するのは間近という情報が入っている。


 そのリンジーとやらに話しをつけて、熊鹿の売買は条約に違反しないよう取り計らうと約束するのだ。そしてその際、彼らの飛行船に残りの熊鹿肉を積んて行き、私自らが皇帝に直訴する。

 

 熊鹿の乱獲を止め、今残っている肉は全部、皇帝を通じて西代表のサニーとやらに譲渡するとな。任せておけ、娘の玉蘭ユイランは皇帝の信任を一身に受けておる。正室の斉麗妃ジーリーフェイ、あの李安徳の娘は安徳に似て意地が悪く、そして醜女じゃ。皇帝は我が胸中にあるも同然:、アッハッハ」


 「成程、李安徳に従うと見せて裏切るのですな。これこそ正に肉を切らせて骨を断つ、李の野郎に一泡吹かせてやりましょう」


 「このことは当分我々二人のみの極秘ぞ。今、軍に漏れれば、引いては李が知ることになろう、よいな、大尉」


明白了ミンバイラ

 

処女寺 本堂、方丈


  方丈の前面には、ご本尊様、リンジーの立像フィギュアが安置してある。タヌキ兄弟が以前3Dプリンターでリンジーを型取り、それに真っ赤なマイクロビキニを着せたものだ。片腕を上げて脇見せしながらロングヘアの先を摘むリンジー像。リンジーが不在の時はこの像を拝むということらしい。


 ポンポコ御前はその前に綿入れを着てドッカと座り、前に居並ぶ大勢のタヌキ供を睥睨している。


 「ったく、いつ見てもこの像は狸道タヌどうを汚しておる。お前たちの目つきを見れば一目瞭然じゃ。ポンスケ! なんじゃそのアングリ開いた口と涎は。こんなもの、向こうの物置に片付けてしまえ!」


「い、いいのですか? これってこのお寺のご本尊様じゃ・・・」


「なにがご本尊様じゃ、汚らわしい。ポンスケとポンポコ三郎、お前ら二人でゆけ!今すぐじゃ」

「あ、はい」


二匹はリンジー像の肩と太腿をそれぞれ持ち、物置へ運んでゆく。


「あ、柔けえ、これ本物みたいな素材じゃ、ウヘヘ」

「ほんに、カワユイのお、脚もムッチム・・・」


「たわけ、いらんことは言わんで良いっ、黙って運べ」


御前様の怒りは止まらない。


「さて皆の衆、ここへ間も無く東の陸軍が攻めて来よう。こちらには、あのバカタヌキ兄弟が使用しておった超音速巡航ミサイルが数十機あるが、この仲間内では誰ひとり扱えんじゃろう。いざ陸軍がこの寺へ侵入しようとすれば、わしらは火矢と刀のみで戦い、命尽きるまで戦うのみじゃ。

 

 狸道に従い、正義を貫こうではないか。良いか、この熊鹿、誰にも渡さぬ覚悟。リンジーとあのバカ兄弟が帰って来れば地球との条約に従い、引き渡してやるのみよ、者ども、タヌキ族の意気を示すのは今ぞ、良いか!」


「おおっ」


大きな歓声が上がった。


つづく
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る