第24話 小芋の炊いたん 2

おりょうり ふくま

御志奈書き

小芋尽く志 夏の饍


向付   明石鯛の刺身、薄切り小芋のお酢のもん 木の芽を添えて

汁物   小芋と京豆腐の白味噌仕立て

酒    伏見の銘酒 大吟醸、山廃仕込み

煮物   小芋の炊いたん、特選近江牛のそぼろ餡和え

焼き物  鱧の焼いたん、小芋擦り流しソース添え

八寸   小芋片の寒天寄せ、近江赤蒟蒻の炊いたん

飯、香の物  厳選近江米を釜炊き、壬生菜漬け

甘味   小芋饅頭、ココナッツソース掛け


        亭主  料理長、梅俵紋三郎うめだわらもんざぶろう



「うわあ、今日のコースはこちらの殿下好みや、小芋尽くしやないですか」

 百々末の歓声に、亭主の梅俵も満足げで小さな頷きを繰り返している。


「小芋がお好きやといわはったさかい、今日は特別に腕を振るいました。百々末はんから、こちらさんが遠いお星からおいでのセレブやて聞いたので、一世一代のお仕事どすわ」


「それやそれ、このお方、ポッポコプリン殿下はタイタン星のポンコン王国皇太子やしな」


不思議そうに漆塗り饍の上に並べられた汁物と向付を見つめているその小さな宇宙人殿下を、百々末はさも愛情たっぷりのように見下ろしている。


「今日は特別なゲストやさかい、この依子と亭主の私がお相手いたしましょう。お芋さんについて聞きたいこともあるとお伺いしましたよってになあ」


「そうしてくれるか、助かるわ」と百々末。


「ピロピロポッポコピーン、ポロポロピーナツ、ポーン」


突然な殿下のご発言に百々末は宇宙服の背後にある洗濯機タイマーのような円形の機器を時計逆回りに回す。


「シェフ、アイム ベリーハングリー、キャナイ、イートディス、ライトナウ」

「あかん、英語や。もっと回さな」


百々末はもう一度力を入れてその翻訳機を回転させる。


「サジャンニム、ペガコッパニカ、チグム、イヨリ、モゴドテヨ」

「あ、行きすぎたわ」


少し戻すと3度目、日本語になる。


「ご亭主、お腹が空いて、食べてもいいですか?」

「どうぞどうぞ」


亭主は両手を揃えて前へ出す。


「私の名前はポッポコプリンといい、正式名はプランタン・ココピーナツ・トッテンバッタン・コッテンボックン・ペロペロプリン・コンポートコンプリート・ポッポコプリン・パッパカプリプリ・チョッチョコトロトロ・ポロバナ・ホロバナ・ズングリムックリ・チンコフリフリ・ウンコブリブリ・チョコバナーナ殿下と申します」


「長いお名前や、昔、寄席で聴いた桂米朝かつらべいちょう師匠の寿限無じゅげむていう落語思い出しましたわ。覚えるの大変どしたやろ、あはは。失礼」亭主が思わず笑う。

「記憶力はいい方なので。円周率は1000桁までいけますよ」


白味噌汁をひと啜りして、殿下は答える。


 汁物が終わったところで亭主は二人が手にした盃にそれぞれ日本酒を注ぎ、銚子を前にコトンと置いた。


「あ、そや。お酒は大丈夫ですやろな。あ、そうか、とーっくに成人過ぎたはるさかい、よろしおすか?」


「なんでもいただきますよ」


高音の答えが返ってくる。不思議なことに宇宙服の顔に被せられた透明のカバーは、殿下の盃を吸い込むように通して、口の中に酒が注ぎ込まれてゆく。


「特殊素材ですからなあ」


驚く亭主に百々末が説明を入れる。ほんのりピンク色に変色した殿下は潤んだ目になって余計に可愛さが引き立つ。


「さすが王族の方、ええ飲みっぷりや、さ、さ、もう一献」


亭主に勢いがつく。


「美味しい、ほんとに絶品だ。このお芋は火星の小芋より柔らかいですね、一体どこで採れるのですか?」


殿下は大好物である「小芋の炊いたん」を、もぐもぐと小さな口を動かし咀嚼しながら上機嫌に言う。


「ほう、火星にも小芋さんがおますか? 不思議やなあ。このお芋さんはお隣の滋賀県北部の農家さんから仕入れとります。なんやったら、少しお裾分けして百々末はんに届けましょか。それとここの店のもんに言うて、百々末はんをご案内しますけどな。宇宙人はんがいかはったら、腰抜かしてしまうやろからね、あはは」


「ぜひ、是非お願いします」


百々末は両手を合わして言った。


つづく














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