第21話 皇帝の激怒
「ええい、なんとしたことじゃ」
東ベンジャミンの都、太安の中心に座するのは巨大で豪華な太和殿である。皇帝が儀式を行うこの宮殿の玉座には、太宗火星帝が眉を顰めて鎮座している。
前方には
「御一堂、この暴挙は朝廷に対する謀反としか言えません。今、あの処女寺に巣食う悪女とタヌキ供は全部地球に居るはず。飛行船で地球に運んだ熊鹿肉は半分にも満たない量。直ちに
「しかし宰相、東が独断で進軍すれば西ベン陸軍が攻めては来ませんか、そうなるとまた内乱になるやもしれないですよ」
そう反論したのは李と対立する男、対面に座する右僕射の
「もう少し冷静に考えようか」
皇帝は顎鬚を撫でながら一堂を見渡す。
「何を優柔不断なことを仰っているのですか!これは畏くも天を司る皇帝への叛逆でございますぞ、しっかりなさいませ」
李が吊り上がった眼を余計に吊り上げて反論する。
「無礼者、畏れ多くも皇帝に対しなんたる口のききたかか。場所をわきまえよ」
後ろから
「あなた様は、楊将軍の娘で側室の身、このような御発言こそ無礼というもの。武官の娘はやはり、このように無骨なものかのう。しかも我が娘、正室の
「何を申すか、無礼な、左僕射、控えよ」
玉蘭は一喝する。
「双方とも止めよ、朝議を掻き回すこのような行いは懲罰に値するぞ。朕は天子であり、朕が決める。まず、西ベン大統領ペリーと遠隔会談した上で、治安保持のため第6師団を処女寺の近辺に野営させることとする。
処女寺では最近良くない噂ばかりが横行しておる。留守の間に他のタヌキどもが寺を占拠しているとか、余りの熊鹿乱獲に民が怒っておるとか、タヌキ供が寺のご本尊に無礼を働くとか、乱世、下剋上の極みじゃ。
それを探るための出陣である。様子がおかしければ楊将軍に命じて攻撃させればいい。その段取りは大統領と今夜打ち合わせることとする。以上じゃ」
「さすが陛下、御心のままに」
玉蘭は笑顔で応じた。
つづく
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