第19話 再会、リンジーの勇気
もう一機のUFOが木の葉の落ちるが如くゆらゆらとピオンモールの巨大駐車場に降りてきた。
既に周辺は警察が厳重な規制線を何重にも張っていたが、ビル、マンションの窓や工場、学校の屋上からスマホで動画を狙う者も多くいて、ネットや報道は沸騰した。
ズーム機能を使用して撮られた動画を見て、市民は熱狂した。既にスターになっている制服姿のサニーがタラップから降りてきて、真っ赤なミニのリンジーとキツくハグしていたからだ。
「久しぶりね、会いたかったよ、リンジー」耳元でサニーが囁く。
「アタシもだよ、サニー。元気そうで何よりだった」
「リンジー、カイルとは別れたんだ」
「うん、高校卒業してすぐ。あいつ新しいカノジョできたんだ。
サニーはバニーと幸せそうじゃん」
「お陰様でさ。さ、それよりアタシの飛行船で手打ちしよう」
「それはいい。タヌキ達はここで待機させるから」
リンジーはタヌキ達の方を振り向くと、キッパリと言った。
「お前ら、ここで待っとけ。アタシがひとりでサニーとカタをつけるから。合意できたら大泉首相に報告して、ペリー大統領と交渉してもらうから」
「待ってください。オレは中へは入れないんですか?これでも東ベンで按察使、正三品の官位を受けてこうやって来ているんですよ。しかも皇帝の勅許を持って」
「お前さあ、東ベンの皇帝ってどんだけのもんなんだよ。三権の長は大統領、ってのが憲法じゃなかったけ」
「知りませんよ、問題になっても」
「それはテメエがそういう問題を起こすってことか、起こせよ、起こしてみろよ。お前さあ、風呂ノゾキやがってアタシの胸で泣いたことを、タヌキの親玉、ポンポコ御前に報告してやろうか。このキット操作すりゃ、ここに3Dで出てくるぜ。アタシ、あのおタヌキ様と仲良いんだよ」
「そ、それだけは・・・・」
「小林医院より良いトコ行きたくねえのかよ。テメエのチンポコ、もう一回勃つようにしてやりてえけどよ、ムリかよ」
「ホ、ホントっすか?」
「ああ、でもアタシのジャマしやがったら、ここで西ベン先端医療研究所に電話してキャンセルしてやらあ。テメエの分と残る兄弟の分まで予約取ってるけどよ」
「わ、分かりました。ここで待機します」
ポンタは残る全員のタヌキに待機を指示した。
踵を返してリンジーはサニーに促されて円盤に入っていく。バニーも入り口ドアを開けてこちらを見ている。
夜7時。
博士屋太郎の住むマンション。TVニュースをみる夫婦。
「7時のニュースです。横浜市緑区に停泊した東ベンジャンミン地域の通商代表、リンジー・ミルフォード氏と大泉洋純首相、ベンジャミン共和国大統領セオドア・ペリー氏との三者協議により、新たに日火修好通商条約の締結に向けて内閣府で基本方針を策定する方向で調整が進んでいます。
それによると、ミルフォード氏を船長とする飛行船を新たに通商の窓口に追加し、火星、処女寺から輸送される冷凍熊鹿肉と火星桃は全て八百屋太郎改め、株式会社MARS BURGER が一手に購入券を持つことと決定される見込みです」
「やったあ、き、絹代、オメエ、やっぱ人間正直に生きてると、か、神様見てらっしゃるんだよ。
よかった、よかったじゃねえか。サニーさん、バニーさん、リンジーさんって言ったけな、ありがとよ、ホンッとありがとよ」
「お前さん、あたしゃあ幸せもんさ、お前さんの周り、みんないい人ばっかでさ」
太郎はテーブルの上に泣き崩れた。
つづく
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