第16話 陸軍特殊部隊奮戦記ー円盤を無力化せよ。
東ベンジャミン共和国、タルシス高地
赤茶けた火星の酸化鉄を含んだ岩地と砂丘の夜に黒々とした一団の人影。
「大尉殿、遠くで雷鳴が」
モリス少尉は大尉を心配げに見上げる。
「まだまだ大丈夫だろ、岩陰に潜むんだ、ここなら大丈夫。ここは東ベン。アイツら油断してるから、しっかり見ていない筈だしな。まさか西ベンの特殊部隊がここに隠れてるって思わんさ」
「モリス、このバッテリーで充電しておくんだ」
「ああ、もう充電は終わったよ。ケリー少尉」
「こう撃鉄を起こせば、電子がこの真空管に一粒ずつ入って行くはずだ。後の隊員も全部充電済んでるのか?ジェスチャーでいいから、返事しろ」
大尉が厳しく辺りを見回して命じる。
全部が頷く。
「大尉殿、こんな軽いのでホントに大丈夫なのですか?」とケリー少尉。
「重量は関係ないさ。大事なのはこの真空管を通って、反物質の陽電子が一斉に発射されるかどうかだ。技術者出身の私だから、この銃の仕組みがいかに優れているかよく分かる。
真空管の中にある量子の平衡がこの電子の突入によって破られ、反物質の陽電子が発射される、するとヤツらの円盤下部、リフターから出てくるマイナスの電荷を帯びた電子と衝突して
電子の質量が消えるということは、それは全て光に変換され、莫大な熱エネルギーが生じてリフターは破壊される。飛べなくなるわけさ。まあ、円盤の内部は保全される強度はあるだろうけどよ。
でももし落雷が発生してその熱を吸収してしまえば、恐ろしい熱エネルギーが生じて、ひょっとすると空間と時間が曲がり、そのまま円盤は瞬時に目的地に到着するやもしれない。或いはその前に熱で円盤も我々も全て一瞬時に消滅する。これは賭けさ」
「あ、円盤から女が降りて来ましたよ、何か見張っているようです」
「いい女だな、モリス。赤いミニなんか履きやがって。タヌキ供のリーダーだよ、アイツ。我々に寝返っているから見つかっても大丈夫さ。でも大した度胸だな。こうなるって知ってるはずなのによ。そこがまたいい女なわけさ」
「あ、女が入って行きます」
「飛ぶぞ、これは。アイツ、我々に合図しているのかもしれねえ。よし、光で目をやられる。全員、ゴーグルを被るんだ。特殊レンズ付きだから裸眼より良く見えるぞ。一斉に撃ち方、構え」
「イエス、サー」
全員の声。
西ベンジャミン陸軍特殊部隊は30人のエリート部隊で士官と少人数の士官候補生、そして戦闘経験豊富な下士官数人で構成されている。一斉に円盤の下部を狙っている彼らに沈黙と緊張が漲る。
円盤が眩しい光りを帯びて上昇してゆく。
「撃ち方、始め」
電磁波無力化銃から一斉に光線が発射され、それが円盤下部の光と交わり、まるで雷光を間近に見ているように刺すような光の放射が起こる。円盤が揺れ、上昇が止まる。
「このパワー流石っすね、テスラック、やるなあ」
「あ、大尉殿、雷鳴が、雷鳴が 近づいて来ています」
「撃ち方、止め」
「あ、大尉殿、ダメです。円盤が、じょ、上昇して行きます。加速がついてゆきますよ、やばいっ」
「よし、こうなったら賭けだ、撃ち方、始め!」
再び角度を上へ上げて光線が発射される。円盤下で強力なスパークが起こり、ゴーグル着用でも眩しくて目を細める隊員たち。
その瞬間だった。黒雲の間からまるで滑り落ちて来たかのようなギザギザした雷光が対消滅で生じた光線と交わり、そして光の塊は円盤を取り巻くとグルグルと渦を巻いて回り始めた。
「ああっ」
渦から出た昆虫の触手のような光線で部隊全員から光線銃が奪い取られ、空高く舞い上がり、銃も渦を巻く。そして次の瞬間、まるで吹き消すように円盤は忽然と姿を消した。後には光線銃が回転運動しながら空から降って来て、バラバラと音を立てて虚しげに地面に落ちてゆく。
「ユー、マザーファxxxx」
空を睨みながら大尉は地団駄を踏んで悔しがった。
「オレはなあ、あの東ベンとの内戦で、この地、タルシスの戦いでオヤジを亡くしたんだ。おまえら東の独裁者供を許さねえ、必ずや仇を取ってやる。覚えとけ、太宗火星帝」
つづく
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