第15話 電磁波無力装置
西ベンジャミン共和国 大統領執務室
「ああ、ようこそ、テスラク会長、ミスター・イーオン・ムスタック。お会いできで光栄です。今日は東ベンの地球侵略を打ち破る新兵器の仕組みをご説明にこられたとか。とても信頼しております」
西ベン大統領セオドア・ペリーは微笑みながら右手を挙げて、握手を求めた。
イーオンも満面の笑顔で固い握手を交換する。
「光栄なのはこちらの方です。それでは簡単にご説明しましょう。まずは地球でUFOと呼ばれている我々の製造した円盤製品「火星3号」の飛ぶ仕組みからお話ししましょう。
我々の円盤型飛行船の下部には、リフター、別名グラビティ・キャパシターと呼ばれる空中へ浮上する電磁波発生装置が取り付けられています」
イーオンが小さなペンケース程のキットのボタンを押すと、空中にホログラムの画像が浮かび上がった。
「このリフターは、太陽光を集めて電力に変換するパネルを用いてマグネットワイヤーに電磁力を送るシステムです。大統領は物理の授業でニ物体間に発生する引力は、質量の積に比例し、二物体間の距離の二乗に反比例することを習われたでしょう。
即ち、質量と距離が釣り合う時、どちらかが遠心力と重力を平衡させて浮上し、周回軌道を描いて自転するのです。しかし通常、火星の重力は巨大過ぎて小さな円盤は浮上できない。ではどうするか、
円盤の下に強力な電磁波を発生させてそれを運動エネルギーに転換し、火星の重力に抗うのです。そして浮上する。それでは、この円盤が離陸するのを防ぐ方法はあるのか、実はあるのですよ。
電磁波発生装置で出来るのはマイナスの電荷を帯びた電子です。だからこれを無力化するにはプラスの電荷を帯びた反物質の陽電子をぶつけてやる陽電子スピードガンを用いればいい。
まず真空のチューブを制作し、そこに微細な穴を開ける。真空状態では電子の状態は陰陽が釣り合って平衡状態になっている。この真空チューブの穴から通常のマイナス電子をぶつけてやると、真空の平衡が崩され「電子の揺らぎ」が起こり、平衡を保とうとして反物質の陽電子が発生する。
それを外へ飛ばすのです。ここに試作品を持ってきました」
イーオンが細長い金属のケースを開けるとフェルトでできた緩衝材の中にレーザーガンのような装置が入っていた。
「これです。真空チューブが装着されているので、とても軽くて持ち運び易い。これを最低でも30丁くらい揃えて一斉に円盤の下部を狙えば、離陸できないです。
但しひとつ懸念材料があります。タヌキ軍団が火星3号を離陸させる期日はリンジーからの情報で把握しているのですが、その時期、タルシス高原には落雷が多い。もしも巨大な電力を持つ雷と接触してしまえば、この電磁波妨害銃自身も、円盤自身も感電する。
すると二つの機器の間で発生する電磁力の相乗効果を持った円盤には恐ろしいことが起こるのです」
「それは何なのか、言いたまえ」
「物質のエネルギーは質量と光速の二乗に比例する、そして何ものも光速を超えることはできない、でしたよね。しかし余りの電磁力が発生すると時間と空間が曲がり、その結果円盤に巨大な運動エネルギーが発生し、光速に近づき、空間から忽然と消える」
「す、するとどうなるんだ?」
「そのままあっという間に日本に到着してしまうのです」
「落雷か」
大統領は唸った。
ちょうどその頃、火星 処女寺近くの小林泌尿科&ED治療クリニック
「次の患者の方あ」
看護師が呼びかけると診察室にはゾロゾロと五匹のタヌキが入って行った。
「うーん、これ手術でも無理かもしれないですね。皆さん、これだけ前立腺が損傷しているとね」
小林医師は、前の大きなスクリーンに五匹のレントゲン写真を映し出した。
「幸い、ポントさんは生殖器に異常が無いので、勃起不全は心理的なショックでしょう。後の方々はやはり、悪さをした天罰ということでしょうなあ。ポントさんも、その後もマスターベーションとかはできないですか?」
「はい、あの事件のショックが大きくて。彼女の画像を見ても、余計に恐怖感が募って」
「まあ、気長に行きましょうか?性欲に代わるなにかでタヌキ人生を満喫してください。ポントさんはそのリンジーさんの動画じゃない何かをオカズにしてみてください、じゃあね」
タヌキたちは項垂れて診療所を出て行く。彼らの前には夕刻に火星の空に輝く二つの衛星が虚しく光を放っていた。
つづく
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