第13話 経営の展望と不安
一年後 (株)MARS BURGER
東京 六本木 本社会議室
午前9時 役員会議
「それではこれから、当社の戦略会議を開きます」
太郎はもはや濃紺のビジネススーツを着こなしている。
広いとは言えないが、メインストリートから少し入った路地にある瀟洒な雑居ビルの3、4階に本社を置き、吹き抜けになった中央の螺旋階段で往復する仕様になっていて、不便はない。
3階の会議室も、20名程度の社員数では十分にスペースが取れる。
「それでは、常務取締役、博士屋功夫君、今後の展開をプレゼンしてくれないか」
「はい」
功夫は前に出て、パワポのスライド、1ページ目をクリックして、説明を始める。
「お陰様で、TPP マーケティングソリューション様や五菱PFJ様から出向されたり、当社の社員になられた方が我々の起業をお助け頂いた結果、相当額の利益がこれまでに創出出来たことにまず謝意を述べねばなりません。ありがとうございます。
鯖山ヒルズの一号店は今や国内だけに留まらず、海外からのインバウンドの方々からも強く支持され、海外メディアにも取り上げられる盛況ぶりです。また、渋谷に2店展開するカジュアルな店舗も連日、高校生や大学生、家族連れで賑わっております。
近々、これをベースに更に店舗数を拡大して、ゆくゆくはフランチャイズ展開して行きたいと考えている所存でございます」
ここまで話すと功夫は額に滲む汗を拭って、太郎の方を見た。
「社長、あのことを報告していいですね」
「ああ、いいだろう」
太郎がうなづくと、功夫はパワポを操作して動画スライドをクリックし、停止モードにした。
「これからお話をすることはどうかここにいる役員5人だけで内密にしていただきますようお願い致します。社長、私、副社長である五菱から出向の
今からお見せするのは、UFO内で火星人代表のサニーさんにインタビューした時の動画です、どうか内容に注意してご覧ください」
動画をスタートすると、そこにはダークスーツに身を固めたサニーの姿が映し出された。
「役員の皆様、おはようございます。火星人代表、サニーです。日頃は火星バーガーをご愛顧いただき、我々夫婦もその収益の一部で満足に生活させて頂いています。実は今後の熊鹿肉の入荷について憂慮される事態がございます。
当分一・二年は、この巨大な飛行船下部に積載している冷凍肉と、この開閉式ドーム基地に運搬されてくる火星からの定期貨物便で材料の供給は確保できます。しかし、その後店舗の拡大が予想されると需要に見合うだけの熊鹿肉が確保されるかどうか、不安な状況がございます。
我々の祖国、火星にあるベンジャミン共和国では、今内紛が起こりつつあります。我が祖国は共和政で、主に二つの異なった政治体制の地域で成立しています。
私の出身である西ベンジャミンはセオドア・ペリー大統領を元首とし、上下両議会から成り立つ民主主義国家です。言語は国家の略称と同じく、通称西ベンと呼ばれ、地球の英語とほぼ同言語です。
対して、東ベンジャミンは太宗火星帝が君臨する律令制国家です。中国の清朝や日本の平安時代までと同じ体制ですね。因みに東ベンは地球の中国、北京語とほぼ同言語です。
共通語として学校教育で学習され、使用されるのは「共通ベン」といい、これは地球の日本語と酷似した言語です。
我が国は長くこの2地域による内戦状態にありましたが、10年前に終結させて、一応西ベンの体制を優位として、統合したのです。しかしその後も大統領と皇帝の間で諍いが続き、今回の日火和親条約も皇帝の勅許を取らなかったせいで、東ベンが通商の妨害を始めたのです。
より具体的には、東ベンの西部国境地帯にある処女寺のタヌキ軍団RACOONS が、皇帝から貸与されたミサイル発射装置で熊鹿を乱獲して大量に違法冷凍貯蔵している状態なのです。つい最近入った情報では、その貯蔵してある違法熊鹿肉を積載した飛行船で、東京近郊に飛来する計画があると聞きました。
もし信憑性があるとすると、日火和親条約を踏み躙る暴挙です。これが最大の熊鹿に関する危機ですが、ひとつだけ希望があるとすると、彼らが処女寺の本尊として祀り、聖処女様と崇めているリンジー・ミルフォードは私がハイスクール時代、一緒にチアリーダーをしていた大の親友なのです。ですから、彼女に何とかコンタクトして、タヌキ軍団の暴挙を止めることは出来ないかと考えているのです」
ここまでの話で一度功夫は動画を止めた。役員のあいだに溜息が漏れた。
つづく
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