第11話 火星バーガー完売
某月某日 月曜の早朝
都立x高校 3年B組教室内
校風は自由、制服はなし。
「おい、コンビニで買ってきたぞ」
ケンタが駆け込んでくると周囲の生徒が数人集まった。
「あ、あれだろ、火星人のえーっと、サニーって子のグラビア」
リョウも目を輝かせる。
「うわあ、これ見て、ムネ、デカっ!表紙からこれだもんな」
アツシが叫ぶ。
「この水玉のブラがちぎれそうっすね」とケイスケ。
「いいなあ、ちょっと眩しげに見上げるこの目つき。ピンクのリップがチョーカワユイっすね」
「今週の週プラ、ぶち抜き10ページの巻頭グラビアだもんな。よく手に入ったもんだよ、ケンタ。オレ行った時は、全部売り切れてたもんな、駅のコンビニも全部」
タクヤが悔しがる。
「おい、このページ見ろよ」
慌ただしくケンタがページをめくると、センターフォールドのページにはUFO内部のベッドの上でしどけなくうつ伏せになった水玉ショーツ一枚のサニーがこちらを妖しく見ている。
キャプションには
「ねえ、UFOでイイコトしない?♡」
「おお、タマランなあ、イイコトしようって、
もういま、スグ、したいっすよ、はい」
「タクヤ、オメエ朝からエロモードすぎるんだって」
アツシの一言でみんなが爆笑する。
「このQRコードからサニーのYouTubeサイトに入れるそうだぞ」
「見たい、見たい」
口々に男子はそういうと我先にスマホをかざしている。
「写真集も100万部行きそうって、ネットニュースに出てたぜ、たしかタイトルは「火星のヒミツ」だっけな。これってデジタル版がまだ出てねえんだよな、秋林社、焦らしやがってさ」
「女子見ろよ、あのサニーの制服、もうどこかで売ってるんだ」
ケイスケが指差した方角には、クラスでも派手目のルイが濃紺ブレザーにちょっと大きめの赤リボン、股下スレスレの超ミニスカと膝上くらいまであるピンクのニーソを着こなしている。
「ねえ、サニー仕様のスカート、短すぎてちょっとハズイんだけど」
ルイがしきりに裾を引っ張りながらそういうとサキが
「でも、カワイイよ。ピンクのニーソなんて、さっすが火星ファッションね。 ねえ、それどこで売ってたの?よく手に入ったわね」
ときく。
「あはは、ネットよ、ママにアルゾンプライムで買ってもらっちゃった」
「まだ在庫あるかなあ」
ユカがスマホを検索すると、どこの通販サイトでも
「入荷待ちです」、失望が広がる。
でも女子の通学カバンには漏れなくバニーの小さな縫いぐるみがぶらさがっている。
「バニーってカワイイよね。でもさ、このカップル、バニーの方が男子ってちょっと笑っちゃうわね」
「この二人夫婦なんでしょ?」
「やだー、あのさ、夫婦ならさ、あの・・・」
「やだー、サキ、変なコト考えてんでしょ!」
「あのさ、週プラのインタビュー記事に出てるぜ、それ」
ケンタがルイの机周辺に行って、記事を読み上げる。
「え〜っとさ、火星は赤道付近でも昼間摂氏20度くらいなんで、夜はもっと涼しいからモフモフのバニー抱いても汗かかないの。でもさ、やっぱハゲしい時はいっぱい汗かくよねえ、地球と一緒、だってさ」
「やだー、読み上げなくていいし」
「サキが知りたがったんじゃん」
「てかさ、あの八百屋で売ってる熊鹿肉バーガー、毎日完売してんじゃん、男子はもう食べたの?」
「ルイはそういうトレンド乗るの早いし、食ったんだろ?」
「え、アタシ、ムリムリムリ、ケンタ、あれって整理券貰わないとゲット出来ないって知ってた?」
「え、そうなんだ」
「だってさ、長蛇の列じゃん。ポコポイント1000点貯めるとコンビニで食券付きの整理券もらえるのよ」
「えー、マジかよ。1000なんて未だムリっすよ」
「後は整理券クジも最近置いてるとこあるから、引いてみることね、まあ、当たんないけどさ」
ルイが顔を顰めていると、後ろにいたアリサが嬉しそうに飛び込んできた。
「アタシ、火星バーガー、食べたよ」
「えー、まじかよ」
「ママがコンビニで当たりくじ引いちゃってさ、あの八百屋太郎で半分っこして食べちゃった」
「で、味は、味はどうなの?」
後ろから飛び込んできたタクヤが目を輝かせる。
「柔らかくってさ、ジューシーで美味しいよ。火星仕込みのソースもう超絶美味いんだ」
「食いてえ、で、サニーと握手してえ」
「おい、サニーが今度渋谷でバーガーの宣伝に出てくるみたいだぜ」
ケンタが拾ったネットニュースにクラス中周りを取り囲み、怒涛のような歓声が上がった。
つづく
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