第10話 大統領の苦悩
西ベンジャミン共和国 大統領府前の道路上。
SAVE THE BEARDEER.! (熊鹿を救え)
STOP THE MASSACRE ! (虐殺を止めろ)
EXPELL THE EMPEROR! (皇帝追放)
大統領府を取り巻く塀に貼られた色とりどりの横断幕と共に、フライヤーが撒かれ、環境保護団体のスローガンが部屋の中まで響いてくる。
「オーラ、コモエスタ、プレジデント ペリー」
右手を挙げながら愉快そうに大統領執務室に入ってきたベンジャミン共和国国務長官ラモス・タコスは場の空気を感じて思わず肩をすくめた。
「パルドン、な、何かありましたか、セニョール」
「君は国務長官なのにまだ状況を把握していないのかね、一体この大統領府の周囲に聴こえる抗議をなんだと思うのかね、君は」
「あ、すみません、今日実は結婚記念日でワイフが朝から機嫌良かったもんで」
「君の家庭生活なんかこの際どーでもいいんだよ。東のヤツらの熊鹿狩りをどうしてくれるんだ」
「いや、私にも実際見当が・・・。 やっぱり地球と条約を締結される前に皇帝の勅許を取られた方がいい良かったかと」
この一言にペリーは思わず感情が爆発し、読んでいた資料をタコスの上半身にぶちまけた。
「この国は共和国といえども立法権と行政権、司法権はこの大統領にあるんだよ。皇帝は只の飾りもんだ、共和国憲法を読んでないのかね」
「し、知ってますよそれくらい。ただ、向こうも自治権を持っていて、皇帝は一応国の元首的存在かと」
「だからややこしいんだよ、だから。こんなことなら統一なんてせねば良かった。こっちは横文字だし、向こうは漢字圏、食うもんだって宗教だってみんなみんな違うんだからな」
「でも、長年の内乱状態に終止符が打てたんですから」
「ああもういっちょ、戦争したいよ。でも向こうも核持ってやがるしな。どうしたらいいんだ、MIA (火星中央情報局)長官を呼べ」
大統領の後ろにいた国務省次官がペンについている端末に囁くと、一人の髭面で恰幅のいい中年男性が大股に歩いて入ってきた。
「ウイル、よく来たな。その後、新しい情報あるか」
「はい、あの処女寺の本尊として本堂に祀られているリンジーは、もうこっちに寝返ってますからね」
国務長官は親指を立ててウインクした。
「あのリンジー・ミルフォードだろ、アイツ処女でもないのに処女寺の生き神様になっちゃったからな、単にキュートでセクシーってことで」
「この間アイツの休暇中に、オリンポス山にある別荘で高いワイン数本とイケメンのオトコ紹介したら、もうコロッと」
「ホントロクでもねえ神様だよ、まあいいや、で、どうなんだ」
「実はあのクソタヌキ供、飛行船で日本の横浜にあるピオンモールってところで熊鹿の大売り出しを計画中とか」
「オーマイゴーーッド、そんなことがあったら日火和親条約は破棄されるぞ。開港は北区の八百屋太郎に限定してるのによ、ウイル、それでどーするんだ」
「とにかく、アイツらが火星3号を離陸させる時に妨害電磁波を張りましょう。火星3号の下部に設置されているグラビティキャパシター(重力保存装置)を無力化する強力なやつを今、テスラクが開発中なんですよ」
「テスラクか、急がせろ」
「アイアイサー」
つづく
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レッツゴー、フランイングゲット。
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