第9話 タヌキ軍団ーRACOONS

火星 赤道周辺 アマゾニス平原 

東ベンジャミン共和国 

広原州クワンユエンチョウ


「発射!」


 発射装置からスーパーソニックの地対地小型巡航ミサイルが発射されるとそれはGPS に誘導されて熊鹿の胸に命中し、次の瞬間耳を塞ぎたくなるような悲鳴が大地に轟いた。「グエエエエエエエエン」

巨木の樹々が薙ぎ倒され、噴煙が上がり熊鹿の倒れる爆音が轟く。


「やりましたぜ、兄い」タヌキの三男、ポンツが長男ポンタに振り向く。

「後は処女寺しょじょじで屠殺処理だな、うへへ、今日もでかいのが撮れたわい」


残りの兄弟達が小躍りで周囲をはしゃぎ回る。


 走り寄ってくる何十匹もの配下タヌキ達が熊鹿の巨体に太縄をかけ、赤茶けた大地を何列にもなって引き摺ってゆく。一面の砂埃、熊鹿の血痕、そして・・・・


しょ、しょ、しょじょじ、しょじょじのにわは

つ、つ、つきよだ、みんなでて こいこいこい。

あのこはしょじょだし、ふろばですっぽんぽん。


「何という下品な歌じゃ、あの大合唱止めさせることはできんのか」


東ベン陸軍中将、チャン将軍は大尉に向かって顔を顰めた。


「あいつら、皇帝の勅許を頂いたのでやりたい放題ですよ」

東ベン陸軍、第6師団駐留基地の監視塔から双眼鏡で見ていた大尉が溜息をつく。


「この監視塔からでも派手に聞こえるわい、ホントに嘆かわしい」


将軍が首を振る。


「だいたい、あんな奴らにこの陸軍予算で購入した高価な超音速巡航ミサイルを何十機と与えるなんざ、軍は皇帝の直属とは言え陛下も正気の沙汰ではないぜ」


「あれね、中書省の宰相、李安徳リアンダが全部仕組んだことですよ。中書省は皇帝の勅許を起草できるんで、あいつ、権力を独り占めにしやがって。しかもあのタヌキ兄弟の長男ポンタに官位まで与えてるから手出しできねえんですよ」


「官位って、広原州の按察使のことか。あのアホによくやったもんだな」


「按察使といえば、正三品、公卿に列せられる位ですからね。李の野郎、アイツらが売った熊鹿の利益の一部をコミッションとしてぽっぽしようとしてるんですよ。しかもバカタヌキはこの州の行政監察をする立場なんで、手を出せば我々が処刑されますからね」


「そうだな、都の公開処刑場に連行され、でっかいライトセイバーで首斬りだもんな、全く世の中どうなっちまんてんだ」


「元々あの寺は禅林寺という名刹だったですからね、あそこの老師、最期は寺院の方丈で即身成仏なさってそれはそれは人徳の高い高僧だった。あのタヌキ供を可愛がって本堂へ上げて餌をやっておられたのが裏目に出ましたね。


 和尚の成仏後、アイツらあの名刹を乗っ取り、処女寺なんてロクでもねえ名前つけやがった。おまけに殺生を禁じる仏教寺院に熊鹿の屠殺施設なんか拵えて、冷凍設備まで拵えやがって。まったくもって罰当たりな」


「でもな、それもこれも西ベンの大統領ペリーが勅許を得ずに地球の日本国と通商条約を結んだからなあ」


「あれはちょっとやりすぎでしたね、ペリーさん、皇帝嫌いだと言ってもやっぱり面子立てとかないと」

「まあ、その煽りを受けて我々陸軍も熊鹿狩ができなくなってしまったもんなあ」


「ミサイルも取り上げられたし、手脚が出せません。あ、そうだ。ひとつだけあのアホタヌキ供をやっつける方法があります」

「え、どういうことだ?」

「あのね、私、顔だけは広いんで、人間は元よりタヌキのコネもあるんですよ」


つづく





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