第8話 商談開始
「これがUFOの内装ですか、すっごくオシャレですね、しかも照明もとても眼に優しい」
功夫は想像していたよりずっと広く明るい内装に目を奪われていた。
「まあ、通常のホテルにあるスイートより広いですからね、あ、リビングとそのキッチンの隣は我々のベッドルームになっています、まあ営業時間過ぎるとホテルに戻るんですけどね、ハイアット、いい部屋とっていただいてるから」
バニーが片隅にあるドアを開けると窓がある明るい部屋に広々としたダブルベッドと枕が二つ並べて置かれていた。
「バニーさんとサニーさんってご夫婦なんですね」
「はい、まだ新婚3ヶ月なんで・・」サニーは少し照れて下を向いた。
「あ、そうなんだ、へえ・・・」
功夫がまさにその時、想像していたことをサニーが言い当てた。
「夜の夫婦生活でしょ、ちゃあんとあるわよ」
妄想しにくい事実をズバリ言い当てられて功夫は思わず視線を逸らせた。サニーはベッドルームのドアを閉めると、リビングの端に置いてあるスツールのようなオシャレな椅子に座っているバニーの上にミニスカの両脚を広げて対面で座った。
「ちゃーんとこんなふうにやるの、もち、パンツはこう下げてね」
「じ、実演やらなくっていいっすよ」
功夫は思わず眼を両手で覆った。
「ウフ、ウブなのね。まあ、火星人ってセックスにオープンだから」
「そ、そりゃ何よりで」
「この人モフモフなんで、キモチいいんだから、特に火星は赤道付近でも全然暑くないし、この人を抱いても汗かかないからね、あ、そうか、激しい時はやっぱ・・・」
「いや、も、もうその説明いいっすよ」
「で、俺の方はこの股間ジッパーを下ろすと・・」
「いや、もういいって、実演は」
「地球人ウブなのね、アハハハ」
2人に笑われて功夫は狼狽し、赤面している。
「と、とにかく商売の話ししましょうか、まずは桃を売るか、お肉にするかとか」
「そうですねえ」
バニーが文庫本サイズのタブレットを操作すると、空中に数字がホログラムで浮かび上がる。
「我々の調査だと、日本の桃5個分のサイズが火星桃。で、価格は火星桃1個が地球桃1個の4倍程度。
そして、日本では牛肉の霜降り100g価格の半値で同等質の火星熊鹿の霜降り肉が買えます。ということは、この2種類の商品に関する限り火星の方が絶対優位にあるわけです」
「ですよね」
「で、地球でリカードの比較優位説っていわれている経済理論をご存知ですか」
「あ、はい、オレ経済学部卒で一応修士も取ったので」
「へえ」
「今はマーケティングリサーチの会社勤めてるんですよ」
「そりゃ話が早いわね、きっと」
今度は垂れ下がったエクステの茶髪を撫でながらサニーが微笑む。
「この場合ですよ、桃の価格より、お肉の価格の方が火星には有利よね。だから、比較優位説に基づいて、有利な方を私たちが多く輸出すればお互いwin-winの関係になるってことね。だから火星からはお肉を多く輸出し、日本からは桃を買えばいいのよ。
もちろん、お互いの取引だから私たちも幾らかは桃を輸出し、牛肉を日本からも幾らか買う。そしてお互いの農業従事者を保護するために関税も幾らかはかけないといけないでしょう。
後は決済をどうするかですね。日本円と私達の通貨である火星円のレートを幾つかの商品でリサーチしたの。すると凡そ同等で交換できることが判明したから、当分は固定相場にしませんか。ほら、この通り、画面見て。
勿論これは大統領府と相談ね、先の和親条約ではそこまで詳細は詰められていないから、新たな通商条約を締結しないといけないことになるかもよ」
「あ、あの説明はそれでいいっすけど、サニーさん、さっきから余り脚を組み替えるのやめてもらっていいっすか、あの、そのね」
「あ、やっば。火星モードになってるわね、スカート短いんでパンツ見えるんでしょ、きっと。これ見せパンだから、ほら、可愛いピンクの水玉」
「ヒーッ、スカート捲らないでいいって、もう」
「当分の間、この飛行船にある在庫を試験的に販売するので日本円立てにしましょう」
今度はバニーが口火を切った。
「で、儲かった円で私たちが地球の桃を買って、火星で売る、まあ物物交換ですね」
やっと商談がまとまりかけた時、ドア上部に取り付けられている来客探知機のスクリーンに2人のサラリーマンらしき姿が映った。タブレットの操作で空中のホログラムにその2人が写り、話し始めた。
「私たち、秋林社出版、週刊プランボーイ編集部のものです。この飛行船にお住まいのサニーさんに、グラビア出て頂きたくて参りました」
つづく
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