第7話  不安と期待

  某国営放送


 「それではニュース解説、本日のトップニュースは火星との通商開始についてですが、いやあ、小芋坂こいもさか論説委員、いよいよ政府が本腰入れて検討に入りましたね。」

鯰溝なまずみぞさん、問題は火星の相手国、ベンジャミン共和国の体制なんですよ」


「と言いますと、やはり東ベンと西ベンにおける体制の相違ということですか」


「そういうことですね。まず政治の主導権は西ベンが取っていて、議会で全てが決定されるのですが、権威と言いますか、面子を重んじる東ベンの協力がないと物事が上手く進まないのです。


西ベンは大統領を元首とした上下議会制度、それに対して東ベンは日本や中国で近世まで続いた律令制ですからね。皇帝が君臨している。まあ日本の場合は近世になって有名無実化しましたけどね。


 今回、どうも西ベンの大統領、ペリーさんは東ベンの皇帝に勅許を得ないで日火和親条約を締結したようで、太宗火星帝は激怒してしまったようです。それでこのタヌキ軍団が、皇帝の勅令を受けて熊鹿を乱獲し、冷凍庫に大量秘匿するという暴挙に出たわけなんです」


「はい、さて画像が出ましたか、あ、出ましたね。画面左からポンタ、ポンチ、ポンツ、ポンテ、ポント、ポンチンポ、ポコチンポ、の七兄弟ですね」


「いやあ、鯰溝さん、国営放送でよく今のが全部放送コード無視で言えたもんですな、アハハ、ま、今までの貯蔵が大量にありますので熊鹿の供給は当面は大丈夫ということです」


「今後ベンジャミン共和国の政治的状況を注視したいですね、それでは次のニュースです・・・」


地球 東京 博士屋太郎の食卓


「おい、絹代、段々心配になって来たなあ、大丈夫かよ」


テレビを見ていた博士屋太郎は、アジの開きをつつきながら妻の方を見る。


「だってまだ肉の供給はあるっていうし、当面問題ないんでしょ」

「オメエ、あの火星人夫婦に一度聞いてみてくれよ」

「やだよ、アタシ宇宙人なんかと交渉出来ないって、ウルトラマンじゃあるまいし。お前さん、聞いとくれよ」


「よかったらオレが一度アイツらに聞いてやろうか?」


「功夫、いいのかい?」

「ああ、ウチの会社でもあの夫婦人気者だから写真欲しいってみんな言うんだよ。明後日有給取って、聞いてやるわ。一緒に写真撮ってくれって女子社員から矢の催促よ。UFOにも乗ってみたいしな、警察の貼った規制線のバリケードもこのパスで通れるんでしょ」


「そうだよな、我々八百屋家族は例外って言って、これくれたからな」


「済まないねえ、気を付けとくれよ。あの東大教授さん、お家へ帰っちまったけど、拉致なんて真っ平御免だよ」


「アハハ、任しとけって。ウチの出刃包丁隠し持って行くからよ」

「頼もしくなったな、功夫」


太郎は嬉しそうに功夫の肩を叩いた。


つづく





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