第6話 火星との通商、そして・・・

 「東京都北区、八百屋太郎周辺地域に、非常事態宣言を発出します。係争中の不動産売却地についてはマンション建設を白紙撤回し、火星からの通商飛行船に今後半永久的に停泊の権利を認めます。但し火星との通商窓口はこの区分だけとします」


 大泉首相は夜6時の記者会見で表明した。空き地にタワマンが建つという計画が白紙に戻って、日照権で係争中の住民に安堵の声が漏れた。


 「いやあ、火星人様さまでさあ。これで当分日照権が保障されましたでなあ」


 街角インタビューで高齢の男性が満面の笑顔で答える。


「そして今後の交渉もありますので、商取引時間を除き、バニーとサニー夫妻には新宿、パークハイアットホテルの最上階にお迎えし、そこを日本政府との交渉窓口とし、宿泊して頂きます」


「外交機密費ですか?」

「国民への情報開示はどうされるのですか?」


矢継ぎ早に記者から質問が乱れ飛ぶ。八百屋太郎も当分の間混乱を避けるため休業とされ、当分の間、営業継続支援金が支払われることになった。その間に火星桃と熊鹿の入荷も出来るので、夫婦は満足している。


 一方、その頃火星のベンジャミン共和国、東ベンでは政治的紛争が発生しようととしていた。


 東ベンの首都は太安タイアン、そして東ベンは皇帝、太宗火星帝が統治する律令国家である。


皇上フアンシャン、これは東ベンの主権を踏み躙る西ベン大統領の無礼千万な策動、直ちに通商を撤回させましょう」


 宰相、李安徳リアンダは声を荒げた。


 「少し待て、様子を見て策を練ろう。ペリーの奴め、こちらにどう報告するか、見届けてやろう」


 玉座に腰掛けて皇帝は顎鬚を撫でている。


 「そんな気楽なことを!ペリーはこの間、皇帝と太和殿タイハディエンで謁見した時も、三跪九叩頭さんききゅうこうとうの礼をしなかったではないですか。文武百官を揃えた公式行事に全く無礼千万。


 我が火星中華に君臨する皇帝になんたることか」


 「まあ向こうは民主主義とやらでうちの律令制とシステムが違うのでなあ、仕方ないちゃあ、仕方が・・・」


 「皇上がそんなことをおっしゃるから、ペリーはつけあがるんですぞ」


「それではこちらからも船を出して、熊鹿を持ってゆくか?」


「それが西ベンの奴ら、通商は自分たちだけで行うと、日本政府と条約を締結しやがって」


「ううむ、それは朕も許せん。そうだ、タヌキ軍団を呼べ、あいつらを使って西ベンを揺さぶるのじゃ」


つづく



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