第2話 東京、八百屋太郎の異変

突然地震のように大きな揺れと物音がして、博士屋太郎はかせやたろうは目が覚めた。


「なんだよう、もう少し寝ようと思ってるのに、んと」


寝返りを打って妻の絹代きぬよに囁きかけた。


「父ちゃん、でももう起きないと今日の仕込みもしとかないとね」


「そうか、運送屋の奴、この頃五分早く来やがるんだよな」

「野菜運ぶのも人手不足だからねえ、一度に回る軒数多いんだよ」


欠伸をして起きあがろうとすると、裏の空き地が妙に暗い。しかもあの広大な不動産売却地が何かで塞がっている。カーテン越しにいつもの眩しい太陽が差し込んで来ないのだ。


「ちょっくら見てくるわ」


欠伸をしながら裏口からスニーカーでパジャマのまま外へ出る。


「絹代お、て、てえへんだあ」


キッチンで湯を沸かしていた絹代は目を丸くした。


「なんだよ父ちゃん、功夫いさおが起きるじゃないか。あいつ会社しんどいって言ってたからもう少し寝させてやらないと」

「ゆ、ゆ、UFOがいるんだよ、裏の空き地に」

「へえ、何言ってんだい、あんた八百屋が近頃大変だからって、気がおかしくな、あ、あ、ゆ、ゆ」


絹代は目を見開いたまま棒立ちになってしまった。

朝日に輝いて、まるでジェラルミン製の航空機を思わせる金属で出来た巨大な円盤がそこには着陸していたからだ。


側面に赤い文字で「火星三号」と書かれている。


しかもその前には、人間の成人ほどのウサギの着ぐるみを着た人物と女子高生のように臙脂色のリボンを着けて、グレーのミニスカを穿いた茶髪の女性が機体のドアらしきところを後ろ向けに閉めていたからだ。


夫婦が見ていると、その宇宙人と思しき二人は前を向いて近づいて来た。太郎も絹代も硬直して動けない。すると女子高生の衣装を着た女性が右手を出して来た。


「グッモーニン、ナイストゥシーユー、私の名はサニー、マーシアン、火星人よ」


ウサギの着ぐるみも近づいてくる。しかも可笑しいことに着ぐるみの癖に表情が笑うし、口元が動くのだ。


「ハーイ、マイネームイズ バニー、ナイストゥシーユー」



つづく

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