第4話冒険者の夢

「シュラクとは絶対に身体の相性がいいと思ってたんだ。

 やっぱりだったよ……」


 毛布で肌を隠しながら起き上がったカワセミは、そう言いながら口をとんがらせてどこか不満げな表情をした。


 俺はそのカワセミのベッドに座り尋ねる。

「良くなかったか?」


 そう言いながらも、おおよそ人には到底見せられない顔とあえぎをあげて混じり合ってしまっているものだから、一緒の部屋にいることさえ気恥ずかしい。


「良かったよ!

 良過ぎておぼれるかと思ったよ!」

 バンバンとカワセミはベッドを叩く。


「俺もすごく良かった。

 溺れた」


 ぶーと普段のクールな様子と違い、年相応の若い娘の顔が可愛くて俺はその頬にキスを落とす。


 彼女はそんな俺の顔を押しのけ、言った。


「そういうのいらない。

 恋人とかしばらくは遠慮するよ。

 代わりに冒険終わりに性欲処理だけさせて。

 男と違って、女は都合の良い相手はそうそういないんだから協力して」


 たしかに女の場合、妊娠のリスクがある。

 妊娠すれば即冒険者は引退、職を失い路頭に迷うこともある。


 避妊をしっかりしてくれる相手ならばいいが、そういう相手ばかりではない。


 エウリエクはその点が緩かったのでカワセミは不満だったようで、むしろ俺の方が好都合と言われたことは喜んでいいのだろうか。


 それと冒険終わりとさらっと言うが、俺たち4人で活動しているときはほぼ毎日活動していた。


 その間隔でいけば毎日ということになるが……、いまそこを指摘するのは野暮やぼというものだろう。


 どのみち男の俺はそれほどにたぎってしまうので、それに付き合ってくれると言っているだけなのかもしれない。


「……これから、どうするかな」


 通常ならパーティは半壊したのだ。

 解散も視野に入れるべきかもしれない。


 そうは言っても、俺には冒険者以外で稼ぐ術は考えつかないが。

「シュラク。4人での夢、覚えてる?」

「夢か……」


 村を出て幼馴染4人、夢を語り合ったこともあった。

 この1年、がむしゃらに生きていたからそういうことも忘れていた。


 始まりは幼い頃に見た夢。


 幼馴染4人で冒険者になって世界を旅していっぱい冒険して、美味いものを食って綺麗なものをいっぱい見て、また4人で楽しく日々を暮らす夢。


 ありふれた、それでもこの世界で唯一のかけがえのない夢だった。


「……ぐっ」

 いつのまにか目から涙が溢れていた。


「んっ……」

 そんな俺をカワセミは頭から抱えるように、優しく抱き抱える。


「いまは泣こ?

 いっぱい泣こう?」


 泣きなさい、ではなくて、泣こう。

 ありふれた夢を抱えていたのは俺だけではないのだ。

 失ったものがぽっかりと空いて、それを2人で必死に肉体で埋める。


 そうしないと心だけでなく命も失ってしまいそうだから。


 俺はしがみ付くように裸のカワセミを抱き寄せ、そのままベッドの押し倒した。


 涙をこぼし、その涙がカワセミの涙と混ざり合うように。

 もがくように唇を重ね合った。


 俺たちはもう一度、失った夢と共に2人で溺れた。

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