第18話(18)説明と混乱

 午後、北奥の離宮の小ホールはラン以外の10人の稀人が集められ、喧しいことこの上ない。

 ホールの壁際はぐるりと女性近衛が等間隔に控え、娘達にも今日の担当の近衛が両脇を固めている。


 この女性近衛隊は我が国の伝統禁軍の名残で、女性に王位継承権優位があるために女性のみで構成されている。

 女性なのである程度の年齢になって結婚や出産や子育てで退職する者も多いが、復職する者も多い。

 現在の統率権はわたくしに任されており、戦のない今の世では主に公共事業に従事することが多い。

 王宮の警備や王立学園の警備や街の保安は男性の近衛隊や警備隊と共に行い、その他孤児院や救民院の様々な業務に従事している。

 孤児や救民のほとんどは他国、北方のアーシェンド王国の荒地から流れ着いた者だ。隣国のイース帝国では受け入れる力がないので、彼らが帝国内を通ることを補助することを認めていただき、我が国が受け入れている。

 イース帝国はつい15年前の皇位争奪で様々なことが不安定で立て直しで精一杯なのだ。


 さて、嫌なことを済ませてしまおう。


「皆様、ご足労感謝いたします」

 蜂の巣を突いたような騒がしさが止まる。

 幾人かはわたくしを睨め付けて敵意を隠そうともしない。


 彼女達の理想の姿の好みが揃いも揃って身長の低い華奢な体形でよかったと思う。

 決して背の高くないわたくしでも1人や2人なら制圧できそうだ。

 もっとも、それは女性近衛の役目だから安心している。


 ぐっと体に力を入れて話を切り出す。

「もう、お聞き及びの方もいらっしゃいますが…」

 娘達は出方を決めかねている様子だ。

「まず、皆様の『エルダー王国の花聖女と12人の守護者』と我が国は違うことをお伝え致します」

 ざわつく娘達。かまわず続ける。

「この国はエルダン王国です」

 娘達の反応を待たずに続ける。

 順に名前を上げ、現在の状態を告げる。

 第一王子ジウンは25歳で既婚、4歳の娘と2歳の息子がいる。わたくしが王位継承権第一位でジウンは第二位であること。彼の娘が現在第三位、息子が第四位。

 第二王子ダイルは21歳で既婚、今年娘が生まれた。彼が王位継承権第五位、むすめが第六位。

 ザイディー・シンダール侯爵令息20歳、わたくしの婚約者で2年後に婚姻し将来の王配であること。王位継承権は27位であること。

 ジリアン・エイナイダ公爵令息は21歳で既婚。

 セイディ・クルドー侯爵令息14歳で学園に在籍している。婚約者は内定している。

 エグゼル・シェイン伯爵令息19歳、婚約者と来年婚姻予定。

 ガイ・ナイアル伯爵令息16歳、学園在籍中で婚約者あり。

 ジグムンド・サンクルード伯爵令息22歳、既婚でもうすぐ第一子が生まれる。

 アンリ・サグワー伯爵令息26歳、既婚で3児の父。

 エリック・シュナウツ伯爵令息17歳、学園在籍。婚約者あり。

 エドガー・ダイクロン伯爵令息27歳、既婚で6歳の娘がいる

 ジュリア・クサンク伯爵令息12歳で未就学。


 ここまでざわめきを無視して一気に述べた。

 何かを言おうとする娘も見えたが、近衛が押さえつけていた。


「そしてあなた方は聖女ではありません」

 きっぱり断言する。


 そちこちで声が上がる。

「ウソよ!」

「悪役令嬢のいうことなんか!」

「いつか思い知るんだから!」

 などなど。

 無視して続ける。


「皆様のご希望にはそえないことが多くあることをお伝えいたします」

 学園の件だ。

「皆様のご希望、王立学園入学は認めません」

 畳みかける。

「皆様は早くて1年、遅くとも3年でご帰還できることがわかりました。それまではこの宮でお過ごしくださいませ」

「ウソよ!!」

 異口同音に否定の言葉が起こる。

「それから」

 とどめを刺す。

「皆様がお目当ての殿方に会うことはございません。またジウンやダイル、その他の既婚者や婚約者のいる方と色恋沙汰を望むことは禁じます」

 それでも娘達は食い下がる。

「愛があればいいじゃない!!」

 わたくしは嗤った。

「愛?愛など生まれません。会うこともないのですもの」

 ミサの奇声がうるさい。レイもだ。

「また、ジウン、ダイル、ザイディーを狙う者は反逆とみなし罪を問うことになります。それから王妃になることを望むものも国家反逆罪です。王位継承権順位を鑑みればおわかりになると存じます」


 小ホールはまた騒がしくなる。

 わたくしは手を振って近衛達に指示した。

「皆様をお部屋へ」


 娘達は半ば引きずられるように連れ去られた。


 護衛の近衛に伝える。

「決して部屋の外へ出さないように。食事や入浴の準備や部屋の掃除の時は1人は係りの侍女を警備してもう1人は娘を見張って。それ以外はあなた方も侍女も控えの間で過ごして娘達はよほどの時以外は放っておくこと。部離宮の警備は厳重に」

 もうひとつ付け加える。

「ラン嬢の部屋は教育係りの侍女を配置してください。少しずつ教えてあげて。何かあったら報告をお願い」


 一応の義務は終えた。しかし問題は終わらないだろう。

 明日は神殿に行かなくてはならない。マナを注ぐ日だ。

 ああ、早く返してしまいたい。


 罰を受けている神官達のことも考えなければ。

 この騒動で色々なことが滞っている。


 御前会議は2日後だ。

 憂鬱でたまらない。

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