第16話(16)11人の言い分と特徴〈サヤカ〉

 今日ははピンクの髪のサヤカ。確か瞳の色はブルー。

 この子の衣装は困ったわ。

 神殿ではピンクの薄くてヒラヒラしたドレスを着ていたけれど、ピンクにピンク…色彩感覚は大丈夫かしら?

 無難に白と生成りと淡いブルーのあっさりした衣装にしたのよね。サヤカにつかせた侍女から不満に思っている旨の報告が上がっているけれど。

 報告では相当な気分屋だそう。

 鏡を見てうっとりとご満悦だったと思ったらいきなり怒りだしたり、地団駄を踏んだり、泣き出したりするとか。

 わたくしについて「ひどい意地悪をされている」と訴えたり、「許してあげてもいいのに」と言ったりして、侍女達が怖がってやめたがっていた。今は女性近衛隊が交代でついているが、まだ半日しか経っていないのにいくつか報告が上がっている。


 何度も外へ出ようとしては止められて、「いや!助けて!誰かぁー!!」と奇声を上げる。窓を開けて助けを求めて叫ぶ。

 近衛隊士が「閉じ込めているわけではありませんし、私達はあなたの護衛なのです」といくら言っても聞かないらしい。

 彼女が言い募る言葉から推察すると、逆ハー狙いで最もお好きなのはジウン。未来の王妃だそうだ。

 つまりわたくしを排除してザイディーを篭絡した上でジウンの妃になり、他の男性も全て欲しいらしい。

 考えるだけで頭痛がするわ。

 これが実現したら我が国は堕落したと謗られ、他国にいる我が国の王位継承権上位を持つものが黙っていない。もちろん国内でもだ。


 それにしても奇行が過ぎる。

 わたくしも怖いわ。精神に異常をきたしていたらどうしましょう?でも神殿にいたのだから、異常はないとみなされていたのよね?


 ああ、頭が痛いわ。


 わたくし、基本的に可愛らしい女の子や美しい女性が好きなのだけど、今まで会った稀人達は1人も好きになれない。


 ザイディーに時々「あなたは王位に就いたら女性を集めた後宮を作るのではないかと心配することがあるよ」と笑われるほどだ。

「あら、後宮だった宮を改築して、孤児院や学校にしたいわ」と八割方本気で言うと「だから財政を引き締めて積み立てているわけだ」と真顔で言われてしまった。

 半分、いえ、七割八割本気よ?

「私は賛成だよ」と言うザイディーがわたくしは好きだ。

 穏やかにお互いを思いあってきたわたくし達の仲を裂こうとする娘達に、好意を持てるわけがない。

 そこが一番の理由なのかしら?


 それにしてもどの娘も先触れをしたにも関わらず、礼をつくさないどころか立って迎えもしない。挨拶もしない。


 サヤカはあからさまに不機嫌な様子でじっとりと睨んでいた。

 神殿から迎えた時も驚いたけれど、このピンクの髪は異常だわ。まるで被り物のよう。こんな色の被り物やヴェールを選ぶ人はいないけれど。


 わたくしは挨拶の後、一応お茶とお菓子の用意をエイベルとメイダに調えさせてサヤカを招いた。


 サヤカの第一声は怒声だった。


「私は聖女よ!!もっと大事に扱いなさいよ!!」

「十分厚遇致してますわよ?それにあなたは聖女ではありません」

 サヤカは口をポカンと開ける。まただわ。なんなのかしら?


「そんなわけないでしょ!!私は召喚されたのよ!」

「他の10人の皆様も聖女ではありません」

「だから私が聖女なのよ!!」

 全く聞き入れる気はないようだ。話を変える。

「何かご不便はございませんか?」

 サヤカはクワっと顔を歪めた。

「宮殿なのになんでこんなにショボいのよ!!」

 ああ、この考え方で神殿の予算を食い潰したのね。


 さっさと夢を砕いてしまいましょう。


 わたくしは『ハナシュゴ』との相違点を粛々と述べた。


「なっ!なんなのよ!!」

 サヤカは怒声ばかりだ。


「ウソつくんじゃないわよ!!じゃあなんで名前が同じの人がいるのよ!?あんただって設定と同じ見た目じゃない!?」

 存じません。


「あんたなんかぼやけた髪と目の不細工よ!!」

 わたくしの髪は灰色味の強い亜麻色で瞳の色は灰色だ。しかし当人に向かって「不細工」とは。

「不細工」と言われたから無礼打ちにするほど愚かではないけれど、腹は立つわね。

 そこそこの器量だと思っているからいいわ。

「私が皆様を幸せにしてあげるんだから!!」


 皆様、それぞれお幸せでいらっしゃるけれど。

 兄上達は子煩悩で、特に娘を「絶対に他所にはやらない」とまで言っているくらいだ。夫婦仲は大層睦まじい。義理の姉達は聡明で美しく優しい。

 他の方々も特に問題があるとは聞かない。


 娘達の夢は夢のままで帰還していただこう。


「帰還までの間はこちらで過ごしていただくつもりです。わたくしは当面の相談役として、何かございましたら、おつきの者に伝えてくださいませ。では失礼」

 わたくしは奇声を上げるサヤカを無視し退出した。

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