第6話 愛する人は愛してはくれなかった
「結婚なんて、ホント無理だわー。興味なさすぎ」
「まったくあなたって子は。もうとっくに適齢期に入っているのよ? 婚約者を決めないと行き遅れてしまうわ」
「いいのよ、叔母様。夢のない結婚なんて、うんざり」
やつれ、すっかり痩せ細ってしまった現王妃を目の前にして、私は悪態をついた。ベッドに横たわる王妃の艶やかだった青い髪は、すっかり影を隠してしまっている。
結婚前より細くなった体は細いという域を超えて、もはや病的だ。
全てが青白く、まるでどこからも生気を感じられない。
「そんなことより、本当にどうにかならないのですか? 叔母様……」
「もういいのよ、アンジュ。あなたがそうやって怒ってくれるだけで、十分だわ」
そう言って柔らかにほほ笑んだ。
叔母が床に臥せるようになって一年。
きっかけは毒を盛られたことによるものだった。
しかし世継ぎのいない叔母のことを心配する者など、この城にはほぼ存在しない。
そのため犯人も未だに捕まっていないという体たらくだ。
国王は王妃を娶ったあとすぐに側妃を迎えた。
王は初めから決められた結婚相手の王妃ではなく、側妃を愛していたのだ。
そう、運命の番であった側妃だけを。
だからこそ叔母との間に世継ぎが生まれることなどあるはずもなく、未だに白い結婚のまま。
そうなることなど結婚前から分かっていたのに、王太后は寵愛を受けられなかった叔母を責めた。
元から側妃と王太后の折り合いが良くなかったからだけで、叔母には何の非もなかったのに。
だけど側妃がと大臣たちからの圧力もあり、側妃として召し上げることを渋々了承した。
その後も側妃と王太后は仲良くなれるわけもなく、その怒りの矛先を王妃に向けたのよね。
政略結婚でしかなかったとはいえ叔母である王妃は、国王を愛していた。
結婚式のことは今でも思い出す。
控室での叔母は、愛した人と結ばれるという幸せに満ち溢れた顔をしていたのに。
それがたった五年で、こんな風に変わり果ててしまうなんて。
叔母は何も悪いことなどしていないのに……。
愛した人は自分を愛してはくれなかった。
ココまでならまだ、よくある話。
だけどそれ以上に最悪な、番というモノに自分の運命すらすべてを持っていかれてしまった。
しかもそのこと自体自分のせいではないのに冷たい目で見られ、未だこの監獄の様な王宮に囚われている。
「療養のために、領地へ帰る許可はまだ下りないのですか?」
「王太后様の許可がね……」
こんなになっても、まだココに叔母を縛り付けることに何の意味があるというの。
もういい加減、解放してあげてよ。
「私、もう一度かけ合ってくるわ。このままじゃ、叔母様がどんどん悪くなってしまうもの」
「無理をしてはダメよ、アンジュ。わたくしのことはいいの。あなたに何かあったら、お姉さまに申し訳が立たないわ」
「大丈夫よ。攻略のカギは王弟殿下様だと思うのよ。お近づきになって、お友達になって……」
「お友達ってアンジュ、あなたもいつまでも子どもではいられないのよ」
「叔母様、それはどういう意味ですか?」
「歓談中申し訳ございません。そろそろ侍医の先生の来るお時間となります」
控えていた侍女の一人が声をかけてきた。
王妃付きの侍女は、決して王妃の味方ではない。
ただ幸いなことに王妃へのあまりにひどい扱いに同情している者たちが集まっており、敵でもないことだけが救いだ。
「もうそんな時間だったのですね、すみません。また来ます、叔母様」
叔母の言いかけた言葉の意味はなんだったのだろう。
私は後ろ髪を引かれつつも、部屋を後にした。
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