第3話「急接近」
4月に実行委員が決まり、無事9月の体育祭が終わった。蓮のリーダーシップがそこでは光った。
体育祭は、大成功だった。みんな嬉々として、その時間を過ごした。
大きなイベントがようやく終わった。達成感でいっぱいだった。
小春はあとは卒業するだけだと考えていた。ある出来事が起こるまでは。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「青木さんここなんだ」
「あ、うん」
「俺後ろだから、よろしくね」
太陽の光が黄色い帯となって眩しく溢れる10月。風はなく、白い雲がところどころで浮かび上がっていた。
席替えをし、小春の席の後ろは蓮になった。
2人の運命が変わり始めた瞬間だった。
その日を境に蓮は小春に毎日話しかけるようになった。
「青木さんおはよう」
小春の横を通る時に小春の肩に手を置き、そして蓮は席に座った。
「おはよう」
小春は挨拶を返した。この挨拶は毎日欠かさず続いた。
蓮のことは嫌いだったはずなのに、次第に見る目が変わり出した。本当にくだらない話を毎日話す、ただそれだけで小春の心の糸がほどけた。
蓮の笑顔はいつも魅力的だった。小春の心は気がつくと温かくなっていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
秋が深まり冬の寒さに向かう季節。
トントン
後ろの席から蓮は小春の肩を二回叩いた。
「なに」と、小春はいつものように振り返った。
「青木さん、俺ら結構仲良くなったよな」
不意の言葉だった。まさか蓮がそんなことを思ってたとは。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蓮はよく小春にちょっかいをかけていた。後ろから小春の椅子を蹴るのが好きだった。小春のリアクションを楽しんでいたのだ。
小春は足を椅子の下に折りたたむようにしていた。そこに蓮の伸ばす足が当たる。
授業中当たってるのに、足を退けない2人。
意識するこの時間。
カチッ
(あ、また当たってる)
小春は蓮と足が触れるこの授業中の時間が大好きになっていった。
今思えば小春はこのときから、きっと蓮のことが気になってたんだと思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
卒業が近くなった1月。
小春は愛菜と将来の未来設計を書いていた。
16歳 甲子園に行く。
17歳 嵐のライブに行く。
18歳 いい大学に行く。
19歳 彼氏ができる。
・
・
・
30歳 結婚をする。
・
・
・
51歳
「青木さん何書いてるん」と、後ろから蓮が紙を取り上げた。
「ちょっと」小春は紙の方に手をやる。
〝51歳 俺と偶然の再会〟
と蓮は書く。
その紙は静香へと回りまた蓮へと戻った。
・
・
・
〝62歳 小春の子供と俺の子供 結婚〟
と蓮は書き記した。 小春は動揺していた。 こんな距離の縮められ方をされたのは、人生のなかで初めてのことだったからだ。
(なんなの、永瀬蓮って…)
初めて喋ったあの日からお互いの距離は、今や手の届くところまでやって来ていた。
ーーーーーーーーーnextーーーーーーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます