追放には理由があります!
星見守灯也
追放には理由があります!
ここは剣と魔法の世界。人々は富と名声を求めてダンジョンに潜る。
そんななか、あるパーティに不穏な影が忍び寄っていた。
古株事務員インベザがリーダーに呼ばれてきたのはとある酒場。
人の騒ぎから離れたところで、彼は意地悪そうな顔をして座っている。
リーダーの隣には人事係がいる。こちらもインベザをあざ笑うかの表情だ。
「ど、どうしたんですか、急に……」
ふうとゆううつな息を吐き、リーダーはキッパリと言い切る。
「インベザ、長くご苦労だった。おまえは、クビだ」
「え……」
理解が追いつかず、うろたえるインベザ。
「い、いま、なんて……」
「クビだ。追放する」
あっさりとリーダーはインベザを切り捨てた。
「そんな、いきなり……ひどいじゃないですか……」
リーダーも人事係も動じない。情がないのかとインベザは思った。
「……俺たちは今C級だが、B級に上がるための試験を受けようとしている。わかるな? ギルドの審査におまえの存在が邪魔なんだよ」
「わかりませんよ、ずっと影から支えてきたじゃないですか。経理から物品の調達からなにからなにまでボクが……」
そう、雑務の多くがインベザの仕事だったはずだ。
戦闘員のように目立たないが、縁の下の力持ちだと誇りに思っていたのに。
「ひどいじゃないですか! チートスキルを手に入れて『ざまぁ』してやりますからね!」
「チート(不正行為)か……」
リーダーが手にしたいく枚かの書類を叩いた。
彼だって言いたくはなかった。けれども自覚がないなら言わなければならない。
「おまえ、二百万グレンどこやった?」
「……え? なんのことですか?」
すっとぼけようとするインベザに、リーダーがたたみかける。
「収支が合わないんだよ。ギルドからの依頼はごまかしにくいが、問題は個人からの依頼だ。相場より安くないと仕事が来ないと言っていたのは誰だ? あと消耗品の発注量が多すぎる。廃棄量と合わない。いったい、誰が発注した?」
「なんかの間違いじゃ……」
「おまえをケンタウロスレースで見た。何度もな。スライムはじきもしているだろう? それに、最近白いペガサスに乗ってるそうだな」
「うう……いいじゃないですか、ボクがペガサスに乗ったって……」
リーダーは書類をめくった。文字がインベザのすべての不正を表していた。
「備品ももう古くて使えないということにして売っただろ。いくらになった?」
「そんな……」
インベザはそんなことまでバレていたのかと内心あせった。
「あと、勝手に他パーティに五十万グレン貸してるな?」
「だ、だって、困ってるって言われて……倍にして返すって言うから」
「だが、返ってこなかった。倍になったら差額は懐に入れるつもりだったのか?」
「……そ、そんなこと」
「いや、そもそも返すつもりもなかったのは知っていたよな?」
「い、いえ……ちゃんと、か、返すって言ったので……」
「いつまでに? 借用書は?」
「うう……」
弱いものいじめだとインベザは思った。
ほんのちょっとお金を借りただけじゃないか。いつか返そうと思ってたのに。
「このパーティは保険に入っている。おまえも知っているとおりだ」
「え? ああ、はい……」
「受けた損害を大きく申告していただろう? 保険結社が払った額と俺たちがもらった額が合わない」
「そんなことまで……」
インベザはガックリと肩を落とした。自分でも忘れていたのに。
「なんでこんなことをした」
リーダーは厳しい声で聞いた。興味はないが、聞いておかなければならない。
「だって……ボクだけ給料が少なくて……」
「戦闘があると危険手当がつくだけだ。基本給は同じ。言い訳にならん。……さっきも言ったが、B級以上はギルドの審査も厳しい。なので調べたら、まあ、出るわ出るわ……」
あきれたようにリーダーが首を横に振った。
「そういうわけで、ギルドとも話し合った結果、懲戒解雇とする」
「ギルドにも知られてるんですか!? 再就職できないじゃないですか!」
この期に及んでまだ自己保身かとリーダーは鼻で笑った。
それなりに信頼してきたが、少し信用しすぎたようだ。
こんなものを今まで見逃してきたとは、これからのパーティの体制もよくよく考えなければならない。
「返せばいいんでしょ! 返せば!」
「わめいても、もう遅い。当然、ギルドや保険結社の捜査も入るから覚悟しておけ」
なにもかもバレて気が抜けたようなインベザを、ギルドの兵が連れて行った。
彼の懐に入った金は、もはやすぐに返しきれる額ではない。
残った人事係がぼそりとつぶやく。
「何の罪悪感もなくチート(不正)ができるのもスキル(能力)ですね……」
追放には理由があります! 星見守灯也 @hoshimi_motoya
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