第159話 ある種の覚悟
「それじゃあ、次は二人組を組んで挑んでみようか」
バスラーダの言葉に、エイモン以外のメンバーの眉がピクリと動く。
一人でならともかく、一対二で戦えば先程の様にはいかない。
言葉にはせずとも……アラックたちの表情から、何を言いたいのか十分伝わってくる。
「アラックたちは気にしなくても大丈夫だ。アストは、君たちが思ってる以上に強いからね」
アストにプレッシャーが掛かる。加えて、アラックたちの闘争心を煽る。
結局アラックたちがその場で不満を口にすることはなく、今度は一対二の模擬戦が何度も行われた。
「ふぅーーーーーー。ヴァーニ、そろそろ昼飯の時間か?」
「そうだな……ちょっと早いが、それで良さそうだな」
普段通りの様子で会話を行うアストとヴァーニから少し離れた場所で、滝のような汗を流し、ケツか膝を地面に付けていた。
「まっ、その前にアラックたちが動けるようになるまで待たないとな……どうだ、お前ら。アストは強いだろ」
良き絶え絶え状態の後輩たちに、サラッと鞭を打つ。
「いやぁ~~~、もうマジで、強いっすよ~~~。なんで、そんな強いん、すか」
まだ呼吸が整わない状況で、エイモンは他四人の疑問を代弁した。
「ここに関してこそ、ソロで戦ってきたから、という理由が強いかな。複数の敵と遭遇して囲われたら、どうしても敵の位置を把握しながら戦わなければならない。まぁ、時折思いっきり走って逃げて、全ての敵を視界に入れたりもしてたけど」
「あぁ~~~~、なる、ほど……つっても、それって結構怖くないっすか」
アストがエイモンたちに伝えている内容は、一応理に適っている。
聞いて、確かにそうだなと理解出来なくはない。
しかし……それを実行出来るか否かは、また別問題。
「怖いな。怖いと感じるけど……基本的にソロで行動すると決めた以上、それぐらいは出来ないといけなかった」
「…………えっと、あれっすかね。覚悟の、違い……みたいな?」
「覚悟…………うん、そうだな。エイモンの言う通り、ある種の覚悟と言えるかもしれない。ヴァーニから聞いてるかもしれないが、俺の本業はバーテンダーで、冒険者は副業だ」
タイマン勝負で……その次は一対二の勝負で圧倒した後、負かした者たちの前で濁すことなくアストはあくまで冒険者は副業だと告げた。
その言葉に、エイモンは「こんだけ強いのに冒険者が副業とか、マジでやべぇ~~~~」と思っていたが、他四人の感想は全く違った。
アストにそのつもりはなくとも、間接的に自分たちは馬鹿にされていると……アラックたちがそう感じてしまうのも無理はなかった。
「そういうスタンスで活動してるからこそ、冒険者として活動する際……自分が決めた事を、スタイルを崩さないようにしようと思った。そうじゃないと、本業で冒険者として活動している者たちに失礼だと思ってな」
「っ!!!! ……ちっ!!」
アストの他の冒険者たちに対する思いを聞き、寸でのところで怒りに怒れなくなったアラック。
「だからこそ、その辺りは必死に学んだ。後は……エイモンたちの動きが、それなりに素直だったから対処出来たというのもあるかな」
「偶にそういう話を聞くっすけど、そういうのって、マジで解っちゃうものなんすか?」
「経験値が重なれば重なるほど、多分次はこうくるだろうなっていう予想が、現実と重なることが多くなるんだ」
「やべ~~、達人じゃん。けど、サンドラの動きとか、割と普通の動きじゃないっすよね」
「そうだな。普通の双剣技とは違うところがある。ただ、狼人族の動きの範疇ではある。不規則な動きには不規則な動きなりの規則性があるからな」
丁寧に説明を行うアストだが、話題に出されたサンドラは「不規則な動きには不規則な動きなりの規則性って……何それ?」と、やや頭が混乱していた。
「アスト、話の続きは食堂でしよう」
「あぁ、分かった」
アラックたちの呼吸が整ったところで、一度クランハウスにある食堂に移動し、昼食を取る。
その後、少しだけ食休憩を挟んだ後……今度は一対三の模擬戦が行われた。
ここまでくると、アラックたちも自分たちを嘗め過ぎじゃないかと怒りを抱くことはなく、ただただアストに対して一発は攻撃を叩き込みたいと、魔法をぶつけたいと……その思いだけを原動力として動き続けるも……結果は惨敗。
「それじゃあ、明日はダンジョンに行くから、残りの時間は急速に使ってくれ」
夕方まで訓練を行い、初日は念入りに力の差を教えて終わった。
(とにかく、根性はある奴らだったな……)
夕食を食べ終えた後、適当な場所でミーティアでの営業を始めたアスト。
お通しの準備を行う中、頭の中で改めてアラックたちの強さや、今後何を伝えていこうかと考えていた。
そしてお通しのスープが完成したころ、一組目の客が来店。
「いらっしゃいませ。お二人でよろしいでしょうか」
「えぇ、二人よ」
来店客は、今朝……事前にミーティアに訪れると伝えてきたリーチェと、その友人のマルティーだった。
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