第158話 理知的、ではない?
「「「「「…………」」」」」
「まぁ~~~、見事に落ち込んでるな」
「ヴァーニ、お前一応この子たちの先輩だろ。笑ってて良いのか?」
「それはそれで、これはこれだ」
ヴァーニからすれば、アストがクランハウスの訓練場に到着する前からアラックたちにしっかりと説明し、忠告をしていた。
だが、五人はヴァーニの話はしっかり聞いていたが、それでも本当に自分たちにアストという部外者の指導が必要だとは思っていなかった。
しかし………出会ってから約十分、アラック、ダリアン、エイモン、オーレリア、サンドラの順に一対一を五連続繰り返し……全て、アストが勝利した。
「アストはわざわざお前たちの得意分野に合わせてくれたのになぁ~~~……どうだ、お前たち。少しはアスト君に対して敬意を持ったか?」
ヴァーニの上司にあたるバスラーダは、ニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべながら後輩たちを煽る。
「ッ!! …………クソッ!!!!!」
赤髪の人族、アラックは自分がやられた戦い……同じクランに所属している同世代の仲間達がやられた戦いを思い出し、地面に拳を叩きつけながら怒りをぶちまける。
アラックは大剣で、ダリアンは細剣で……エイモンは弓、オーレリアは魔法。
サンドラは短剣と双剣を使い、アストに挑んだ。
対してアストはアラックとダリアン、サンドラに対してそれぞれが使う武器と同じ武器を使って戦い、エイモンとオーレリアに関しては遠距離攻撃を主に使って戦った。
ある種舐めプとも思える戦い方をしたアストだが、結果は五戦五勝の圧勝。
完全に差を見せ付けられる結果となった。
「いや~~~、なんて言うか、雰囲気に騙された~~、って感じだね」
そんな中、元々中立だったエイモンだけは直ぐに立ち直り、地面からケツを離した。
「そんな優しそうな雰囲気しながら、とんでもなく厭らしいっつーか、なのに上手過ぎっつーか……アストさんだっけ。もしかしなくても弓でも結構戦えるんじゃないっすか」
「いいや、そんな事はないぞ。弓に関しては、本当に素人に毛が生えた程度だ」
全く使えないことはないものの、本人が口にした通り、アストの弓の腕前は完全に素人ではないが、それでも森の中で使い慣れたエルフには敵わない。
無理矢理勝とうとするなら……まだ勝っている身体能力に物を言わせて勝つしかないが、それは今回の仕事に適さないやり方だった。
「本当っすか~~~。まぁ良いっすけど。にしても、エルフ的には……俺よりもちょっと上って感じっすよね」
「かもしれないな」
「なのに、超ヤバいっすね」
エルフ……といえば理知的な存在だと思われることが多い。
実際その通りのエルフは多いが、エイモンにはあまりそれが感じられず、寧ろバカっぽさすら感じる。
だが……まだ地面からケツが話せていない面々も、エイモンの言いたい事はなんとなく理解していた。
「俺は武器に触れるのが早かったんだ。師となってくれた人が柔軟な思考を持ってる人でもあったから、多くの武器に触れることも出来た」
「あぁ~~、な~るほどぉ……けどけど、ぶっちゃけアラックたちって全然弱くないんすよ。なのに、圧勝だったじゃないすか。それってどういうからくりなんすか?」
積極的に質問する中で、仲間を持ち上げた……かと思えば速攻で突き落とす。
そんなエイモンを面白い奴だなと思いながらも、アストは隠すことなく自分の考えを伝える。
「俺はソロで探索することが多いんだ。今は基本的にロングソードをメインとしているが、状況に応じて他の武器も実戦で使っている。だから、まだ若手のお前たちにも勝てたんだ」
「なるほどなるほど~~~。にしてもあれっすね、ソロで探索って結構キツくないっすか」
「そうだな。思ってたよりキツいことが多いが、今はもう慣れたよ」
「おいおい、アスト。今スルーしそうになったが、お前もまだ若手だろ」
「……そうだな。さすがにまだベテランとは言えないな」
ヴァーニのツッコミに、アストは小さく笑いながら……まだ項垂れているアラックたちの方に目を向ける。
すると、アストよりも先にヴァーニが口を開いた。
「ちゃんと感じたか、お前ら」
「ヴァーニさん……」
「世の中には、俺らと同じぐらいの歳であるにもかかわらず、アストみたいな色々とおかしい奴がいるんだ」
「おいおい、ヴァーニ。ちょっと説明が酷くないか」
「大体あってるから問題無いだろ」
その言葉には、バスラーダも苦笑いを浮かべながら同意するしかなかった。
「まぁ、まだ納得出来ないって気持ちは解るぜ…………俺も同じだったからな」
「同じ、って」
「昔俺やあいつらも、アストと戦ったんだが、コテンパンに負けちまったんだ。もう……一年半ぐらい前か」
一年半前に、自分たちが尊敬する先輩冒険者、ヴァーニがコテンパンに負けた。
彼等もバカではないため、一年半前であれば……アストは更に若いにもかかわらず、それだけの実力を有していたことを理解する。
「多分な、俺らから言われても、それこそアストから言われてもそう簡単に納得は出来ねぇ筈だ。俺もそうだったから、無理に納得しろとは言わない。ただな……今日、この場で起きたことは、忘れるな。忘れた時……お前らの成長はここで止まっちまうからな」
先輩からの有難い言葉を半分は理解出来なかったものの、アラックたちはゆっくり頷いた。
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