第157話 懐が深い?
「色々と話は聞いているよ、アスト。相変わらず活躍してるみたいだね」
「……どうも、ありがとうございます」
本職はバーテンダーであり、副業として冒険者活動を行っているアストにとって、相変わらず冒険者として活躍しているという言葉は……あまり素直に褒め言葉としては受け取れない。
だが、良き先輩冒険者であるバスラーダから褒められるのは、悪くない気分である。
「でも、それだけ活躍してると、よくスカウトされるんじゃないかい」
「ないとは言いませんが、騎士団の方に関しては俺の気持ちを理解、把握している方が多く、本気の誘いは減ってきているかと」
「それは嬉しいことだね」
「えぇ、本当に」
冒険者として全体的に視てスペックは平均を越えており、有している武具、アイテム……切り札も優れている。
だが、アストの立場は平民。
故に、権力のある者に強引に近づかれると、対抗する術は基本的にない。
だからこそ、バスラーダの言う通り、騎士たちが自分の気持ちを把握してくれていることに関しては、本当に嬉しく思っていた。
「にしても、また頼んじゃって悪いね」
「気にしてませんよ。それに……友人が、本気で頼んできた依頼ですしね」
「ふふ。ヴァーニが聞いたら、きっと照れるだろうね」
訓練場へ向かう道中、アストはバスラーダと軽く話し合い、すれ違う顔見知りの人物たち挨拶を交わし合い……ようやく到着。
「アスト。あの子たちがバカな事を言い始めたら、遠慮なくがつんとやっちゃって良いからね」
「……分かりました」
個人的に、教育的指導を好まないアストではあるが、この世界に転生し……一応副業ではあるが、戦闘職として活動しているからこそ、それがどれだけ重要なのかも十分理解している。
(ヴァーニの話を聞いてる限り、結構俺にはツンツンしそうな人たちらしいしな~~)
扉を開けて中に入ると、そこには先日ミーティアに訪れたヴァーニと五人の冒険者たちがいた。
「よぅ、アスト。もう来てくれたか」
「昼前にはこっちに来るって言っただろ、ヴァーニ。それで……そいつらが、お前の後輩たちか」
「あぁ、そうだ。お前ら、こっちに来い」
ヴァーニの言葉に、後輩たちは素直にアストの前まで駆け足で来た。
「お前から見て左からアラック、ダリアン、エイモン、オーレリア・ブランウェン、サンドラだ。今のところ、全員Dランクに到達してる」
「なるほど。俺はCランクの冒険者、アストだ。よろしく」
軽く自己紹介と挨拶をするアストに対し……アラックたちはやや不満を隠せてない表情のまま、大なり小なり頭を下げて挨拶をした。
(へぇ、ちゃんと挨拶は出来るんだな)
傍に居るバスラーダからすれば、やれやれと手で顔を覆いたくなるほど、挨拶と言えない挨拶。
しかし、冒険者を始めてから同期の中ではトップクラスでバカ絡みをされたことがあるアストからすれば、そういった者たちの中では不満げな表情をしながらも挨拶できるだけ上出来だと感じる。
「アストには、これからお前らの教師になってもらう」
「……俺らには、ヴァーニさんたちだけで十分なんすけど」
そう口にしたのは、ヴァーニと同じく赤色の髪を持つ男、アラック。
「正直なところ、この方からは教わるほどの強さを感じません、ヴァーニさん」
鬼人族であるダリアンは、その厳つい見た目に似合わない丁寧な言葉で……失礼をかますダリアン。
「俺は~、どっちでも良いっちゃ良いっすけどね~~~」
ヘラヘラと笑いながらそう応えるのは、エイモンという名のエルフ。
五人の中で、唯一中立と言って良い立場を取る……少年。
年齢はアストやヴァーニ、バスラーダよりも上だが、エルフ的にはまだまだ少年である。
「……魔剣士の方でしょうか。しかし、わざわざ煉獄が依頼をするほどの方の様には思えません」
前衛にしては、魔力量が多いと直ぐに感じ取るも、ダリアンと同じく初っ端から失礼をかます貴族令嬢出身の冒険者、オーレリア・ブランウェン。
「うちもダリアンと同じ意見ね。ヴァーニさんたちがいるし、意味無いっしょ」
同じく失礼をかますのは狼の獣人である狼人族のサンドラ。
(ん~~~~、清々しい程の言われよう。とはいえ、一部は間違ってないんだよな)
煉獄ほど大手と呼ばれるクランに成長していれば、わざわざ外部から臨時教師を呼ぶ必要はない。
しかし、ある程度回る頭に加えて、邪魔過ぎない程度のプライドを持っている者であれば、自分たちの前にいる冒険者はそれでもわざわざ依頼して呼ぶだけの価値がある者だと気付ける。
「……ふふ。昔のヴァーニたちと同じく、まず頭が固そうだな」
「「「「「っ!」」」」」
「だろ。だから、まずはどんな方法でも良いから、柔らかくしてやってほしい」
「解った。それじゃあ……まずは、一人ずつ戦ろうか」
ヴァーニがアストの軽い煽りを肯定してしまったため、アラックたちはその場で怒りが爆発することはなかったが……これから行われる戦いの中で、思いっきり爆発させた。
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