第132話 期待が勝った
「では、少しお待ちください」
探索初日は結局目当てのオーガと遭遇出来なかった。
そして日が暮れてきた頃、アストは調理器具などが揃っているミーティアを取り出し、本日討伐したモンスターの肉をメインに料理を作り始めた。
「す、凄い速い……」
「速いだけじゃなく、とても丁寧ですね」
人数がそれなりに多いこともあり、アストは凝った料理よりも、女性騎士たちが早く腹を満たせるように大量の肉をカットし、焼いていた。
(……もう少し、一気に焼きたいな)
コンロの数が足りないと判断したアストは直ぐに簡易コンロを用意し、そちらでも肉を焼き始めた。
「どんどん焼いていきますので、先に食べててください」
調味料を惜しむことなく使われ、丁度良い時間まで焼かれたワイルドベアの肉。
本来であれば、本日一番働いてくれたアストを差し置いて料理を食べるわけにはいかないのだが……野営という状況も加味して、簡易テーブルに置かれたワイルドベアの焼肉が非常に美味そうに見える。
「野菜も一緒にどうぞ。もう少しで、米が炊き上がります」
次々に食材が並べられていき……アストの表情から、完全に仕事モードに入っていると感じたアリステアは諦め、冷めないうちに食べ始めた。
団長が食べるのであればと、ウェディーたちも野営にしては豪華な料理に手を伸ばす。
(こんなところかな)
切りの良いタイミングでアストも料理を終了し、用意していた自分の分を食べ始めた。
「ふぅーー…………今、物凄く幸せだわ」
「同感ね。まだ、何も終わってないのに」
「アスト、本当にありがとう」
「どういたしまして」
全員腹が膨れ、本日の疲れが全て消えたと錯覚するほどの幸せ感を得ていた。
そんな中、大半が貴族の令嬢である彼女たちは、アストの料理の腕前を見たところで、なんとも思わない。
趣味でお菓子などを作るのであればともかく、結婚しても基本的に料理を作ることはない。
しかし、男であるアストが簡易的な料理とはいえ、素早く……そして丁寧に、自分たちの空腹を満たす物を作ったことに対し……何故か大きな大きな敗北感を感じていた。
「それにしても、アストは料理が上手いわね」
「ありがとうございます。ただ、俺の本業はバーテンダーなので、本職の方と比べれば負けてしまいますよ」
「……本当に、凄い経歴というか、特別な生活スタイルね」
今回討伐に参加している者たちは、一応話は聞いていた。
アストという人間は、冒険者活動はあくまで副業であり、バーテンダーが自分の本業だと語る。
今日、初めてアストと対面し、その戦闘技術の高さなどを目にした女性騎士たちからすれば、やはり頭の上に疑問符を浮かべざるを得ない。
ただ、ミーティアでカクテルを呑みながらイシュドと語り合ったアリステアだけは、アストが自分の本業はバーテンダーだと語りながらも、副業である冒険者としての活動に対し、ここまで精力的に動けるのかを理解していた。
そして夕食後、アストも見張りに参加しようとしたが、ウェディーたちに気にせず寝てほしいと言われた。
正直なところ、嬉しいと言えば嬉しい。
だが、雇われた冒険者として、自分の役割はしっかり果たさなければならない。
その為、いやそれでもと返すが、明日も自分たちの体力や魔力を温存する為に戦ってくれるのであれば、是非とも休んで欲しいと返された。
そう言われてしまうと、アストとしても返せる言葉がなく……有難く睡眠を取らせてもらうことにした。
翌日、目が覚めたアストはテントから出て、朝食のサンドイッチを作り始めた。
一応アリステアたちはアリステアたちで朝食を用意していたのだが、どう考えても
アストに任せておいた方が腹に溜まって満足出来る食事が食べられるため、食事に関しては全てアストに一任した。
(これは…………依頼期間が終われば、追加で報酬を渡した方が良いのでは?)
サンドイッチをもしゃもしゃと食べながら、アリステアはアストに対する報酬に関して考えていた。
先日、遭遇したモンスターの戦闘は、大半がアスト一人で終わらせてしまった。
その上、先日の夕食や今日の朝食を含めて、全てアストに任せてしまっている。
「では、行くぞ」
準備が整い、例のオーガを探しに出発。
(…………遭遇、出来るよな?)
探索中、アストは数日以内に遭遇して討伐出来るのか、不安に感じていた。
大抵、非常に強い目的を持って探索している時、そう簡単に遭遇出来ないというのが、アストの経験談。
そこを心配するなら、戦闘を殆ど一人でこなそうとしなければいいのでは? と思われるが、不安と同時に今回は早く遭遇できるのではという期待もあった。
そして数時間後……期待が心配に勝り、目的のオーガに遭遇。
ただし、遭遇したのは例のオーガだけではなかった。
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