第131話 逆に信用出来る

「アスト、よろしく頼む」


「冒険者らしく、報酬分の働きをしてみせます」


騎士団と共に、例のオーガを討伐する為に動き始める。


アリステアも含め、共に行動するのは全員女性。

そんな中に、アストが一人…………他の者たちが見れば、野郎は当然嫉妬に狂い、アリステアに対して敬意に近い感情を抱いている女性たちも同じく、嫉妬に狂って奥歯を噛みしめる。


多くの女性冒険者はパーラたちが笑顔で語っていたこともあり、アストがそこら辺の男性冒険者たちとは違うと解っている。

解っているが……それでも、嫉妬するなと言うのは無理であった。


そして、それは騎士団に所属しており……今回の討伐戦に参加出来なかった騎士や魔術師たちも同じ気持ちであった。


アストのお陰で、多くの同僚たちが殺されずに済んだ。

それに関しては本当に感謝しているが……それはそれ、これはこれ。

何故アストが選ばれて、自分が選ばれなかったのかと、悔しさで感情が爆発寸前。


とはいえ、アストに指名依頼した団長のアリステアにとって、多くの冒険者の中でアストを選んだのには明確な理由があった。


「アスト……本当に、良かったの?」


「えぇ、勿論。あの時…………正解だったとしても、覚悟の無い選択ではありましたから。それに、合わせることに関しては、それなりに自信があります」


ウェディーの問いに答えた通り、アストには他の冒険者たちより優れた戦闘における協調力を有している。


冒険者として活動するまでは主に一人で、もしくは剣の師である男と二人で訓練を行っていた。

だが、冒険者として活動していくうちに、臨時でパーティー活動をすることが増え……必要時には使うものの、普段の戦闘では出しゃばらないように動いていたアスト。

その積み重ねが、他の冒険者には協調力を身に着けることになった。


「そう…………それじゃあ、頼りにさせてもらうわ」


「期待に応えられるよう、動きます」


団長含め、ウェディーなど気さくに声を掛けてくれる。

それでも……今回の討伐戦に参加しているメンバーは殆どが貴族出身の令嬢たち。


そんな者たちに囲まれているということもあり、そこそこ緊張しており、口調も普段以上に固くなっていた。


(緊張、してるな。でも、これぐらいの言葉遣いの方が良いよな)


前世の記憶があるアストは、特に貴族だから……王族だから敬えと考える者たちの気持ちが理解出来ない。

それでも、本当に人々の為に戦い、敬意を持てる人物であれば敬語を使える。


面倒な事態に発展するのはご免だから敬語を使っている訳ではない。


「ッ、前方にワイルドベア。こちらに気付いています」


騎士として活動するなかで、斥候の才が開花した騎士がワイルドベアの接近に察知。


全員が武器を抜こうとするが、アストは真っ先に動き出した。


ウェディーたちは攪乱の為に先陣を切って動いてくれた。

そう思って後に続いて走り出したが……アストはワイルドベアの爪撃を躱すな否や、そのまま後方から飛びつき、ワイルドベアの首に腕を回した。


「「「「「「っ!!??」」」」」


まさかの行動に、後ろを取られたワイルドベアだけではなく、アリステアたちまで驚愕の表情を浮かべた。


「フンっ!!!!!!」


「ヒョっ!!!!???? っ、ァ…………」


右腕を首に回し、左手を側頭部に添えた瞬間、アストは全力でワイルドベアの首をへし折った。


当然ながら、全身に魔力を纏っており、強化系のスキルも発動し、ワイルドベアが接近していると把握した瞬間に脚力強化と腕力強化系のマジックアイテムを装着。


ブレイブ・ブルなどの奥の手を使ってないものの、本気で自身を強化したからこその瞬殺。


「終わりました」


「そのようだな」


「アリステアさん。例のオーガと遭遇するまで、基本的に遭遇するモンスターは俺が殺ります。皆さんは、体力と魔力を温存しておいてください」


「…………無茶な真似はしないでほしい、とは言えないな」


流れるように敵の攻撃を躱して背後を取り、首をへし折った。

その動きから、初めての行動ではないことを直ぐに見抜いたアリステア。


「アスト。私たちへの配慮は嬉しいけど……少しも躊躇しなかったの?」


首をへし折る。


モンスターを殆ど傷付けずに討伐する手段としては非常に有効な攻撃方法だが、それでもワイルドベアの腕の長さであれば、鋭い爪が後ろまで届く。


少しでもへし折るのが遅れれば、重傷を負ってしまう可能性が非常に高い。


「俺はパワータイプではないですが、俺が今回装備したマジックアイテムは信用出来るので」


「……た、確かに良い物ね」


自分の力ではなく、装備しているアイテムの力を信じている。


その言葉を聞いたアストのことを認めていなくはないが、それでも今回の討伐戦に参加させるのは違くないか? と思っていた参加騎士たちは……逆に信用出来てしまった。


アイテム、武器の力を自分の力だと勘違いしている輩たちよりも、素直にアイテムがあったからこそCランクモンスターのワイルドベアを討伐出来たと口にできる者の方が、よっぽど信用出来る。


ほんの一分以内の出来事ではあるが、ワイルドベアはアストたちが完全に一つのチームとして纏まる為の、ナイスな生贄となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る