第125話 安定感
「ふっ!! ふんッ!!!」
「ッ!!! シャっ!!??」
現在、二体のリザードマンと戦闘中のアストたち。
アストは予定通り、タンクとして動いていた。
普段と違って右手にはロングソードではなく、短槍を装備していた。
今日の仕事は攻めることではなく、守ること。
短槍の方が牽制、適度に攻撃するにはやりやすかった。
「ッシャ!!!!!!!」
「疾ッ!!!!!!」
アストが攻撃いなし、メインアタッカーの二人が攻める。
「恐ろしい対応力、ですね!!」
事前に連携訓練をしていた訳ではないないのに、アストは前衛のパーラとモルンの動きを考慮するだけではなく、後方からサポートを行うフィラとケリィーの動きもしっかりと把握しながら動いていた。
「本当に、凄い」
ケリィーもアストの動きを感心しながら、複数の風矢を高速発射。
もっと魔法砲台の様な攻撃も行えるが、Cランクモンスターのリザードマンが二体いても、アストが上手く抑えているお陰で前衛二人が非常に活き活きと動け……普段よりも魔力の消費を抑えられた。
「おりゃッ!!!!!!!」
「っ!!?? ゴ、ヴァ、ァ……」
最後は精細さを欠いた斬撃を躱し、懐に潜り込んだパーラの肘鉄が体内まで突き刺さり、そのまま心臓を破壊した。
「ぃよっしゃ!!!! やったね!!」
「お疲れ様」
「アストもお疲れ!! いやぁ~~~、超戦い易かったよ。普段ならもうちょい倒すのに時間が掛かってたよ」
「パーラたちの攻撃が十分、魔力を纏ったリザードマンに通用してるからな。体勢を崩して攻撃が当たる状態にしてやれば、そこまで時間は掛からないのは当然だろ」
メインアタッカーとして動いたパーラとモルンは自身の攻撃力が褒められ、少し得意げな笑みが零れる。
「やはり、もう一人ぐらい増やすべきね~~~」
「前々から、話してはいたね」
パーティーの人数が四人というのは、人数的には悪くない。
ただ、もう一人増えた方が、Cランクモンスターが相手でも、もっと安定した戦い方が出来る。
「…………アストはどう思う」
「外部の人間の俺に話を振るのか?」
「アストは私がこれまで出会ってきた冒険者の中でも、トップクラスで視る眼を持っていると感じた」
「……別に、そこまで大したことは言えないぞ」
そう言いつつも、トップクラスの……と褒められ、悪い気はしなかったアスト。
「確かに、もう一人……欲を言えば、タンクの役割を果たせるメンバーがいれば、間違いなく安定感が増す。観たところ、パーラとモルンは十分にリザードマンと渡り合えていたからな」
いくら優秀なタンクと言えど、体は一つしかないため、相手が複数いれば、一体の攻撃しか対応できない。
故に、メインアタッカーたちがソロでも十分に戦える戦力を有しているのは、非常にパーティーとして有難い。
「そうよね~~。パーラはいざとなったら逃げに徹することも出来るし」
「……………………ねぇ、アスト。うちに来なよ!!」
「俺の実力を評価してくれるのは嬉しいが、丁寧に断らせてもらう」
「即答!!!!????」
先程タンクとして適切な動きでリザードマンの攻撃を防ぎ、受け流した。
加えてパーラとモルンの動きだけではなく、後方からサポートしてくれるフィラとケリィーの動きも十全に把握した動きを見せてくれた。
事前にアストがどういった考えを持ちながら行動し、冒険者として生きているのか知っていた。
それでも、あれだけ完璧に自分たちの動きに合わせたパフォーマンスを見せられては、勧誘せずにはいられなかった。
勿論、多分無理だろうなという気持ちがあり、玉砕覚悟の勧誘という思いはあった。
だが……光の速さであっさり断られるとは思っていなかった。
「も、もうちょっと悩んでくれても良いんだよ?」
「そう言われてもな……勧誘されること自体は、嬉しいと思ってる。でも、俺がやりたい事というか、生き方というか……そういうのはこれから先、引退するまで変わらないからな」
「ふっふっふ、あっさりとフラれてしまいましたね」
「それはしょうがない。アストなら、Bランクのパーティーや、Aランクのパーティーも欲しがる」
「そういった誘いも、これまで断ってきたのだろう? そうなると……アストの生き方は、恋心を抱いた者、恋人などが現れない限りは変わらないか」
「……ノーコメントで」
これから先、冒険者は副業で、本業はバーテンダー。
多くの客に巡り合い、特別な一杯を提供する為に、街から街へ転々と……将来的には、国から国へ渡り歩くと決めている。
「やっぱりあれね~~。アストに初恋の人がいるなら、どんな人だったのか気になるわ~~~」
「さぁ、どうだろうな。とりあえず、俺は俺の生き方を変えるつもりはない。申し訳ないが……新しいメンバー探しも冒険者の醍醐味だろ」
どれだけ頼まれても、勧誘を受けることはない。
それでも、今日はパーラたちの為に最後までタンクとして働く。
そこが揺れることはなく、最後まで仕事を完遂した。
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