第124話 不得手は道具でカバー

(……どの依頼を受けようか)


現在、相変わらず多くの視線を向けられているアストだが、もう気にしたところで無駄だと誘っているため、完全に無視してクエストボードに貼られている依頼書を眺めていた。


「よぅ、アスト!!」


「っ、パーラか」


勢い良く背中を叩き、声を掛けてきた人物は、先日共に夕食を食べた同業者のパーラだった。


「聞いたよ。ウェディーたちを助けてくれたんだって」


「そうだな。流れというか、結果的にな」


「へっへっへ。どういう経緯とか知らないけど、ありがとね」


「……知り合いなのか?」


「そんなところ。他にもアストが参加した戦場にいた中に知り合いがいてさ。だから、お礼を言いたかったんだ」


「そうか」


別に礼など必要ない、当たり前のことをしただけだ……なんて事は言わなかった。

何故なら、仮にアストがパーラの立場であれば、知人友人を結果的に助けてくれた者に礼を言いたいから。


「んで、ボーとしながら何してんの?」


「別にボーっとしてた訳じゃない。ただ、どの依頼を受けようか眺めてたんだ」


「ふ~~ん? 割の良い依頼を探そうとはしないんだ」


「金遣いはそこまで荒くないからな」


アストの言葉に、直ぐ傍にいるパーラだけではなく、偶々二人の会話が耳に入った同業者たちの中にもグサっと何かが刺さるのを感じる者たちがいた。


「パーラは金遣いが荒いタイプだものね~」


「べ、別にそこまで荒くないし! って言うか、無駄遣いはしてないから良いじゃん!!」


「時折それで後悔してる様に見えるが?」


「うぐっ!!」


パーティーメンバーの二人に事実を突き付けられ、速攻で言い返せなくなり、ノックアウト。


「……ねぇ、アストは受ける依頼、もう決めたの?」


「ん? いや、まだ決めてない。別にこだわりはないんだが、これだって感じる依頼がなければ、適当に森を散策しようと思ってる」


「ふ~~~ん……それじゃあ、私たちと一緒に依頼を受けない?」


「あっ!! それ、私も言おうと思ってた!!! ねぇアスト、一緒に依頼を受けようよ。ちゃんと分け前は等分にするからさ!!!」


「…………分かった、良いぞ」


「良いの!!!!????」


「いや、なんで一緒に依頼を受けようって言ったパーラの方が驚いてるんだよ」


女性四組のパーティーと共に行動して活動するなど、がっつり目立ってしまうが、この街では既にそこそこ存在が知られてしまっていると、半ば諦めていた。


「だって、アストはこう……一人で依頼を受けたりするのにポリシー? があるのかと思ってたから」


「前に飯を食った時、臨時で組むことはあるって言っただろ。そんな変なポリシーは特にないぞ」


「そういえばそんな事言ってたよな……それじゃ、早くどの依頼を受けるか決めよう!!!!」


パーラ以外のメンバーも了承しており、そこで問題が起こることはなかった。



「そういえば、アストさんの役割を決めてませんでしたね」


街を出発してから、ゆるっとした雰囲気で重要なことに付いて話し始めた。


「……前衛が揃ってるみたいだから、タンクとして動いた方が良いかもしれないな」


「タンク? アストって、超アタッカーじゃないの?」


アストがウェディーたちを助ける為にオーガの群れとの戦闘に参加したい際の戦いっぷりに関して、ちょっとではあるが四人とも耳にしていた。


以前共に夕食を食べた時の話も含めて、全員アストは超アタッカーだと思っていた。


「基本的にはアタッカーだが、一応タンクも出来る。体格的には頼りなく見えるかもしれないが、そのあたりはマジックアイテムや技術でなんとか出来る」


そう言いながらアストはアイテムバッグから丸盾と複数の指輪を取り出した。


「……アストは、その…………随分と、懐に余裕があるのだな」


タンクが専門職ではないと言いつつも、アストの丸盾が並の物ではない一目で見抜いた細剣士のホルン。


「一応、ダンジョン探索をしてた時期もあったからな。この丸盾は、ダンジョン探索の際に手に入れた宝箱に入ってた物だ」


「指輪も、そうなの?」


「指輪や他のマジックアイテムは、ダンジョンの宝箱から手に入れた物もあれば、普通に店で買った物も…………後、盗賊団を攻め潰した際に手に入れた物とかもあるな」


「……羨ましい」


背の低い魔法使い、ケリィーは珍しく思いっきり感情を表に出しながら、アストの懐具合や所有しているマジックアイテムを羨ましがった。


「こればかりは、ソロで活動している者の特権としか言えないな」


「はぁ~~~、超羨ましいな~~~~……でもさ、偶に怖くなったりしないの?」


「冒険者として活動してれば、恐怖を感じることはある。ただ、ソロで活動しているからといって、怖さを感じたりはしないな」


「どうして?」


「パーラたちみたいな連中が声を掛けてくれるから、としか言えないな」


「なるほど~~!!!」


ちょっとおバカな部分があるパーラはただ純粋に納得し、アスト自身もただ本音を伝えただけである。


(多分、そういうところが引き寄せるんでしょうね~~)


(一目で無意識というのが解る……ある種、質が悪いのか?)


ただ、大人な女性であるエルフのフィラと、細剣士のモルンはアストが無意識に異性を落してる対応を把握し、両者それぞれ心の内であれこれ感想を零していた。


因みにケリィーはパーラと気付いておらず、マジックアイテムを手に入れる為に節約を頑張ろうかと考えていた。

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