第121話 虚しい強さ
「改めて、本当にありがとう」
「もうお礼の言葉は何度も訊きましたよ」
オーガの解体を長時間かけて終え、アストはウェディーたちと共に街へ向かっていた。
「そうは言うが、あの時……アスト君が助けに入ってくれなければ、あの危機的状況を乗り越えられたとしても、何人かが亡くなっていた」
今回、リーダーとして動いていたウェディーの言葉を否定する女性騎士は、一人もいなかった。
「君は、私たちの命の恩人だ」
「……であれば、ウェディーさんも部下の方々を救った恩人だと思いますよ。世の中には、冒険者なんかの、同業者の助けなど必要ないと断る方もいますから」
ウェディーも含めて、学園出身である女性騎士たちは記憶を振り返ると……アストの言葉に該当するであろう男性を思い出し、苦笑いを零す。
「確かに、そういった者たちがいるのも否定出来ない。ただ、私は遭遇したモンスターの殲滅よりも、仲間たちの命を優先しなければならない。それが出来ない強さなど、むなしいものだからな」
「……良い考えかと」
「ありがとう。しかし……あれだな。アスト君が女性冒険者であれば、是非ともスカウトしたかったな」
ウェディーの言葉に、多くの女性騎士たちが何度も頷き同意する。
一組のパーティーであればともかく、あの戦況ではソロの冒険者が一人加わったとしても、戦況を盛り返すのは非常に厳しい。
だが……アストは参戦するや否や上手くオーガの戦況を削る攻撃を行い、女性騎士たちの動きを邪魔しないように動いていた。
風刀から放たれた斬撃、オーガグラディエーターの動きを硬直させた掌底なども含め、ただ暴れて敵の戦力を削るだけではなく、自分たちの為にサポートをメインに動いてくれていたのだと気付く。
「そう言ってもらえると光栄です。ただ、俺は冒険者の方が性に合ってるので」
「そういえば、ソロで行動してたようだが、パーティーは組んでいないのかい?」
「えぇ。色々事情もあって、ソロで活動してます」
色々事情があって。
言葉を濁すような言葉を使ったアスト。
本人としては、ただ細かく説明するのが面倒だったので、適当に答えただけだった。
ただ、女性騎士たちは無意識にどんな事情を有してるのか考えてしまう。
(ソロで活動する事情…………彼の強さを考えれば、どんな戦闘でも一人で事足りるから?)
(年齢は、まだ二十を越えてない? だとすれば、冒険者の中で彼と同程度の実力を持つ同年代の冒険者がいないから?)
(冒険者パーティーの中でも、一人が頭一つ実力を持っていることはそこまで珍しくない筈……でも、冒険者たちはあまり年齢を気にせずパーティーを組むことも珍しくない…………他にも何か理由があるのか?)
(彼……良く見てみると、カッコ良いわね。貴族出身の騎士たちと違うタイプのカッコ良さ。それに、あれだけ見事な活躍をしながら、驕った態度を一切見せない余裕……二十代前半、もしくは十代後半の落ち着きじゃないわね)
(強くて、顔もそこそこ良い。そして驕らない態度に、女性を下に見るタイプでもない。もしかして……異性にモテ過ぎるから、同性の冒険者とパーティーを組めない? それなら女性の冒険者と組めば………………それだと、同性の冒険者から妬みを買っちゃうか~~~)
あれよこれよと色々と考える女性騎士たちの中で、何名かはアストが固定のパーティーを組まない理由の一つを当てていた。
「そうか……しかし、ソロで活動しているのであれば、何度か勧誘されたことがあるんじゃないのか?」
「ありがたいことに何度か。けど、俺は旅をしながら冒険者として活動するタイプなので」
(旅をしながら、か。そういった理由であれば、私たちと同じ騎士から勧誘を受けても、断ってしまうかぁ……ん~~~~、惜しいな)
先程の戦闘で、心の底からアストが参戦してくれたことに感謝している。
ただ、あの戦闘でのアストのパフォーマンスが、マックスではない事に気付いていた。
(正直、彼なら……男性であっても、スカウトしたい。一部の者たちからは非難が
出るかもしれないが、それだけの価値を感じる)
そう思うウェディーだが、街に到着するまでは他愛もない会話をするだけで、再度騎士団に入団しないか……騎士の道に進まないかと提案することはなかった。
アストという冒険者と面識を持てた。
それだけでも良しとするしかなく、これ以上しつこく勧誘すれば、良好とは言えない関係になるかもしれないと、冷静な判断を下した。
(さて、今日は開かないとな)
夕食を食べ終えた後、アストは適当な場所を見つけ、ミーティアをオープン。
お通しの鶏肉と茸のスープを作り終えてから数分後……一人の客が来店。
(っ……なるほど、この人が……パーラたちが絶大な敬意を抱いてる現団長の女性騎士か)
来店客の美しさと強さに内心、猛烈に驚きながらも平静さを装い、接客を行う。
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