第120話 事前に用意していた

(まだ、オーガの数がそれなりに多いな)


解ってはいたことだが、アストといえど余裕をかましていたらヤバい。


(集中しろ、俺)


アストはまだそれなりの数がいるオーガ、後方のジェネラルとグラディエーターを討伐することが仕事ではない。


女性騎士たちがオーガを討伐するのをサポートする。


「シッ!!!」


「っ!!?? ガアアアアアア゛ア゛ッ!!!」


アストが狙う箇所は、指、手首、足首。


手首や足首に関してはそのままスパッと切断出来た方が良いのだが、アストはそこまで深く拘らない。


武器を持つ手、移動に絶対に必要な脚。

そこに異常を与えれば、ただダメージを与えるだけではなく、行動を制限することが出来る。


「せやっ!!!!!!!」


「ガっ!!!???」


アストは対峙したオーガに対して一振り、もしくは二振りほど斬撃を与えれば、直ぐに別の個体へと向かう。


オーガとしては「待てコラ、ふざけんな!!!」と怒鳴り散らかしたいところだが、アストだけに注意が向いてしまえば、死角からまだまだ戦える女性騎士たちが襲い掛かる。


攻撃力だけではなく、防御力もそれなりに高いCランクモンスターのオーガではあるが、無防備に背を晒す様な真似をすれば……女性騎士たちの一撃で首を刎ねられる、もしくは心臓を貫かれる可能性は十分にある。


「破ッ!!!!!」


「「「「「っ!!!???」」」」」


加えて、途中参戦したアストは魔力がほぼ満タン状態。


時折多数のオーガを巻き込む風の斬撃刃も放ち、オーガたちの動きを抑制する。

どの攻撃も女性騎士たちを巻き込まない、邪魔にならない。


アストが戦場に加わってから、たった数分で戦況は女性騎士たち有利に傾いていた。


「っ!! フンッ!!!!!!!!」


だが、敵も黙って見ている訳ではなく、グラディエーターが重厚な斬撃刃をアストに向けて放った。


幸いにも迫る斬撃刃に気付き、渾身の抜刀でなんとか相殺することに成功。


(クソ……なんて重い斬撃刃だ)


相殺に成功はしたが、手に痺れが残った。

今の自分の技量では難しいと判断し、アストは風刀をアイテムバッグにしまった。


「ガァアアアアアアアアアアッ!!!!!」


グラディエーターが本気で動き始め、戦場にBランクモンスターが入場。


アストは身体強化だけではなく、脚力強化のスキルも同時使用。


「伝える事に、意味がある。我を通せ」


詠唱を行いながら、アストは左手で女性騎士にジェスチャーを送る。


「ストレート」


詠唱が完了後、グラディエーターの大斬を躱して懐に潜り込み、掌底を叩き込む。


スキル、カクテルの技であるストレートを使用したことで、掌底には貫通効果が

付与された。


「ッ!!??」


結果として衝撃が体内に入り込むも、そのまま心臓を破壊することは出来なかった。

しかし、衝撃は心臓だけではなく肺にも伝わり、グラディエーターの動きが硬直。


「ハァアアアアッ!!!!!」


事前にジェスチャーでこれからアストが何かしらのアクションを起こすと知らされていた女性騎士は大きく跳躍し、眼玉からレイピアを突きによって脳を破壊。


鍛えようがない眼玉を貫かれ、脳まで傷付けられたグラディエーター。


「念の為、な」


「っ!!!! っ」


再び帯剣た愛用のロングソードで、念の為グラディエーターの足を切断したアスト。


(さて、どうす、る………………オーガらしくはないが、適切な判断だな)


警戒しなければならないもう一体の強敵に目を向けると、元居た場所に姿はなく、離れた場所に背中が見えた。


「負傷者もいることですし、ここまでにしませんか?」


「…………そうですね」


まだ動ける女性騎士たちの奮闘もあり、ジェネラルとグラディエーターが率いていたオーガは全て討伐することに成功した。


女性騎士たちとしては、ジェネラルも討伐したいところではあるが、自分たちの疲労具合が把握出来てないほど愚かではなかった。


「それと、助太刀感謝します。私は騎士団に所属するウェディー・レパスです」


「俺はCランク冒険者のアストです。最悪の状態になる前に助太刀出来て良かったです」


重傷者はいれど、ポーションで治せる範疇の怪我。

だが、アストが助太刀するのはもう数十秒ほど遅れていれば、死者が出た可能性は十分にあり得た。


「アスト、か。本当に……ありがとう。誰一人死者が出なかったのは、君のお陰だ」


「いえいえ、俺は動きたいように動いただけなので」


「……どうやら、冒険者らしくない謙虚さを持ち合わせてるようね」


珍しいタイプの冒険者だと思いながらも、ウェディーは直ぐ本題に入った。


「さて、できればこのオーガたちについて話し合いたいのだけど」


「あっ、俺は偶々助太刀しただけなので、素材は結構ですよ。止めを刺したのはウェディーさんたちなので」


一応……一応間違ってはおらず、アストはあくまでオーガたちが動き辛くなるような攻撃を行っていただけで、止めを刺したのは全てウェディーたち女性騎士。


「っ…………色々、伝えたい事はある。ただ、助けてもらった身として、そういう訳にはいかない」


「それなら、グラディエーターの魔石と、オーガの魔石を幾つかいただけますか。俺はそれで十分で」


魔石はモンスターの素材の中で、最も高価な素材である。


ウェディーたちがそれで納得するかはさておき、アストは事前に自分はそれで構わないのでという答えを用意していた。

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